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恋人に浮気されて意気消沈した俺はお隣に住むデカすぎる美人三姉妹に死ぬほど溺愛される  作者: かくろう
第3部

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第67話 胡桃の孤独な夜


白峰家のリビングは、いつもより少し静かだった。


夕食後の片付けを終えた三姉妹は、それぞれソファや床に腰を下ろし、思い思いの姿勢で時間を過ごしていた。


葵は窓際の椅子に座り、髪を指でゆっくりと梳きながら、外の暗い庭を見つめていた。

表情は穏やかだったが、指の動きが時折止まり、視線が遠くにさまよっている。


澪は床に長く脚を伸ばし、壁に背中を預けたまま無言で天井を眺めていた。

髪が肩から滑り落ち、普段よりさらに言葉が少ない。

時折、指先で膝の上で組んだ手を強く握りしめ、すぐに緩める動作を繰り返していた。


雛はソファの端に丸くなり、クッションを抱きしめながら足をぶらぶらさせていた。

いつもなら元気いっぱいに話しかけてくるのに、今日は珍しく口数が少なく、時々ため息を小さく漏らしていた。


三人はそれぞれ別のことを考えながら、同じ空間にいた。


葵が静かに口を開いた。


「胡桃ちゃん……最近、ますます顔色が悪いわね」


澪が低い声で応じた。


「……毎日、黒峰から連絡が来ているらしい」


雛がクッションをぎゅっと抱きしめ、唇を尖らせた。


「胡桃ちゃん、笑顔を作ってるけど……本当はすごく怖いんだと思う。

私、なんか胸がざわざわして……悠真が胡桃ちゃんのこと心配してるの見ると、嬉しいような、悔しいような……」


葵が小さく息を吐き、髪を耳にかけた。


「私も同じよ。

助けたいと思う気持ちは本当にある。

でも、悠真くんが胡桃ちゃんを『守りたい』と言った瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。

私たちより小さい子が、悠真くんの隣に並んだら……どうなるんだろうって」


澪が膝を抱え、静かに続けた。


「……ゆーまは優しい。

だから胡桃を守ろうとする。

でも、それが私たちからゆーまを遠ざけることにならないか……考えると、眠れない」


雛がクッションに顔を埋め、くぐもった声で言った。


「雛も……胡桃ちゃんが可哀想だと思うよ。

でも、悠真が胡桃ちゃんに優しくしてるの見ると、なんか……胸が苦しくて……

私たちだけじゃダメなのかなって、思っちゃう」


三姉妹の言葉が、部屋の中に静かに落ちた。


誰もすぐに次の言葉を続けなかった。


沈黙の静寂が流れる中……やがて雛から口を開く。


「なんか、やだね……雛達、3人とも……」


続く澪も、同じ気持ちを吐露した。


「そう……胡桃、大変。でも、心配なのは、自分達のことばかり」


冷静を装って目を閉じていた葵も、ソファに背中を預けて脱力した。


「ええ……嫉妬、だよね。浮島凪沙の時とは、真逆になっちゃってる。悠真くんの心が、胡桃ちゃんに奪われちゃうかもって、怖くなってる……。ねえ、2人とも」


「何?」

「どうしたの、葵ちゃん」



「いっその事、胡桃ちゃんも迎え入れちゃうのは、どうかな?」


「え?」

「どういうこと?」


「胡桃ちゃん……悠真くんの事が、大好きだもん。気持ちの強さは、私達と、きっと変わらない」


「そう……」

「うん、いいと思う! でも、まだ早いよ」


「ええ、そうね。澪、雛。必ず胡桃ちゃんを助けましょう」


「当然」

「うん!」


「それに、さ。今の悠真くん、凄く格好いいよね」


「そう、ゆーま、頼もしい……。素敵」


「誰かを助けようとする悠真、格好いいよね!」




葵がゆっくりと立ち上がり、窓辺に寄った。


「悠真くんは、私たちを一番に思ってくれている。

それだけは信じているわ。

でも……胡桃ちゃんを放っておけないのも、悠真くんらしい。

だからこそ、私たちもちゃんと向き合わなくちゃいけない」


澪が壁から背中を離し、短く頷いた。


「……協力する。

ゆーまのためなら」


雛がクッションをぎゅっと抱きしめたまま、明るく、でも少し涙声で言った。


「うん……雛も頑張る!

胡桃ちゃんを助けたい。でも、悠真は絶対に、私たちの悠真だからね!」


リビングの空気は、まだ完全に晴れなかった。


三姉妹の胸の中には、胡桃ちゃんへの同情と、悠真を取られたくないという強い気持ちが、複雑に絡み合っていた。


それでも、三人は少しずつ、同じ方向を向こうとしていた。



◇◇◇


【胡桃視点】



胡桃はベッドの端に腰を下ろし、スマホを両手で強く握りしめていた。


画面に表示されたメッセージは、どれも短く、容赦なかった。


【顔合わせは確定事項です。

欠席された場合、桃峰家の財務状況に関する資料を関係各所に提出いたします】


【お父上からも、期日厳守の指示が出ています。

これ以上の遅延は、桃峰グループ全体に深刻な影響を及ぼします】


胡桃は指を画面に押しつけたまま、息を詰めた。


部屋の空気が重く、胸にのしかかる。


父親からの着信が、再び震えた。


出るべきか迷ったが、結局指が勝手に動いた。


「お父さん……」


「お前、まだ顔合わせを拒否しているのか?」


父親の声は、苛立ちを隠そうともしていなかった。


「もう限界だ。

黒峰側は本気で怒っている。

お前がいつまでも逃げ回っているせいで、会社は資金繰りが立ち行かなくなっている。

分かっているのか?」


胡桃の喉が、ぎゅっと締め付けられた。


「私……本当に、あの人と会うのは嫌なの。

ただ顔を合わせるだけでも、息が苦しくなる……」


父親は短く舌打ちをした。


「嫌だ?

お前は桃峰家の人間として、何を優先すべきか、考えたことがあるのか?

もう甘えたことは言っていられない。

来週の顔合わせには必ず出ろ。

それができないなら、お前はこの家にいられなくなるぞ」


電話が一方的に切れた。


胡桃はスマホを握ったまま、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。


天井がぼんやりと滲んで見える。


涙がこぼれ落ち、枕に染み込んでいった。


「どうして……私だけが、こんな目に……」


声を出さずに、ただ肩を震わせて泣いた。


部屋の中は静かで、誰も助けてくれない。


ただ、黒峰からのメッセージだけが、スマホの画面で冷たく光り続けていた。


◇◇◇


私はベッドの上でゆっくりと目を覚ました。


カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋の壁を淡く染めている。

いつもならその光に少しだけ希望を感じるのに、今日は胸の奥が重く沈んだままだった。


スマホを手に取ると、画面には昨夜届いた黒峰側からのメッセージがまだ表示されたままだった。

短い文面が、何度も何度も目に焼きついている。


「今日も……同じことか」


小さく呟きながら、私はベッドから降りた。

制服に着替え、鏡の前で髪を整える手が少し震えていた。


「悠真ちゃん……」


鏡に映る自分の顔は、明らかに疲れていた。

笑顔を作ろうとしても、目元がこわばってしまう。


玄関のチャイムが鳴ったのは、ちょうど靴を履き終えた頃だった。


ドアを開けると、そこに立っていたのは悠真ちゃんと三姉妹だった。


「胡桃ちゃん、おはよう!」


雛ちゃんが明るく手を振ってくる。

その後ろで葵ちゃんが優しい笑顔を浮かべ、澪ちゃんが静かに頷いていた。


悠真ちゃんが少し心配そうな目で私を見つめた。


「一緒に登校しよう。……大丈夫?」


私は慌てて笑顔を作り、頷いた。


「うん、大丈夫だよ。みんな、迎えに来てくれてありがとう」


四人で並んで歩き始めた道は、いつもより少しだけ長く感じた。


悠真ちゃんが隣を歩き、三姉妹ちゃんが自然と周りを囲むように歩いている。

その温かさが、私の胸にじんわりと染み込んでくる。


でも、心の奥では別の声がずっと響いていた。


(今日も、黒峰の人から連絡が来るかもしれない……

お父さんからも、また同じことを言われる……)


私は笑顔を保ったまま、そっと息を吐いた。


学校に着くまで、みんなが気を使って話しかけてくれる。

雛ちゃんの明るい声、葵ちゃんの穏やかな言葉、澪ちゃんの静かな視線、悠真ちゃんの優しい気遣い。


それが嬉しかった。


でも、同時に、胸が痛くなった。


(私は……みんなに迷惑をかけているだけなんじゃないか)


放課後が近づくにつれ、私の足取りは自然と重くなっていった。




そして放課後。


校門を出た瞬間、黒い高級車がゆっくりと近づいてくるのが見えた。


後部座席の窓が開き、見覚えのある冷たい目をした男が私をじっと見つめた。


「桃峰胡桃さん。

お迎えに上がりました」


私の体が一瞬、凍りついた。


男が車から降りて、素早い動きで私の腕を掴んだ。


「っ……離して!」


私は必死に腕を振りほどこうとした。

足を踏ん張り、体を後ろに引く。

でも、男の力は強く、私の小さな体は簡単に引きずられていく。


「いやっ! 放して!」


叫びながら抵抗したが、男は無言で私の腰を抱え上げ、車の中に押し込もうとした。


「悠真ちゃん! 悠真ちゃん、助けて……!」


私は必死に手を伸ばし、悠真ちゃんの名前を叫んだ。


次の瞬間、強い力で車内に押し込められた。


ドアが勢いよく閉まり、ロックされる音が響いた。


「いやっ! 開けて! いやぁあああ」 


私はドアを叩き、窓を叩き、必死に叫び続けた。


「悠真ちゃん! みんな! 助けて……!」


車が急発進した。


窓の外で、悠真ちゃんと三姉妹ちゃんが必死に追いかけてくる姿が小さくなっていく。


私はドアを叩きながら、声を枯らして叫んだ。


「悠真ちゃん……! 悠真ちゃんっ! いやぁああっ!」


黒い車は、私を乗せたまま走り去った。


「ふっ……ようやく会えたな」

「え、あ、あなたは……」


ヘドロを煮詰めたような気持ち悪い声に、思わず振り返る。


「く、黒峰さん……」


車内は酒と革の匂いが混じり、息苦しいほどに重たかった。

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