第11話 両家の話と、みんなの想い
その日の夜は、両家合同のバーベキューパーティーが開かれる日だった。
白峰家とうちの敷地は隣同士で、裏庭同士がつながっているため、毎年この時期になると大きなグリルが置かれ、肉や野菜が山のように並ぶ。
両家の父親は大学時代からの親友で、母親同士も仲が良い。
3人が俺の気晴らしのために両親に呼びかけてくれたのだ。
父さんも母さんも、忙しい中で時間を作って参加してくれた。
裏庭はすでに賑やかだった。
使用人の人たちが忙しそうに動き回り、グリルからはいい匂いが立ち上っている。
テーブルの上には新鮮な野菜、厚切りのステーキ肉、色とりどりのソーセージが並び、笑い声があちこちから聞こえてくる。
俺は少し気まずそうに立ちながら、父さんに声をかけられた。
「おう、悠真。
今日はゆっくりしていけよ。三姉妹も呼んで、みんなで楽しもうぜ」
母さんが優しく微笑みながら、俺の肩に手を置いた。
「最近ちょっと疲れてるみたいだったからね。
今日は思いっきり食べて、元気出してちょうだい」
白峰家の父さんがグリルを眺めながら、にこやかに言った。
「今年もいい肉が入ったぞ。
悠真、好きなだけ食えよ」
両親は俺に何があったのかは詳しく聞かなかった。
ただ俺が落ち込んでいる。それだけ察して優しくしてくれる。
普段は仕事が忙しくてほとんど家にいない2人であるが、こうして俺を思いやってくれる温かさが居心地の良さを感じさせてくれた。
白峰家の母さんが、葵・澪・雛の三人を優しく見つめながら言った。
「みんな、悠真くんと一緒に楽しんでね」
三姉妹は俺の近くに自然と集まってきた。
「わー! お肉焼けたー! 悠真、こっち来てー!」
雛が元気いっぱいに俺の手を引っ張り、グリルのそばへ連れて行く。
その後ろから、葵が優しく微笑みながら皿を持ってついてくる。
「悠真くん、今日は特別に厚切りステーキを焼いておいたよ。たくさん食べてね~」
澪は無言で俺の左側に立ち、すでに焼き上がったソーセージをフォークで刺して俺の口元に差し出してきた。
「……あーん」
「おっふっ、そんないっぺんに食べられないよ」
案の定ここでも甘やかしてくれる。
料理が得意な雛が絶妙な焼き加減で提供してくれたステーキが口の中で肉汁を溢れさせた。
「美味しい?」
「うん。美味しい」
「えへへ~。やったー」
「ゆーま、私も、焼いた」
そこには炭化寸前のソーセージがあった。
「こら澪ちゃん。お焦げを食べたら癌になるでしょ」
「それ迷信……葵は知識が古い」
「なによー。美味しくなくなったものを悠真くんに食べさせてどうするの」
やんややんやと口げんかを始める2人を微笑ましく眺めながら、雛の焼いてくれた一口ステーキを再び頬張る。
「はい、あーんして♡」
「んあ」
「美味しい?」
「うん。美味い。雛の焼き加減はいつも上手だね」
「えへへ、雛、料理は得意なんだ」
「あー! 雛ちゃんいつの間にか2人の世界に入ってる!」
「雛、抜け駆け、ダメ」
「ふふーん。2人がケンカしてるからだもーん。ほら悠真、雛のお膝に乗っかって♡ 抱っこしてあげる」
「いや、それは流石にハズいから」
「遠慮しないでいいのにー」
相も変わらずわちゃわちゃである。本当にこの3人と過ごす時間は居心地が良い。
こんな時間がずっと続いてほしいとすら思った。
◇◇◇
バーベキューが始まってしばらく経った頃、
両家の父親がビールを片手に、ふと真面目な顔になった。
白峰家の父さんが、グリルの煙を眺めながら切り出した。
「実はね、うちと高見沢家の会社統合の話が、ようやく本格的に動き始めたんだ。
長年温めてきた計画で、悠真も知っていると思うけど……」
父さんが頷きながら、続けた。
「その中で、悠真と葵・澪・雛の将来についても、みんなで話し合おうということになってな。
もちろん、高校生のうちに決めろという話じゃない。
ただ、両家の絆を深める形として……将来的に、悠真と三姉妹の誰かと結婚する可能性を、みんなで前向きに考えてみないか、という話だ」
その言葉に、俺は少し驚いて箸を止めた。
母さんが柔らかく笑いながら、フォローするように言った。
「焦らなくていいのよ。
あくまで『可能性』として話しているだけ。
みんなが自然に、幸せになれる道を考えたいと思っているの」
白峰家の母さんが、三姉妹を優しく見つめながら言った。
「葵も、澪も、雛も、悠真くんのことが大好きだって、よく話してくれるわ。
悠真くんも、三姉妹を大切に思ってくれているのは知っているから……」
裏庭のグリルの煙が、ゆらゆらと夜空に昇っていく。
周囲はまだ賑やかで、肉の焼ける音や笑い声が聞こえているのに、
俺たちのテーブルだけが少し静かになった。
すると、父さんが突然手を叩いて大笑いした。
「それならいっそ、日替わりで恋人になってはどうかな?
月曜は葵、火曜は澪、水曜は雛……とローテーションでやってみて、
最終的に一番気に入った誰かを嫁に決めればいいじゃないか!」
父さんの大胆な提案に、白峰家の父さんも大笑いしながら乗っかった。
「それいいな! 三姉妹全員と公平に付き合えるし、悠真も選びやすい!」
母親たちも大喜びで顔を見合わせた。
「素敵! それなら喧嘩にもならないわね」
三つ子は一瞬固まった後、ほぼ同時に顔を輝かせた。
葵が頰を少し赤らめながら、
「え……それ、本気で言ってるんですか……?」
雛が目をキラキラさせて、
「日替わりで悠真の恋人!? それ、めっちゃ楽しそう!」
澪は無表情のまま、しかし耳の先が赤くなって小さく呟いた。
「……いいかも」
俺は言葉を失った。
父さんが俺の肩を叩きながら、楽しそうに笑う。
「どうだ、悠真? 三姉妹全員と公平に付き合ってみるのも悪くないだろ?
もちろん、強制じゃないぞ。本人が納得した上でな」
母さんが優しく微笑みながら、
「みんなが悠真を想ってる気持ちは本物よ。
焦らずに、ゆっくり考えてみてちょうだい」
三姉妹が俺の顔をじっと見つめている。
葵の瞳は優しく、
雛の目は期待に満ち、
澪の視線は静かだけど熱い。
俺は胸の奥が温かくなった。
これはただの「甘やかし」じゃなかった。
三姉妹が俺に注いでくれている想いは、家族の延長でも、ただの溺愛でもなく、
もっと深い、将来を見据えた本気の気持ちだったんだと、改めて実感した。
「こいつめー。美人三姉妹を取っかえ引っかえ日替わりでなんて、父さん羨ましいぞ! しかも3人ともおっぱいが大きい。大きいのはいい事だ、そうだろ悠真! おん?」
父さんは俺の背中をバンバンと叩きながら親父臭いことを言ってくる。
かなり酒が入ってるな。母さんが怒ってもしらないぞ。
「あらあなた。それは私じゃ物足りないって意味かしらぁ? ごめんなさいねおっぱい小さくて」
ほーら言わんこっちゃない。
「か、母さん! うそうそっ、冗談だよ。あくまで一般論としてだな」
「そんな事いって、会社の受付嬢の若い女の子に粉掛けてるって聞いてますけどー? どの口が言ってるんですか? あの子おっぱい大きいですもんねー。わざわざ幹部用のエレベーターを避けて受け付けに遠回りするくらいには夢中なんでしょ?」
「あ、あれは社長としてのコミュニケーションの一環として! エントランスの様子をだな」
「世間じゃそういうのをセクハラというんですよ。社長がそんなんじゃスキャンダルになるからやめなさい。セクハラなら私にすればいいじゃありませんか」
「もちろん母さんが1番さ! ボクの目には君しか映ってないよー」
親のセクシャル事情なんて知りたくもないのでやめて欲しいんだが……。
「どうにも最近、愛が足りない気がしますね。本当に愛してますか?」
「もちろんだよ。愛してるよ」
「もっと大きな声で、私を愛してると言ってみろ」
「あ、愛します……愛しますとも」
「なぁにー! 聞こえんなぁ!」
「愛しますーーっ! 一生ドコへでもついていきますーー!」
どっか聞いた事のあるやり取りだ。まるで略奪愛じゃないか。
こんなやり取りが昔からだ。父さんは母さんに頭が上がらない。
「ははは、また始まったよ高見沢家の名物やり取り『ナント!告白強要拳!』がww」
白峰家の両親がそれを微笑ましく眺めていた。
俺は恥ずかしくて死にたかったが……。
◇◇◇
親たちが少し席を外した後、俺たちは四人で静かに話した。
葵が、いつもの優しい声で、しかし少し緊張した様子で言った。
「悠真くん……突然でごめんね。
私たちは、本当に悠真くんを幸せにしたいと思ってる。
でも、家族の計画に巻き込むのは……ちょっと違うかなって、思ってたの」
澪が俺の袖を握ったまま、低い声で言った。
「……ゆーまが嫌なら、私はやめる」
雛が俺の腕に顔を埋めながら、珍しく小さな声で言った。
「悠真が困ってる顔……嫌だよ。
でも、悠真と一緒にいられるなら……雛、嬉しい……」
俺は三人の顔を順番に見つめた。
胸の奥が、温かく、でも少し重く疼く。
「俺も……ちゃんと自分の気持ちを整理したい。
みんなが俺を想ってくれているのは、すごく嬉しい。でも、ただ甘やかされるだけじゃなくて、俺もみんなを大切にしたいと思ってる」
三姉妹が同時に俺を見て、目を少し輝かせた。
「俺は、相手の欲しているものを与えるのが気持ちの表し方だと思っていた。でも、それは間違いだった」
「ううん。間違ってないと思うよ。プレゼントは、悠真くんが相手に喜んでほしいって一心で選んだものでしょ」
「相手が100%悪い……ゆーま、悪くない」
「あ、でもでも、雛だったら値段が高いものじゃなくても嬉しいよ。なんなら物じゃなくても、こうして一緒にいるだけで凄く楽しいもん♪」
葵も、澪も、雛も……それぞれが思い思いの気持ちを口にして俺を肯定してくれる。
それは凄く嬉しかった。だけど、俺も人として成長しないといけない。
「うん、3人の気持ちはすごく嬉しい。だから、俺も男として……人間としてもっと色々なことを学んで行きたいって思ってるんだ。正直なところ、3人のことは大好きだ。でも、恋人のそれと、これまでの家族みたいな気持ちの境目が、俺にはまだよくわからない」
「ふふ、そうだね……。私達、ずっと一緒だったもんね」
「問題ない……ゆーまは、心の向くままにすればいい」
「パパ達や雛達のためじゃなくて、悠真が一番いいと思う選択をするのが大切だもんね」
バーベキューの煙が夜空に上がり、グリルからはまだ肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。
周囲の笑い声が、俺たちの少し真剣な会話を優しく包み込んでいた。
これから一体どうなっていくのだろう。
だけど、3人の笑顔を見ていると、未来は明るい気がしてならなかった。
※後書き※
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