EP 4
「……これで終わりだ、若きエリートたち。絶望のまま、私の主の贄となりなさい」
折れた宝剣を握りしめ、へたり込むレオンたち『白銀の翼』。
その頭上へ、魔人ギアンの指令を受けた死甲虫型の巨大な鋼鉄の足が、無慈悲に振り下ろされようとした、まさにその瞬間だった。
「間に合えぇぇぇぇっ!!」
木々の隙間を縫って、白銀の光が閃いた。
俺が全力で放った『聖光壁』がレオンたちの頭上に展開され、死甲虫の巨大な足を受け止める。
ガァァァァンッ!!
凄まじい質量に光の壁が軋み、俺の足が地面に深くめり込んだ。
「ア、アレン君……!?」
レオンが信じられないものを見るように、目を見開く。
「遅れてごめん、レオン君! あとは僕たちが引き受ける! ルナ、みんなの回復を!」
「ええ、任せて! 『大地の息吹』!」
ルナの杖から放たれた緑色の光が、重傷を負ったレオンの仲間たちを包み込み、一瞬にして傷を塞いでいく。
そして、光の壁で死甲虫の足を凌いでいる俺の頭上から、怒りに燃える『帝都最強の大人たち』が襲い掛かった。
「ガァーッハッハッハ!! てめぇら、俺様を差し置いてデカいツラしてんじゃねぇぞ!!」
「ルナキンのパフェの恨み、忘れたとは言わせないわよピエロ!!」
上空からイグニスが両手斧を振り下ろし、キャルルがマッハの速度で飛び蹴りを放つ。
「『イグニス・ブレイク』ッ!!」
「『月影流・破衝撃』ッ!!」
オークの群れを一瞬で木っ端微塵にした、S級竜人と雷神の月兎による必殺の一撃。
それが、死甲虫の分厚い甲羅に直撃した。
――ギィィィィィィィンッ!!!!
森全体を揺るがすような金属音が響き渡り、激しい火花が散る。
だが。
「……な、なんだと!?」
「うそっ、私の足が弾かれた!?」
イグニスとキャルルが驚愕の声を上げた。
彼らの渾身の攻撃を受けてなお、死甲虫の装甲にはヒビ一つ、傷一つ入っていなかった。それどころか、攻撃の反動でイグニスたちの腕と足が弾き返され、空中で体勢を崩してしまったのだ。
「馬鹿な……俺様の全力の斧だぞ!? ミスリルだってへこむはずだ!!」
着地したイグニスが、信じられないとばかりに斧の刃を見つめる。
『――無駄ですよ。彼らの装甲は、特殊な魔力コーティングを施した超硬度合金。そして何より、その規格外の「質量」こそが絶対の防御』
機械の複眼を不気味に光らせながら、魔人ギアンが冷酷な声で告げた。
『アレン・鍵田。地下水道での敗北から、私は学びました。美しき魔の糸(手品)も、絡め手も、貴様のあの謎の粘液の前では無力だと』
ギアンの機械の顎が、カシャ、カシャ、と音を立てて開閉する。
『だからこそ、すべてを捨てたのです。小細工は一切不要。魔法も弾き、物理も通さない「純粋なる装甲と質量」による蹂躙。……さあ、どう防ぎますか?』
「ギギィィィッ!!」
ギアンの言葉を合図に、数十体の死甲虫たちが一斉に地響きを立てて突進を開始した。
一台数十トンはあるだろう鋼鉄の塊が、一切の魔法も物理も受け付けずに、文字通り『ひき肉』にするために迫り来る。
「ちぃっ! 効かなくたって、力づくで押し返してやる!!」
「来なさい! 強化靴の出力、最大!!」
イグニスとキャルルが前に出て、迫り来る死甲虫たちの突進を真正面から受け止めようとする。
だが、敵はあまりにも重く、そして多すぎた。
「ぐおぉぉぉっ!? 重てぇ……っ、足が、滑るッ!」
「くっ……アレン、これ以上は支えきれないわ!!」
最強の二人をもってしても、徐々に陣形が押し込まれていく。
背後には負傷して動けないレオンたち『白銀の翼』がいるため、回避して躱すこともできない。俺の『聖光壁』も、次々と叩きつけられる質量攻撃の前にヒビが入り始めていた。
「アレン君……逃げてくれ」
背後で、折れた宝剣を握りしめたレオンが、絶望に染まった顔で呟いた。
「君たちの規格外の力でも、あれは無理だ……! 君たちだけでも逃げ――」
「逃げない!!」
俺はレオンの言葉を強く遮り、額から血を流しながらも、決して前を向くことをやめなかった。
「レオン君はエリートだから、セオリー通りの戦い方しか知らないかもしれない。でも、僕たちのパーティーは元からセオリーなんて存在しないんだ!」
俺は『黒鋼の剣』を地面に突き立て、大きく息を吸い込んだ。
(冷静になれ……相手は魔法も物理も通さない、超重量の鋼鉄の塊。そして、ひたすら真っ直ぐに突進してくるだけの、重すぎる『車』みたいなものだ)
正面からぶつかれば、こっちが潰される。
なら、どうする?
重くて、真っ直ぐしか進めない鋼鉄の塊を、どうやって『自滅』させる?
(……摩擦だ。奴らの圧倒的な推進力を、コントロールできないようにしてやれば……!)
俺の脳内に、父さんから教わった地球の物理法則が閃く。
俺は右手を開き、自分の中に眠る【ランダムボックス】に、今度こそ命懸けの、最強の『運命力(祈り)』を込めた。
「きてくれ……っ!! 僕の仲間の力を活かす、最高のアイテムッ!!」
虹色の光が弾け、俺の手のひらにズシリと重い『何か』が落ちてきた。
聖剣ではない。強力な爆弾でもない。
しかしそれは、この盤面を完全にひっくり返す、俺が求めていた『最強の解答』だった。




