第33話 保健室の甘い温もり
凪沙は結局、救急車で運ばれて病院で検査を受けることになった。
その間、俺は保健室に運ばれてベッドに座らされ、三姉妹の大きな体温にすっぽりと包み込まれた。
頬の傷がまだじんじんと熱を持っていたが、そんな痛みさえ、彼女たちの優しさに溶かされていく気がした。
「うええええんっ、悠真~、悠真死なないでぇえ」
「大袈裟だよ雛。ちょっと頬をかすめただけだから」
「だって血があんなにいっぱい出たのにー!」
保健室の先生にガーゼを当ててもらい、テープで留めた傷は未だにズキズキと痛みを発している。
幸い、角膜に傷は付かなかったようで、目蓋に近いところを切ったので派手に血が出ていただけだった。
今はもう両目ともハッキリと見えている。
雛は大混乱。澪は俺の袖をギュッとして離さない。
葵に至っては顔面蒼白になって、俺より深刻そうに見える。
「悠真くん……本当に痛かったよね……」
葵がベッドのすぐ横に座り、俺の傷ついた頬を心配そうに覗き込んだ。
蜂蜜色のゆるふわロングヘアが俺の肩に触れ、甘い香りがふわりと漂う。
彼女は俺の手に自分の大きな手を重ね、指を一本一本優しく絡めてきた。
その温かさが、胸の奥までじんわりと染み渡る。
「もう大丈夫……葵の指、すごく温かいよ……」
「ううん……悠真くんが傷つくところを見た瞬間、心臓がぎゅっと締め付けられて……息ができなくなったの……
悠真くんが痛い思いをするなんて、私……耐えられない……」
葵の声が震え、目元がうるうるとしてきた。
いつも優しく包み込むような彼女が、こんなに不安げな顔をするなんて、胸が熱くなった。
「そんなことは大した問題じゃない。それより、葵が怪我をしなかった方が重要だ」
「悠真くん……ふふ、ありがとう。でも、私なら平気だよ。あんなの直ぐに締め上げてたのに」
「ははは。まあ葵なら投げ飛ばしてたかもな。でも、大切な女の子が襲われたら、俺も嫌だから」
「悠真くん……」
澪は無言のまま、俺の左側にぴったりと寄り添った。
彼女はベッドの端に腰を下ろし、俺の肩に自分の肩を預け、左手をそっと握りしめてくる。
言葉はない。
ただ、静かに、でも強く体温を伝えてくれるその仕草が、澪なりの精一杯の愛情だった。
時折、俺の傷を見つめる瞳が細くなり、唇をきゅっと噛み締める。
その静かな激しさが、胸に甘く突き刺さった。
「ゆーま……」
澪が小さく呟き、俺の左手を自分の胸に当ててきた。
鼓動が速く、熱い。
いつもクールな彼女が、こんなに近くで俺を気にしてくれていることが、たまらなく嬉しかった。
「悠真ー! もう、悠真の血が止まらなくて……雛、怖かったよぉ……!」
雛がベッドの反対側から勢いよく抱きついてきた。
俺にぎゅうっとしがみつき、顔を胸に埋めてくる。
栗色のセミロングが俺の首筋に触れ、甘い香りがふわりと広がった。
彼女の大きな胸が柔らかく俺の体に押し当てられ、温かい体温が全身に染み込んでいく。
「雛……ちょっと苦しい……でも、ありがとう……」
「ごめん……でも、悠真の大事な顔に傷がつくなんて……
雛、胸が痛くて痛くて……涙が止まらなかったよ……
もう、絶対に悠真を離さないから……ずっと、ずっとそばにいるね……!」
雛の声が涙でいっぱいになり、俺のシャツをぎゅっと握りしめる力が強くなった。
元気いっぱいの彼女が、こんなに泣きじゃくりながら俺に甘えてくる姿に、胸が甘く締め付けられた。
三姉妹が俺を囲むようにベッドの周りに集まり、まるで世界で一番大切なものを守るかのように、優しく包み込んでくれた。
葵が俺の髪を優しく撫で、澪が無言で肩を寄せ、雛が腕に顔を埋めてくる。
大きな体から伝わる体温と、甘い香りと、溢れんばかりの想いが、俺の心を溶かしていく。
「みんな……本当にありがとう……
俺、みんながいてくれるだけで、傷なんて全然平気だよ……」
葵が俺の頬にそっと指を添え、傷口を優しく見つめながら微笑んだ。
「悠真くんが無事で……本当に、よかった……
これからは、絶対に悠真くんを傷つけさせないから……ね?」
澪は無言のまま、俺の左手を自分の胸に強く押し当て、ゆっくりと頷いた。
その瞳に、静かで深い愛情が溢れていた。
雛は俺の右腕を抱きしめたまま、涙を拭いながら明るく笑った。
「えへへ……悠真の温もり、好き……
雛、ずっとこうしていたい……大好きだよ、悠真……」
保健室の柔らかい光の中で、
三姉妹の甘い温もりが、俺の体も心も、優しく包み込んでいた。
傷の痛みはまだ残っていたけれど、
この甘くて幸せな感覚の方が、ずっとずっと大きかった。
「悠真くん、傷が痛む時はすぐに言ってね。そうだ、痛いところは唾を付けると治りが早くなるよ。殺菌効果の唾液で傷を保護しようよ」
「え?」
「葵、それはナイスアイデア」
「ちょっと」
「雛、いっぱいぺろぺろする~♡ ほら悠真、早速ペロペロしよ♡」
「うふふ、代わりばんこでいっぱいぺろぺろしちゃうよ」
「ゆーま、ついでに別のところもぺろぺろ」
「い、いや、それはまた別の機会に……じゃなくて、そんな事しなくていいから! ほら、細菌感染とか心配だし。消毒液塗ってもらったばっかりだから、きっと苦いと思うから」
「それなら問題ないよー。傷以外のところもぺろぺろしてあげる」
「というわけで、ゆーま、脱ぐ」
「脱ぎ脱ぎしてぺろぺろしてもぐもぐしようよー」
「お前ら目的変わってないか!?」
俺達がわちゃわちゃしていると、怒った保険の先生が怒鳴り込んできた。
「こらーーーっ、あなた達、そんなに元気ならさっさと教室に帰りなさい! そんなに付き添い要らないでしょうが!」
さっきまでの修羅場が嘘のように、俺の気分は晴れやかになっていた。
3人のおかげだ。
これから先生達への説明も待っている。
咄嗟の事とはいえ、三人の行動が咎められないといいけど。
全ては俺の責任だ。なんとしても彼女達を守らないとな。
※後書き※
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