第12話 究極のバトルロイヤル
【浮島凪沙 視点】
あれから数日。そろそろいいだろう。
瑛斗から急かされて、私は早速悠真にメールを送る。
『悠真、ごめんなさい。あの時は酷いこと言っちゃったけど、実は瑛斗に脅されて仕方なくだったの。あれは私の本心じゃない。そのことで謝りたいから、放課後、時間を取ってくれないかな』
送信ボタンを押した瞬間、私は小さく息を吐いた。
「これでよしっと。は~、これで瑛斗のライブ費用はなんとかなりそう。
あとは新作のコスメと指輪も欲しいなぁ~。
あ、フェルメスの新作バッグも買わなきゃ。
やっぱ持つべきモノは便利なATMよねー」
私は鏡に向かって自分の笑顔をチェックしながら、くすくすと笑った。
悠真って本当にチョロい。
今まで引っ張った金額はいちいち数えてないけど、200万は軽く超えていたはず。
高校生のくせにどんだけ金持ってるんだかって感じだけど、おかげでこの3ヶ月はウハウハだった。
フラれた直後に三姉妹に囲まれて浮かれてるみたいだけど、
私が涙目で「脅されてたの……」って言えば、絶対に信じる。
あの純朴な顔からして、女の涙に弱いんだもん。
一度貢がせ始めれば、またすぐに財布に戻るはず。
「ふふっ……本当に簡単。
あいつ、結局私のものなんだから。今度は……一発くらいヤラせてやってもいいかな」
考えて、すぐに身震いでかぶりを振る。
「あーやだやだ。やっぱキモいからなし! あんなヒョロガリでナヨナヨしたチビ助なんて、金もらってもごめんだわ……あ、でも、一発につき100万くらいぶんどるのも悪くないかも。尻尾振って喜びそう」
セックスするならイケメンに限るけど、瑛斗に貢ぐためには金はいくらあっても足りない。
パパ活って手もあるけど、ちょろちょろと1万2万では埒があかないし、やっぱり楽して稼げるのが一番いい。
考えてみれば顔は可愛い系だし、将来性を考えれば悪くない作りをしているかも……。
「キモいおっさんよりは幾分かマシかな。あの顔じゃきっと粗チンだろうし、手コキでもしてやれば。そういえば、瑛斗にはいつも攻められてバッカだったし、攻める用のオモチャにするのも悪くないかも。罵倒しながら足コキとか? きゃはは、ウケるww」
その時アイツがするだろう気持ち悪い笑い顔を想像して吹き出しそうになる。
私ってもともとSだしね。歴代彼氏もMばっかりだったし、私の下で必死に腰を振って情けなく射精する顔を見るのが好きだったけど、瑛斗は別。
常に優位に立ちたがるから、そうさせてる。
テクも最高だし、彼とのエッチはMになった方が断然気持ち良い。
「あー、瑛斗とエッチしたい♡ ムラムラしてきた」
私はスマホをポケットにしまい、満足げに教室を出た。
瑛斗には「明後日までにはお金作ってくるね♡」ってLINEを送っておいた。
早く悠真から大金引っ張って、瑛斗にご褒美エッチをもらわなくっちゃ♡
◇◇◇
バーベキューパーティーも終盤に差し掛かり、宴もたけなわとなったところで、父さんが突然大きな声で言った。
「さて、日替わり恋人制度だが、最初は誰から行く?」
その瞬間、三つ子の瞳がギラリと輝いた(ように見えた)。
葵、澪、雛の3人がおもむろに立ち上がり、バチバチと火花を散らした(ように見える)。
何かを察した使用人の人達が、いそいそとテーブルを片付け始めてスペースを広げた。
流石は長年勤めてくれたメイドさん達。三姉妹が騒ぎを起こすことを敏感に察知したようだ。
まず葵が「うふふ~。やっぱりトップバッターは長女のこの私、葵ちゃんの出番よね」
すかさず澪が反撃した。
「関係無い。たまたまママの股ぐらから最初に頭を出しただけ。三つ子は平等」
雛は相変わらずニコニコしながら、
「澪ちゃん下品だよー」と笑っている。
両家の両親も酒のせいかゲラゲラと笑っていた。
「どうする? やっぱり実力で取り合う?」
「葵、ズルい……。それだとゴリラの葵が有利すぎる」
「失礼ねー。誰がゴリラよ」
「高校生で合気道二段は普通にゴリラ」
そう、葵は高校生にして既に合気道二段を獲得している剛の者だ。
いや、合気道だから柔の者かな?
とにかく、恵まれた体躯に加えて流水のようにしなやかな動きで相手を翻弄する手合いは、見ているこっちが魅了されること請け合いの見事さだ。
試合の時にあまりの体格差で相手選手が泣きそうになっていたという逸話もあるくらいだし。
まさしく天は二物も三物も与えている。
「なによー。澪だって腹筋割れてるくせに。そっちの方がゴリラじゃない!」
「んなっ!? ゆーまの前で言わないで……適度に力抜けば割れない。それより葵は最近太った。体重「わーー!」なの知ってる」
「なんてこと言うのよ!」
澪が葵の体重を暴露しようとしたところで慌てて口を塞ぎにかかる。
「悠真くんの前で体重暴露するなんて酷いじゃない! 澪だってお菓子の食べすぎて太ったって言ってたじゃない」
「私はスポーツで発散してるから問題ない。あれはお菓子じゃなくてプロテインバー。それにお菓子の食べ過ぎなら雛の方が深刻」
「雛は新体操とチアダンスでぷにぷにしなやかだよー♪ 悠真はくびれ好きだもんねー♡」
「え、いや、その」
服を脱ごうとする雛を慌てて止める2人。
何故俺のフェティシズムがバレているのか……。
柔らかそうなお腹と可愛いおへそがチラリと見えてドキッとした。
確かにすごいくびれだ。胸もお尻も大きいのに、腰のくびれがあまりにも抉れているので見事な曲線を描いている。
大変に素晴らしかった。
「2人とも言い争いはやめよーよー。3人とも体重は似たようなもんだしねー」
「え? そうなの?」
雛がなんでもない事のように言う。彼女には恥じらいというのは無縁らしい。
「そうだよー。この間の身体測定で3人ともきゅうじゅ「「わー!!」むぐぐ……」
何かを暴露しようとした雛の口を慌てて塞ぐ2人。
聞いてはいけない気がするのでこれ以上は追求しないでおこう。
「胸! 胸が大きくなり過ぎてその分増加しただけだから!」
「うそ。葵はお尻の方が重た――イタタタッ!?」
「ソレ以上ハ黙レ……」
静かにキレる葵が澪の腕をねじり上げるのを、今度は使用人さん達が慌てて止めに入る。
雛と両親達は爆笑していた。
「ごほん……ここは平等にじゃんけんで決めましょう」
「それがいい」
「平等だねー」
葵の提案で、ついに大じゃんけん大会が開幕した。
「じゃんけん、ぽん! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!」
……
……
……
「あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!」
……さすが三つ子だけあって中々勝負が決まらない。
もう30回以上同じ手であいこでしょしてる……。
3人が3人とも同じ手を出し、同じグーであいこでしょ。
同じパーであいこでしょ。
同じチョキであいこでしょ。
こんなことを既に30回以上繰り返している。
確率的には天文学的だ。
葵が優しい笑顔のまま、でも目が本気モードで言った。
「うふふ~、長女として譲れないわね……」
澪が無表情で低く呟く。
「……負けない」
雛が元気いっぱいに拳を握って叫んだ。
「雛も絶対に最初がいいー! 悠真と一番最初に恋人になりたいもん!」
両家の親たちはビールを飲みながら大笑いしている。
使用人の人たちはすでに完全に観客モードで、スマホを構えて撮影し始めていた。
「これ……いつまで続くんだ……?」
ようやく40回目を超えた頃、葵が小さく息を吐いた。
「ふふっ……やっぱり三つ子はすごいね」
澪が無表情のまま、
「……決着、つかない」
雛が元気いっぱいに手を挙げて叫んだ。
「じゃあじゃあ! もう一回! 今度は本気でいくよー!」
三姉妹の瞳が、再びキラキラと輝いた。
俺は思わず頭を抱えた。
「待って待って! 三人とも、落ち着けって……!」
しかしその声は、三姉妹の「じゃんけん!」という元気な掛け声にかき消された。
バーベキューの煙が夜空に昇り、裏庭は笑い声と三姉妹の熱気に包まれていた。
この「日替わり恋人」計画は、予想以上に賑やかで、
予想以上に長い夜になりそうだった。




