第20話 雛の日 ~無邪気なデートと、溢れる甘え~
朝の柔らかなまどろみの中で、俺の意識はまだふわふわと浮遊していた。
夢と現実の境目がぼんやりと溶け合い、心地よい眠気が体を包み込んでいる。
もう少しだけ、この温かな闇の中に沈んでいたい……そんな甘い誘惑に抗いきれず、俺は再び深い眠りへと落ちかけていた。
その瞬間——
「ゆーうーーまーーーーー!! おはよーーーーー!」
ドズンッ!!
「ぐぼらっ!?」
朝の柔らかなまどろみから一瞬で引きずり出された。
腹の上に降ってきた凄まじい衝撃と重量に、肺の中の空気が全部押し出される。
息が詰まり、視界が一瞬真っ白になるほどの衝撃だった。
「悠真ってば! 朝だぞ~! もう遅刻しちゃうよー!」
「ごぶっ……どぼっ……ぐえっ!?」
リアルにあばら骨が軋む音が聞こえそうな大重量。
しかもその体重をかけているのは、ただの女の子じゃない。ムチムチに肉付きの良い三女・雛だ。
この間の情報から推測するに、90キロはあろう体躯が勢いよくのし掛かってくる。
肋骨が悲鳴を上げるのも当然であった。
「おきてよ悠真~、ほら、おっぱいでプレスしちゃうぞ~」
「もごっ! ふももっ! ぶもももっ!!(苦しい! 息ができない!)」
押しつけられ、柔らかくて重くて、温かくて、甘い匂いがする柔肉の海に完全に埋もれている。
頭の上から降ってくる圧倒的なボリュームは、文字通り「圧殺級」だった。
内臓が潰されそうな重圧と、甘い香りに包まれながら、俺は必死に顔を押し上げようとした。
「ぶはっ! はあ……はあ……死ぬかと思った……」
なんとか顔を押し上げて脱出すると、目の前にはまだ激しく揺れる巨大なおっぱいが並んでいた。
恐らくIカップ以上はあるであろう凶悪なサイズで、朝の制服のボタンが今にも弾け飛びそうになっている。
(おうふ……今日はピンクか……)
相変わらず凶悪なデカさだ。
「お前な……肋骨が折れたらどうするんだ」
「だって悠真が可愛いんだもん! もっとぎゅーってしたくなるんだよ~!」
「理由になってねぇ」
雛は栗色のセミロングを跳ねさせながら、満面の笑顔で再び飛びつこうとする。
俺は慌てて両手を前に出して制した。
「待て待て! もう十分に目が覚めたから!」
雛は少し残念そうに頰を膨らませたが、すぐに明るい笑顔に戻った。
「えへへ~、じゃあ早く準備して! 今日は雛の日だよー!
いーっぱい遊ぼうね!」
そう言って、雛はベッドの上で元気よく飛び跳ねる。
そのたびに、制服の胸元が大きく揺れて、俺の視線を釘付けにする。
(……朝からこれかよ)
目に毒だ……。昨日の澪の一件もあるので、なるべく邪な気分にならないように自分を律しておかないと。
雛の無邪気な笑顔を見ていると、昨日の疲れも少しずつ溶けていく気がした。
朝食を簡単に済ませ、俺たちは一緒に登校の準備を始めた。
雛は俺の腕に絡みつきながら、今日の予定を嬉しそうに話す。
「ねえねえ、放課後どこ行こうか?
雛、クレープ食べたい! あとゲームセンターも行きたい!」
その明るい声と、腕に感じる柔らかい感触に、俺の胸が温かくなった。
「わかった。今日は雛の好きにしよう」
雛の目がキラキラと輝いた。
「やったー! 悠真、最高!」
こうして、騒がしい声と共に「雛の日」が始まりを告げた。
◇◇◇
放課後の校門は、夕陽が少しずつオレンジ色に染め始めていた。
俺が校舎から出てくると、すぐに聞き慣れた元気な声が響いた。
「悠真ー! こっちこっち!」
雛が両手を大きく振って駆け寄ってくる。
栗色のセミロングが跳ね、制服のスカートがふわりと広がる。
その笑顔は、今日も太陽みたいに明るかった。
「待ってたよー! 今日は雛の日だもん!」
雛は俺の腕にすぐに絡みついてきた。
柔らかい感触と、甘いシャンプーの香りがふわりと漂う。
「朝言った通り、今日は外で遊ぼうか」
俺がそう言うと、雛の目が一瞬で輝いた。
「やったー! 雛、すっごく楽しみ! どこ行く?」
「そうだな。まずは雛の大好きなクレープでも食べに行こうか」
「わーい! 雛、クレープの食べ比べ大好き!」
雛は俺の腕をぎゅっと抱きしめながら、スキップするような歩き方で駅前の通りへ向かった。
既に食べ比べることが決定しているらしい。
雛らしい、良い意味で強欲な無邪気さに、俺は思わず微笑ましい気持ちになった。
「ほらほらっ、早く行こうよ!」
「慌てるなって。時間はたっぷりあるんだ。ほら」
俺は片手を差し出す。
雛はすぐに満面の笑顔になって、その手に自分の手を重ねてきた。
すると、雛が指と指を自然に絡めながら、少し照れたような、でも嬉しそうな声で言った。
「えへへ♪ これ、恋人繋ぎだね!」
雛は俺の指をぎゅっと握りしめ、親指で優しく撫でるように動かした。
その小さな手が意外と熱くて、俺の胸が少しだけざわついた。
「こんな感じでどう?」
俺が軽く指を絡め直すと、雛は目を細めてますます嬉しそうに笑った。
「えへへ~、もっとぎゅーってして!
悠真と恋人繋ぎで歩くの、すっごく楽しいよ!」
雛は俺の腕に体を寄せながら、スキップするような軽い足取りで進んでいく。
夕陽に照らされた通りを、二人は指を絡め合ったまま歩き始めた。
駅近くの人気クレープ屋さんに着くと、雛はショーケースの前で目を輝かせた。
「どれにしよう……ストロベリーもいいし、チョコバナナもいいし……あ、フルーツ盛りも美味しそう!」
雛が指を差しながら迷っている姿が、とても楽しげだった。
「今日は食べ比べしよう。俺が一つ、雛が一つ選んで、半分こにしよう」
「えへへ、いいね! じゃあ雛はストロベリークリームのやつ! 悠真はチョコバナナで!」
俺が二つのクレープを買い、近くの公園のベンチに座った。
木陰が気持ちよく、そよそよと風が吹いている。
雛はクレープを受け取ると、すぐに俺の方に体を寄せてきた。
「悠真のもちょうだい♡ 食べさせて~」
雛が大きな目で俺を見上げながら、口を少し開ける。
俺は自分のチョコバナナクレープを少しちぎって、雛の口元に差し出した。
「はい、どうぞ」
「あーん♡」
雛は嬉しそうに口を開け、俺の手から一口食べた。
その瞬間、雛の頰がふんわりと緩んだ。
「んー! 美味しい! チョコがとろとろだよー!
今度は悠真に雛のストロベリーあげるね!」
雛は自分のクレープを少しちぎり、俺の口元に持ってきた。
「悠真もあーんしてー!」
「わ、ちょっと待て……」
「早く早く! 冷めちゃうよー!」
「クレープは冷めないよ」
俺が仕方なく口を開けると、雛は嬉しそうにクレープを入れてくれた。
甘酸っぱいイチゴとクリームの味が、口いっぱいに広がる。
「どう? 美味しい?」
「……うまいな」
「えへへ、よかった! もっと食べさせてあげる!」
それからしばらく、俺たちはベンチに並んでクレープの食べ比べを続けた。
雛が「次はこっち!」「悠真の番だよー!」と笑いながら交互に食べさせ合い、時々クリームが口の端につくたびに笑い合う。
雛の笑顔は本当に無邪気で、俺の胸を自然と温かくした。
クレープを食べ終えると、雛が俺の手を引っ張って立ち上がった。
「次はゲームセンターに行こうよ♪」
「わかった。行こうか」
雛は俺の腕に絡みつきながら、駅前のゲームセンターへと元気よく歩き出した。
店内に入ると、明るい電子音とカラフルなライトが溢れていた。
雛の目がすぐに輝く。
「悠真、あの人形さん取ってー!」
雛が指差したのは、ふわふわのクマのぬいぐるみだった。
俺は挑戦し、何度か失敗した後、ようやくアームを上手く操作して景品を落とすことに成功した。
「やったー! 悠真、すごい!」
雛がぬいぐるみを抱きしめて飛び跳ねる。
その笑顔があまりにも嬉しそうで、俺まで自然と笑顔になった。
次に雛が目を付けたのは格闘ゲームの筐体だった。
「今度はこれで対戦しようよ! 雛、頑張るから!」
俺たちは並んでコインを入れ、キャラクターを選んだ。
雛は元気いっぱいにボタンを連打し、俺のキャラクターをあっという間に追い詰めていく。
「えいっ! やーっ!」
「うわっ、強いな……」
結果は雛の圧勝。
雛は両手を挙げて大喜びした。
「やったー! 雛の勝ち! 悠真、もっと練習しないとだめだよ~!」
雛が勝ち誇った顔で俺を見て笑う。
その無邪気な得意げな表情が可愛くて、俺は負けたことを素直に認めた。
「負けたよ。次はリベンジするからな」
「えへへ、楽しみ!」
その後、雛が「ダンスゲームやりたい!」と言い出した。
俺たちはダンスマシンの前に並んだ。
音楽が流れ始め、雛がリズムに合わせてステップを踏む。
ミニスカートの裾が翻り、激しい動きのたびに危うくパンツが見えそうになる。
(……まずい)
俺は慌てて雛の後ろに立ち、周囲から見えないように体でガードした。
他の客の視線が気になり、俺は必死に体をずらして雛を守る。
「悠真、どうしたの?」
雛が息を弾ませながら振り返る。
「いや……ちょっと風が強いから、俺が後ろにいるよ」
「えへへ、ありがとう! 悠真、優しいね~」
雛は気づいていない様子で、再びダンスに夢中になった。
俺は雛の後ろで体を動かしながら、周囲の視線をブロックし続けた。
ダンスゲームが終わると、雛は額に汗を浮かべて笑顔で言った。
「はあはあ……楽しかった!
悠真、今日は本当にいっぱい遊べたね」
俺は軽く雛の頭を撫でた。
「また連れてってやるよ」
雛が目を輝かせて言った。
「最後にプリクラ撮ろうよ。カップルの定番だよ♪」
ゲームセンターの奥にあるプリクラ機の前まで来ると、雛は俺の手を引っ張ってすぐにカーテンの中に入った。
「ほらほら、早く入ってー!」
狭い個室に入ると、雛が後ろから俺にぎゅっと抱きついてきた。
ムチムチとした柔らかい胸が、俺の頭の上にずっしりと乗っかる。
甘い香りと圧倒的なボリュームが顔全体を覆い、息が少し苦しくなった。
「わ、雛……ちょっと重い……」
「えへへ~、我慢我慢! カップルっぽく密着しないとだめだよー!」
雛はさらに力を込めて抱きしめてくる。
おっぱいが顔にぴったりと押しつけられ、柔らかくて温かい感触が完全に俺を包み込んだ。
息をするのもままならないほどの圧迫感に、俺は思わず声を上げた。
「ぐっ……苦しい……雛、ちょっと緩めて……」
「んー? まだまだ! もっとくっつかないと可愛いプリクラ撮れないもん!」
雛は無邪気に笑いながら、さらに体を密着させてくる。
俺の顔は完全に雛の胸の谷間に埋もれ、甘い匂いと柔肉の感触に包まれながら、頭がくらくらしてきた。
この「雛の日」は、まだまだ続きそうだった。
だが、ゲームセンターを出たところで、予想外の人物が待ち構えていた。
「……悠真」
振り返ると、そこに立っていたのは浮島凪沙だった。




