第44話 買い物デートでわちゃわちゃ
日曜日の午前中、デパートの最上階は静かで、まるで別の世界だった。
ここは一般客が立ち入れない「エグゼクティブフロア」。
高見沢家と白峰家が特別会員として扱われている、金持ち専用の空間だ。
広いフロアに並ぶのは、最新のブランド服や一点物のアイテムばかり。
照明は柔らかく、BGMはゆったりとしたジャズ。
今日は三姉妹と俺の4人だけで、修学旅行に着ていく服を選びにきていた。
デパートのオーナーである中年男性が、笑顔で深々と頭を下げて出迎えた。
「高見沢様、白峰様、本日はようこそお越しくださいました。
エグゼクティブフロアを本日一日、貸し切りでお使いいただけます。
どうぞごゆっくりお楽しみください。」
俺は少し気まずそうに頭を掻いた。
「すみません、急にこんな贅沢な……」
オーナーは穏やかに微笑んだ。
「いいえ、両家にはいつもお世話になっております。
どうぞ、存分に選んでください。」
そう言って、オーナーは静かにスタッフを下がらせ、フロアを我々だけにした。
葵が俺の左腕にそっと寄り添い、優しい声で言った。
「ふふ……悠真くん、今日は私達のために時間を作ってくれてありがとう。
修学旅行の服、一緒に選んでくれるの、嬉しいよ」
雛が右側から俺の腕をぎゅっと抱きしめ、元気いっぱいに跳ねた。
「わーい! デパートの特別フロア、初めて来た!
悠真、雛に似合う服、いーっぱい選んでね!」
澪は無言で俺の後ろに立ち、静かに俺のカバンを預かりながら、
時折俺の首筋に息を吹きかけるように近づいてくる。
「……ゆーま、どれでも似合う」
三姉妹はそれぞれ試着室に消え、着替えを始めた。
最初にカーテンが開いたのは葵だった。
柔らかいベージュのニットに、膝下まである優しいフレアスカート。
清楚で上品な印象なのに、胸のラインが強調されていて、194cmの長身がより優雅に見える。
「どう……? 悠真くん、これなら修学旅行で浮かないかな?」
葵はくるりと回り、俺の反応を待つ。
その仕草は優しいのに、どこか甘く誘うような色気があった。
次にカーテンが開いたのは澪。
黒を基調にしたシンプルなシャツと、タイトなパンツスタイル。
クールでスタイリッシュなのに、腰のラインがくっきりと出て、
静かな色気が漂っている。
「……これで、どう?」
澪は無表情のまま、でも耳の先が少し赤い。
俺の視線が自分に注がれていることを、ちゃんと意識しているのが伝わってきた。
最後に飛び出してきたのは雛。
明るいオレンジのオフショルダートップに、ふんわりしたミニスカート。
元気いっぱいで動きやすいのに、胸元と太ももが大胆に露出していて、
健康的な色気が爆発している。
「どうどう? 悠真! 雛、これで北海道行っても可愛いよね?
えへへ、悠真がじーっと見てる……嬉しい!」
三姉妹は次々と着替え、俺の前に立っては「これ似合う?」と聞いてくる。
葵は上品で包み込むようなスタイルを、
澪はクールで少しセクシーなスタイルを、
雛は明るくてちょいエロいスタイルを、それぞれ何度も試着しながら俺を翻弄した。
俺は試着室のソファに座らされ、ただ見ているしかなかった。
「う……朝から心臓に悪いな……」
特に雛が「えへへ、悠真、もっと近くで見て!」と言って俺の膝に近づいてきた時は、
思わず目を逸らしてしまった。
葵がくすくすと笑いながら言った。
「悠真くん、顔が真っ赤よ……可愛い」
澪が静かに、でも熱を帯びた声で囁いた。
「……ゆーま、全部見てる」
三姉妹の視線が、甘く、熱く、俺に絡みついてくる。
結局、
葵は優しいベージュのワンピース、
澪は黒のスタイリッシュなセットアップ、
雛は明るいオレンジのオフショルダーを選んだ。
俺は三人の姿を見ながら、ぼんやりと思った。
修学旅行が、ますます楽しみになってきた。
でも同時に、
この4人で北海道に行くことが、ちょっとだけ不安にもなっていた。
午後。
白峰家のリビングは、いつもより少し賑やかだった。
テーブルの上には北海道の観光パンフレットや、修学旅行のしおりが広げられ、
俺の周りを三姉妹が囲んでいた。
葵がパンフレットを指差しながら、目を細めて微笑んだ。
「五稜郭、綺麗ね……
夜のライトアップもやってるみたい。悠真くん、一緒に見たいな」
彼女は俺の左側にぴったりと寄り添い、蜂蜜色の髪が俺の肩に触れる。
時々、俺の腕に自分の胸を軽く押しつけるようにしてくるのが、最近の癖になっていた。
右側では雛が俺の膝に半分乗り上げるような体勢で、
パンフレットをめくりながら元気いっぱいに声を上げた。
「函館の朝市! 蟹とかウニ丼とか、絶対にいっぱい食べようよー!
悠真、食べ過ぎてお腹壊しても、雛が看病してあげるからね!」
雛は笑いながら俺の太ももに頰を擦りつけてくる。
その動きのたびに、柔らかくて重い感触が伝わってきて、俺は少し体を固くした。
澪は俺の後ろに回り込み、静かに俺の背中に体を預けていた。
漆黒のストレートヘアが俺の首筋にかかり、
低く抑えた声で耳元に囁く。
「……ゆーま、函館の夜景……
一緒に見たい」
彼女の指が俺の腰にそっと回され、軽く引き寄せられる。
無言で、でも確実に「離したくない」という気持ちが伝わってくる。
俺は三方向から来る温もりに囲まれながら、苦笑いした。
「みんな、修学旅行の準備、かなり本気だな……
まだ出発まで2週間あるのに」
葵がくすくすと笑いながら、俺の手に自分の手を重ねてきた。
「だって、悠真くんと一緒に行くんだもん。
ちゃんと計画立てて、最高の思い出にしたいの……ね?」
雛が勢いよくパンフレットを指差した。
「自由行動の時は絶対に4人でグループ作ろうよ!
他のクラスメイトと組むなんて、絶対に嫌だもん!」
澪が俺の背中から顔を少しだけ出して、短く、でも熱を込めて言った。
「……4人、いい。
ゆーま、ずっとそばに」
三姉妹の視線が一斉に俺に集中する。
甘くて、熱くて、少し息苦しいくらいの視線。
俺はソファに深く沈み込みながら、ため息混じりに笑った。
「わかったよ。自由行動は4人で組もう。
五稜郭も、朝市も、夜景も……みんなと一緒に見るよ」
その言葉を聞いた瞬間、三姉妹の表情が一気に輝いた。
葵が俺の頰に軽くキスをしてきた。
「約束だよ……?」
雛が俺の胸に飛びついて、元気いっぱいに擦りつけてくる。
「やったー! 悠真と4人で函館デートだー!」
澪は無言のまま、俺の背中を抱きしめる力を少し強くした。
「……楽しみ」
リビングは、三姉妹の甘い声と笑い声でいっぱいになった。
修学旅行の準備をしながら、俺は改めて思った。
この甘くて、ちょっと息ができないくらい過剰な日常が、
これからもずっと続いていくんだな……と。




