第54話 函館最後の朝と、4人の約束
旅館の大広間で朝食の時間になった。
広々とした和室に長いテーブルが並び、修学旅行生たちが席に着いている。
朝食は和食だった。
白いご飯、焼き魚、味噌汁、納豆、卵焼き、海苔、漬物……シンプルだが丁寧に作られた朝の定食が並んでいる。
片や男子たちは、昨夜の覗き未遂の罰として「朝食抜き+謹慎」を食らっていた。
彼らは廊下の端に並べられた簡易席で、味気ないおにぎり一つと味噌汁だけを恨めしそうに食べている。
一方、俺は女子たちの中心に座らされ、完全に幸せハーレムの状態だった。
三姉妹が俺を囲み、他の女子たちも自然と近くに集まってきている。
葵が俺の左側に優しく寄り添い、温かい味噌汁を注ぎながら微笑んだ。
「悠真くん、焼き魚、骨を取ってあげるね。
たくさん食べて、今日も元気を出して」
雛が右側から俺の腕に絡みつき、元気いっぱいに笑った。
「えへへ、悠真の分も雛が取り分けておいたよ!
卵焼き、めっちゃふわふわにできたから、絶対美味しいよー!」
澪は無言で俺の後ろに座り、静かに俺の茶碗にご飯をよそいながら、
時折俺の肩に自分の体を預けてくる。
周りの女子たちがキャイキャイとはしゃぎながら、俺に話しかけてくる。
「高見沢君、納豆混ぜてあげる!」
「海苔、巻いてあげるね〜」
「味噌汁、冷めないうちに飲んで!」
俺は照れくさくなりながら、箸を動かした。
「みんな、ちょっと落ち着いて……」
そんな俺の様子を見て、男子たちの席から恨み節が爆発した。
「くそおおおお! 高見沢だけ和食フルコースじゃねえか!」
「俺らは罰でおにぎり一個なのに、あっちは女子に囲まれてごちそう食ってる……」
「焼き魚の骨まで取ってもらってる……俺、昨日から味噌汁しか食ってねえ……」
「なんで三姉妹だけじゃなくてっ」
「他の女子にまでモテモテなんだっ!?」
「不公平だぞっ!!」
一人の男子が箸を握りしめ、歯ぎしりしながら叫んだ。
「高見沢……一生の敵だ……! 俺の納豆、返せ……!」
別の男子がやけくそ気味に立ち上がり、叫んだ。
「俺も女子部屋に行きたかった……!
罰が重すぎる……覗いただけなのに……!」
さらに後ろの男子が、涙目で呟いた。
「高見沢の奴……朝からハーレムで和食……
俺の人生、間違ってた……」
男子たちの恨み節は止まらず、
「おにぎり一個で我慢しろってのか!」「味噌汁だけじゃ生きていけねえ!」と、
まるでコントのような大合唱になっていた。
一方、女子たちはそんな男子たちを完全に無視し、俺を中心にキャイキャイと盛り上がっていた。
「高見沢君、もっと食べて!」
「三姉妹に甘やかされてるの、ほんと絵になるよね〜」
俺は三姉妹に囲まれながら、苦笑いした。
この朝食の席は、完全に「女子だけのハーレム王国」だった。
なんだろう。マスコットみたいな扱いなんだろうか。
男子たちのやっかみの視線を感じつつも、
俺は三姉妹の温もりに包まれながら、静かに箸を動かした。
修学旅行の朝は、予想以上に甘く、ちょっと罪悪感のあるものになっていた。
◇◇◇
朝食のハーレムが終わった後、俺は少しぼーっとした気持ちで旅館のロビーにいた。
女子たちとの賑やかな朝食の余韻が、まだ体に残っている。
三姉妹に囲まれ、キャイキャイとはしゃがれる時間は、幸せすぎて現実感が薄かった。
まあかなり恥ずかしかったけどね……。
今日で修学旅行は最終日。
午前中は自由行動、午後には新千歳空港へ移動して帰宅する予定だ。
ロビーで待っていると、三姉妹が揃って近づいてきた。
葵が優しい笑顔で俺の左手を握り、穏やかに言った。
「悠真くん、今日が最後だね……
午前中は4人でゆっくり過ごしましょう」
雛が右側から俺の腕に飛びつくように絡みつき、元気いっぱいに笑った。
「えへへ、最終日もいーっぱい甘やかしてあげるよ!
函館の最後の思い出、たくさん作ろうね!」
澪は無言で俺の後ろに立ち、静かに俺の腰に腕を回してきた。
「……ゆーま、離れないで……」
三姉妹に囲まれながら、俺たちは旅館を出て、函館西海岸の静かなベンチエリアへ向かった。
緑の島近くの海岸線は、観光客が少なく、波の音だけが静かに響いている。
冷たい海風が吹く中、4人で並んでベンチに座った。
葵が俺の左肩に頭を預け、優しい声で言った。
「ここ、静かでいいわね……
海の音を聞きながら悠真くんと一緒にいられるだけで、胸がいっぱいになる」
「ああ……風が凄く穏やかで気持ちいいよな」
雛が右側から俺の腕を抱きしめ、明るく、でも少し寂しげに言った。
「雛、もっと悠真と一緒にいたかったよ……
この旅行、終わっちゃうの寂しい……」
澪は俺の背中に体を預け、低く熱い声で囁いた。
「……ゆーま、ずっと……そばに」
波の音が三人分の想いを優しく包み込むように響いていた。
午後になり、俺たちは元町の幸運の坂周辺の細い路地を散策した。
古い洋館の裏手にある小さな隠れ庭園で休憩していると、
三姉妹が自然に俺を囲むように近づいてきた。
葵が俺の左手に指を絡め、柔らかく微笑んだ。
「修学旅行、最後まで悠真くんと一緒にいられて、本当に幸せだったよ」
雛が俺の右腕をぎゅっと抱きしめ、元気よく笑った。
「雛、忘れないよ! この旅行の全部、悠真との思い出!」
澪は無言で俺の後ろから抱きつき、静かに俺の肩に顔を埋めた。
「……ゆーま、ありがとう……」
俺は三人の温もりに包まれながら、静かに空を見上げた。
函館の空は澄んでいて、遠くに海が見える。
「俺もさ……三人の気持ちにちゃんと応える覚悟がやっとできたよ」
「悠真くん」
「待たせちゃってごめんな。書類上の妻は葵になるけど、気持ちの上では三人一緒に大事な奥さんだ」
「んっ……澪も、ゆーま、幸せにする」
「雛もーっ! 旦那さまを支える立派な奥さんになるーっ」
この旅行で、三姉妹との絆がまた少し深くなった気がした。
午後になり、バスで新千歳空港へ向かう頃、
俺は三姉妹の手を交互に握りながら、胸の奥で静かに思った。
この甘い時間が、
これからもずっと続いていくことを願っていた。
こうして、俺達の修学旅行は幕を閉じるのだった。




