第50話 家族風呂の甘い罠
夕食後、男子部屋は重苦しい、まるで鉛のように淀んだ空気に完全に包まれていた。
空気自体が息苦しくて、胸が締め付けられるような暗い雰囲気だった。
覗き未遂で先生たちに発見された男子生徒たちは、部屋からの外出を全面禁止され、そのまま就寝時間まで牢獄のように閉じ込められることになった。
部屋の中では、悔しさと苛立ちと嫉妬が爆発し、不満の声があちこちから漏れ出していた。
「マジかよ……夕食抜きで掃除まで……最悪すぎるだろ……!」
「高見沢だけずるい……あいつだけ罰ゲーム逃れて、女子と一緒に遊んでんじゃねえかよ!」
「俺らだけがこんな目に遭うなんて、絶対おかしいって……!」
そんな恨み節とため息が、部屋中に暗く渦巻いていた。
しかし俺だけは、その重苦しい空気から完全に解放されていた。
心の正しさに従った結果だ。
安堵の波が何度も押し寄せてくる。
そのおかげで、俺は女子たちと一緒にロビーで夜のゲーム大会に参加することになった。
「ねえねえ高見沢~、本当は覗きに参加したかったんじゃないのー?」
「バカなことを言わないでくれ。性犯罪に荷担なぞできるものか」
「紳士だねー」
「それはアレだよ。白峰三姉妹って極上の美女がいつもそばにいるのに、わざわざ覗く意味もないって」
「あ~、いつでも裸見放題ってことかー」
言いがかりも良い所だ。そんな自由に裸を見られるわけないだろうが……。
いや、でもこの三人なら、俺が言えば服を脱いでしまいそうだ。
「ふふふ、悠真くんが言ってくれれば~」
「ん、澪たちは、いつでも……脱ぐ」
「えへへ、雛のおっぱい、悠真になら見せてもいいよー」
なんてことを言い出し、女子達の黄色い声が大きくなった。
ロビーの広いスペースには、色とりどりのカードゲームやボードゲームがいくつも並べられ、女子たちの明るく弾けるような笑い声が、まるで花火のように響き渡っていた。
キラキラした笑顔と、甘い香水の匂い。
そこは男子部屋の暗い空気とは正反対の、幸せで甘い空間だった。
俺は隅のソファに座り、クラスメイトの女子たちと軽くゲームをしながら、心地よい時間を過ごした。
笑い声に混じって、時折向けられる羨望の視線が、俺の胸をくすぐるように心地よかった。
開放的な気分のせいか、女子達の浴衣は無防備にはだけており、非常に目のやり場に困る。
ガン見をすると三姉妹の追求が怖いので、ポーカーフェイスで紳士を貫いた。
一時間ほど経った頃、ふと大きな息をついた。
「お風呂……入り損ねたな……」
その瞬間、すぐ近くにいた葵が俺の方を振り返り、
何かとてもいいことを思いついたような、優しくも少し意地悪で、妖しい輝きを帯びた笑みを浮かべた。
その笑顔を見ただけで、俺の背筋に甘い戦慄が走った。
ゲーム大会が一段落した頃、部屋に戻ろうとした俺を葵が優しく、しかし逃がさないように呼び止めた。
「悠真くん、少し待って」
彼女は俺の手をそっと取り、旅館の奥の方へと連れて歩き始めた。
薄暗い木の廊下を進むたび、木の香りと、葵の甘い体臭が混じり合い、俺の心拍数をどんどん上げていく。
やがて木の香りが特に強く漂う静かな一角まで来ると、葵は静かに立ち止まった。
連れて行かれた先は、今日は稼働していないはずの「家族風呂」だった。
大きな木の看板に「家族風呂」と優雅に書かれ、扉は固く閉ざされているように見えた。
しかし葵はすでに旅館の従業員に軽く頭を下げて交渉済みだったらしい。
「先生にも特別に許可を取ってあるの」と言って、彼女は俺を優しく中へと促した。
「特別に、悠真くんのために開けてもらったの。
ゆっくり、たっぷり入ってきてね……?」
「そうだったのか。流石の手回しの良さだね」
「うふふ、もっと褒めていいんだよ♡」
俺は少し驚きと戸惑いと、胸の高鳴りを抑えきれずに礼を言い、中に入った。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室の扉をそっと開けると、
檜の濃厚で優しい香りがふわりと鼻をくすぐり、甘く包み込んだ。
広い湯船は、柔らかな間接照明に照らされ、湯気がゆらゆらと妖しく立ち上っている。
木の壁と石の床が、まるで秘密の楽園のような落ち着いた、しかしどこか淫靡な雰囲気を演出していた。
俺は湯船にゆっくりと浸かり、大きな息をついた。
温かいお湯が全身を優しく包み込み、修学旅行の疲れと緊張が、少しずつ溶けていくような感覚に包まれた。
「……ふう……」
目を閉じて深く息を吐いたその瞬間——
浴室の扉が、静かに、しかし確かな意思を持って開いた。
「え?」
何事かと慌てて振り返った俺の目に飛び込んできたのは、
タオルを体に巻いただけの、三姉妹の姿だった。
「ほわぁあああっ!? さ、三人ともっ、ど、どうしたんだっ!?」
葵が一番前に立ち、優しくも艶めかしい笑顔を浮かべている。
蜂蜜色のゆるふわロングヘアが湿気で少し湿り、肩から胸元にかけて優しく流れ落ち、
白く柔らかい肌が照明に照らされて、信じられないほど美しく輝いていた。
その後ろに、澪が無言で立っていた。
漆黒のストレートヘアが背中にぴったりと張り付き、
白く透き通るような肌が照明に照らされて、まるで濡れた陶器のように艶やかに光っている。
彼女の瞳はいつもより熱を帯び、静かに俺を捉えていた。
一番後ろでは、雛が悪戯っぽく、しかし頰を真っ赤に染めながら笑っていた。
栗色のセミロングを軽く跳ねさせ、タオルの端をぎゅっと握りしめ、
興奮と恥ずかしさで体を少し震わせている。
三人が同時に、ゆっくりと、しかし確実に湯船の方へ近づいてくる。
俺は湯の中で完全に固まったまま、言葉を失った。
心臓が激しく鳴り響き、頭の中が真っ白になる。
湯気が立ち込める浴室に、三姉妹の柔らかく、湿った足音だけが、
甘く危険なリズムを刻みながら響いていた。
葵が一番近くまで来て、優しい声で、しかし甘く溶けるような響きで囁いた。
「悠真くん……一人で入るのは寂しいでしょ?
……私たちも、一緒に入っていい?」
雛が続けて、声を弾ませながら、でも明らかに興奮で上ずった声で言った。
「えへへ……悠真のびっくりした顔、かわいい!
雛、ずっとこのタイミング待ってたんだよぉ!」
澪は無言のまま、しかしその瞳に燃えるような熱情を宿して、
ゆっくりとタオルの端に指をかけた。
湯気の向こうで、三姉妹の白い肌が、ますます艶やかに輝きを増していく——。
俺の胸は、今まで感じたことのない、
甘く、熱く、危険で、幸せで、恐怖すら伴う激しい感情の渦に飲み込まれようとしていた。




