EP 2
帝都アルクスを出発してから数日。
俺たち問題児パーティーは、国境防衛の要となる巨大な防壁に囲まれた街――『城塞都市アイギス』へと到着した。
「うわぁ……帝都の壁よりずっと高くて分厚いね」
「魔獣の生息地帯や、かつての魔王領に近い最前線の都市だからな。ピリピリしてやがるぜ」
巨大な城門をくぐり抜けると、街を行き交う人々の装備も、帝都の冒険者たちよりずっと実戦的で重装備な者が多い。
俺たちは長旅の報告と情報収集のため、街の中央にある冒険者ギルド・アイギス支部へと足を踏み入れた。
ギルドの扉を開けると、喧騒がふっと止み、中の冒険者たちの視線が一斉に俺たちに集まった。
無理もない。身長2メートル超えの屈強な竜人、絶世の美女であるエルフ(ルナ)、特注の武闘具を装備した月兎族の少女。
そして、そんな規格外の大人たちの先頭を歩く、13歳のヒョロっとした人間の少年(俺)。
どう見ても、バランスがおかしくて目立つ集団だ。
「さぁて、まずは宿の確保と、飯代を稼ぐためのクエスト探しだなぁ!」
イグニスが掲示板に向かって大股で歩き出そうとした、その時だった。
「――おい。そこの君たち」
凛とした、しかしどこか見下すような冷たい声が、ギルド内に響いた。
声の主は、ギルドの特等席である中央の円卓に座っていた、一人の少年だった。
年齢は俺より一つ上の14歳くらいだろうか。
太陽の光を反射して輝く、最高級のミスリル製フルプレートアーマー。腰には装飾の施された美しい宝剣を帯び、金髪の整った顔立ちをしている。
彼の背後には、重装盾騎士、高位魔法使い(キャスター)、そして白魔導士という、教科書に載っているような完璧な編成のパーティーメンバーが控えていた。
「君が、その後ろの大人たちを率いている『リーダー』なのか?」
金髪の少年が、俺を値踏みするように真っ直ぐな視線を向けてくる。
「えっ? ああ、うん。僕がリーダーのアレン・鍵田だけど……君は?」
俺が名乗ると、少年はフッと鼻で笑い、優雅な所作で立ち上がった。
「僕はレオン。レオン・ヴァルハルト。この城塞都市アイギスで最速・最年少でBランクに昇格したエリートパーティー、『白銀の翼』のリーダーだ」
レオンと名乗った少年は、自慢げに胸を張り、俺の仲間たち――特に、あくびをしているイグニスと、キョロキョロしているルナを見て、深くため息をついた。
「アレン君と言ったね。はっきり言わせてもらうが、君のパーティーは『異常』だ。前衛と後衛のバランスも無茶苦茶なら、統率も取れていない。何より、13歳の子供が無理をして大人を従えようとするなど……冒険を、命のやり取りを『お遊び』だと勘違いしているんじゃないか?」
「お遊び……?」
俺が眉をひそめるより早く、後ろの大人たちが即座に反応した。
「あぁん? 誰に向かって口を利いてるんだ、この金ピカの若造。俺様の斧の錆にしてやろうか?」
イグニスがギリッと牙を剥き出しにして、圧倒的な闘気を放つ。
「ちょっとアレン、この生意気な坊ちゃん、一発蹴り飛ばしていいかしら?」
キャルルがトンファーを構え、ウサギの耳を不機嫌そうにピンと立てた。
一触即発の空気。
ギルド内の冒険者たちが「おいおい、あのヤバそうな竜人が暴れるぞ……」と青ざめて後ずさりする。レオンの後ろのメンバーたちも、イグニスの殺気に顔を引きつらせて武器に手をかけた。
だが、俺はスッと右手を上げ、仲間たちを制止した。
「イグニス、キャルル。手を出さないで」
「し、しかしアレン! こいつ、お前をバカにしたんだぞ!」
「そうよ! リーダーをコケにされて黙ってるなんて、私たちの気が収まらないわ!」
怒り心頭の二人に対して、俺は静かに首を振った。
「大丈夫。僕は怒ってないから」
俺は一歩前に出て、レオンの目を真っ直ぐに見返した。
「レオン君。忠告はありがたく受け取っておくよ。確かに僕のパーティーは、君たち『白銀の翼』みたいに教科書通りの完璧な編成じゃないかもしれない」
俺は、後ろでまだ不満そうにしているイグニスたちを振り返り、クスッと笑った。
「でも、僕の仲間は世界一強くて、そして世界一頼りになる最高のメンバーだ。僕たちの冒険は、お遊びなんかじゃない。それは、これからの結果で証明してみせるよ」
13歳とは思えない、落ち着き払った俺の態度。
それに気圧されたのか、レオンは一瞬だけ悔しそうに顔を歪め、すぐにふんいとそっぽを向いた。
「……ふん。口では何とでも言えるさ。蛮勇と無謀を履き違えたパーティーがどういう末路を辿るか、僕たちは嫌というほど見てきているからね」
レオンはマントを翻し、メンバーたちを引き連れてギルドの出口へと歩き出す。
「まあいい。僕たちはこれから、ギルド長直々の『指名依頼』に行かなければならない。君たちのような底辺の冒険者とは、住む世界が違うんだ。せいぜい、スライム相手に怪我をしないことだな」
『白銀の翼』のメンバーたちが、嘲笑を含んだ視線を俺たちに向けながら、ギルドを出ていった。
「……なーにが白銀の翼よ。嫌味ったらしい。やっぱり顎砕いとけばよかったわ」
キャルルが不満げに頬を膨らませる。
「ごめんね、みんな。僕が子供だから、みんなまでバカにされちゃって」
俺が苦笑いしながら謝ると、イグニスが大きな手で俺の頭をガシガシと撫で回した。
「バカ野郎! お前はあのムカつく若造の挑発に乗らず、堂々としてたじゃねぇか! さすがは俺様が見込んだリーダーだぜ!」
「ええ。アレン君はとっても大人だったわ。それに、私たちのことを最高だって言ってくれて、嬉しかったわ〜」
ルナもふんわりと笑い、俺の背中をポンポンと叩いてくれた。
世間から見れば、俺たちはただの『アンバランスな問題児の集まり』かもしれない。
エリートから見下され、笑われるようなパーティー。
だけど、俺たちは知っている。いざという時の、俺たちの連携と個々の力が、どれだけ規格外であるかを。
「よし! レオン君にはスライム狩りでもしてろって言われたけど、僕たちも負けずにガッツリ稼げる依頼を探そう!」
俺の掛け声に、問題児たちが「おうっ!」と力強く応える。
エリートたちとの最悪の出会い。しかしこれが、この城塞都市アイギスを揺るがす大事件の幕開けに過ぎないことを、俺たちはまだ知らなかった。




