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EP 3

レオンたち『白銀の翼』との最悪な出会いから数時間後。

冒険者ギルド・アイギス支部のホールに、緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

「緊急依頼だ! 城塞都市の東にある『枯れ森』で、オークの異常繁殖スタンピードの兆候が見られる! 手遅れになる前に、Bランク以上のパーティーは直ちに森へ向かい、群れを間引いてくれ!」

ギルド職員の悲痛な叫びに、屈強な冒険者たちが次々と立ち上がる。

俺たちも急いで向かおうとしたその時、行く手を遮るようにレオンが立ち塞がった。

「ちょうどいい機会だ、アレン君。僕たち『白銀の翼』と、君たちで【討伐数】の勝負をしようじゃないか」

「勝負?」

「ああ。本物の連携というものを、君たちに教えてあげるよ。もし僕たちが勝ったら、君は『リーダーの器じゃない』と認めて、そこの大人たちを解放することだね」

レオンの挑発に、イグニスがピキッと青筋を立てる。

俺は小さくため息をつき、「わかった、その勝負受けるよ」と真っ向から頷いた。結果で証明する、そう決めたからだ。

   ◆

そして、『枯れ森』での討伐レースが幕を開けた。

まずはレオンたち『白銀の翼』が、教科書通りの完璧な戦闘セオリーを見せつけた。

「シールドバッシュ! 敵のヘイトを僕に集める!」

重装盾騎士タンクがオークの群れの突進を完璧に受け止め、前線を維持する。

「炎よ、敵を焼き尽くせ! 『ファイア・ストーム』!」

後衛の高位魔法使い(キャスター)が、正確な詠唱でオークの群れを削る。

「今だ! はぁぁぁッ!!」

そして崩れた陣形に、リーダーのレオンが金髪を靡かせながら飛び込み、流麗な剣術で次々とオークの急所を貫いていく。怪我をすれば、即座に白魔導士のヒールが飛んでくる。

無駄がなく、美しく、そして確実な勝利の方程式。

「ふん。見たかアレン君。これがエリートたる僕たちの――」

レオンが自慢げに振り返った、その瞬間だった。

「ガァーッハッハッハ!! 邪魔だ邪魔だぁっ! 『イグニス・ブレイク』ッ!!」

ドゴォォォォォォォォンッ!!

イグニスの両手斧が地面に叩きつけられ、オークの群れどころか、森の地形そのものをクレーターのように抉り取った。

「月影流――『乱れ鐘打ち』ッ!!」

バキィィィンッ!

キャルルがマッハの速度で飛び蹴りを放ち、オークたちが悲鳴を上げる間もなく、ボールのように空の彼方へカキーン!と飛んでいく。

「あらあら、森のお掃除ね! 『大地の落とし穴』!」

ズドドドドッ!

ルナが笑顔で杖を振ると、地面が数十メートル規模で陥没し、オークたちが一網打尽に穴の底へ落ちていく。

そして、その後ろで13歳の少年(俺)が、メガホンを持って叫び回っていた。

「ストォォォップ!! イグニス、それ以上やったら森の木が全滅する! キャルル! オークを空に蹴り飛ばしたら討伐部位(耳)が回収できないでしょ!? ルナは穴を広げすぎ! 僕たちまで落ちるから!!」

「ちっ、アレンは細かいなぁ!」

「ごめんごめん、ちょっと手元が狂ったわ!」

連携ゼロ。戦術ゼロ。完全に怒られる大人たちと、胃薬が必要な苦労人リーダー。

しかし、その『個の殲滅力』は、レオンたちの完璧な戦術を鼻で笑うほどに規格外デタラメだった。

「な、なんだあいつらは……ッ。陣形もクソもない、ただの蛮族じゃないか! なのに、あの圧倒的な討伐スピードは……!」

レオンは額に冷や汗を流し、プライドを酷く傷つけられたように唇を噛んだ。

「くそっ、僕たち『白銀の翼』が、あんな子供のお遊びに負けるわけにはいかない! みんな、もっと森の奥へ進むぞ! オークの巣を直接叩く!」

焦ったレオンは、セオリーを無視して森の最深部へと足を踏み入れてしまった。

それが、取り返しのつかない『本物の絶望』への入り口だとも知らずに。

   ◆

枯れ森の最深部。

そこは、異常なほど静まり返っていた。オークの鳴き声はおろか、鳥のさえずりすら聞こえない。

「……レオン。おかしいよ、魔獣の気配が急に消えた。なんだか、嫌な予感がする」

魔法使いの少女が、震える声で周囲を見回す。

「弱音を吐くな! Bランクの僕たちなら――」

レオンが言いかけた、その時。

木々の陰から、『ズシン……ズシン……』と、重く冷たい金属音が響いてきた。

現れたのは、オークではなかった。

体長3メートル。黒光りする鋼鉄の装甲に覆われ、巨大な一本角を持った機械の蟲――『死甲虫ビートル型』。それが、数十体という群れを成して、無機質な赤い複眼をレオンたちに向けていたのだ。

「な、なんだこの魔獣は!? 見たこともないぞ!」

「レ、レオン! 来るよ!!」

死甲虫型の一体が、地響きを立てて突進してくる。

「くっ、僕が止める! 『シールド・ウォール』!」

重装盾騎士が、オークの突進を余裕で防いだ大盾を構え、前に出た。

――ガァァァァァァァンッ!!!

「がはぁぁぁっ!?」

盾騎士の悲鳴。分厚い鋼の大盾が、まるで薄いガラスのように粉々に砕け散り、彼は血を吐いてはるか後方へと吹き飛ばされた。

「ウソだろ……!? おい、魔法で一斉掃射だ!!」

「は、はいっ! 『エクスプロージョン』!!」

高位魔法使いが最大火力の爆発魔法を放つ。

直撃。しかし、爆煙が晴れた後、死甲虫型の群れは全くの『無傷』だった。

魔法耐性を極限まで高めたその無機質な装甲には、スス一つついていない。

「魔法が、全く通じない……っ」

「ひぃぃっ! いや、いやだぁぁっ!」

白魔導士が腰を抜かし、涙を流して後ずさる。

「くそっ、くそぉぉっ! 僕が斬り開く! 『白銀雷光剣』ッ!!」

レオンが誇りを懸け、最高級のミスリルの宝剣で、渾身の魔法剣を死甲虫の甲羅に叩き込んだ。

キィィィィンッ……!!

硬質な音と共に、レオンの手に嫌な感触が走る。

必殺の剣は甲羅に傷一つ付けられず、あろうことか、宝剣の刀身が根元からポッキリと折れてしまったのだ。

「あ……」

折れた剣を握りしめたまま、レオンは膝から崩れ落ちた。

盾が通じない。魔法が効かない。剣が折れる。

今まで積み上げてきたエリートとしてのセオリーが、自信が、たった数秒で蹂躙された。

「……これが、本物の……絶望……」

ジリ……ジリ……と、死甲虫型の群れが、感情のない機械の足音を立てて彼らを包囲していく。

レオンの瞳から光が消え、ただ死を待つことしかできない極限の恐怖が支配した、その時。

『――ふぅん。実に良い表情カオですね。ですが、あの小憎たらしい少年アレンの顔を見るまでは、私の心は満たされませんよ』

死甲虫型の群れが道を空け、その後ろから、ゆっくりと『見覚えのある人影』が歩み出てきた。

ボロボロの道化師の服。しかし、顔を覆っていたあの不気味な仮面はない。

剥き出しになっていたのは、人間の肌ではなく、無数のレンズが埋め込まれた機械の複眼と、金属の顎だった。

魔人ギアン。

帝都の地下水道で俺たちに敗北した死蟲軍の指揮官が、手品と余裕を完全に捨て去った『純粋な殺戮機械』として、再び俺たちの前にその恐るべき姿を現したのだった。

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