第五章 エリートとの激突、そして『笑わない道化師』の逆襲! テーマ:エリートとの激突、そして『笑わない道化師』の逆襲!
帝都アルクスの巨大な城壁を背にしてから数日。
俺たち問題児パーティーは、隣国との国境にある城塞都市『アイギス』を目指し、見渡す限りの荒野と森が続く街道を進んでいた。
そして現在。時刻は夕暮れ。
俺たちは街道を少し外れた森の開けた場所で、初めての『野営』の準備に取り掛かっていた。
「あーあ。ルナキンのふかふかの椅子と、山盛りのハンバーグが恋しいぜ……」
イグニスが焚き火用の太い丸太を素手でへし折りながら、大きなため息をつく。
帝都の便利な暮らしにすっかり染まりきっていた竜人にとって、野宿はかなり堪えるらしい。
「文句言わないの。ほら、火を点けなさい。強すぎないように、指先からチョロっとよ」
「わかってるぜウサギ。……ふぅっ」
キャルルの指示で、イグニスが器用に息を吹きかけ、あっという間に焚き火が完成した。
さすがはS級の火力、こういう時の着火係としてはこれ以上なく頼りになる。
「あらあら、それじゃあ私が美味しい夕食を作るわね! さっき森で採ってきた、この青紫色で斑点のあるキノコを……」
「ルナさんストップ!! そのキノコ、絶対に食べちゃダメな色してるから!!」
俺は慌ててルナの手から猛毒確定のキノコを没収し、持参した干し肉と硬いパンを鍋に放り込んだ。
……うん、相変わらず手のかかる大人たちだ。
簡単な夕食を終え、夜の帳が下り始めた頃。
野営において最も重要な問題が浮上した。
「さて、夜の見張りだけど……交代制にするにしても、ここは魔獣が多い森だ。何か接近を知らせる罠を張っておきたいな」
俺がそう提案すると、3人は顔を見合わせた。
「罠ぁ? そんなチマチマしたもん、俺様は知らねぇぞ。近づいてきた奴から斧で叩き切るだけだ」
「私も武術しか教わってないから、そういう野伏みたいな技術はないわね」
「魔法で森の木々にお願いしてもいいけど、夜はみんな寝ちゃうのよねぇ」
全員、戦闘スペックは最強だが『サバイバル技術』は皆無だった。
俺はため息をつき、立ち上がった。
「仕方ない。僕の【ランダムボックス】で、何か見張りに使えそうな地球のアイテムを出してみるよ。父さんの話だと、地球には『センサー』とか『ワイヤーアラーム』っていう便利な魔道具(機械)があるらしいから」
俺は右手に意識を集中させ、光の箱を出現させた。
(頼む……! 見張りの代わりになる、便利な防犯グッズを……!)
淡い期待を込めて、箱を開ける。
ポンッ、という気の抜けた音と共に、俺の手のひらに落ちてきたのは――。
「……なんだこれ?」
小さな紙箱。その中には、茶色くて細い『ゴムの輪っか』が大量に入っていた。
「アレン、それはなんだ? またあの接着剤みたいに、凄い魔法の道具なのか!?」
「ええと……これはただの『輪ゴム』。地球で、紙とか袋をまとめるのに使う、ただの文房具……」
イグニスが期待に目を輝かせるが、俺はガックリと肩を落とした。
やっぱりだ。
地下水道で『フラッシュバン』を出した時や、ギアンの糸を破るために必死に祈った時とは、明らかに出てくるアイテムの『質』が違う。
(……わかったぞ。僕のスキルは、自分の命や仲間の危機みたいな『極限の状況』で強い願いを込めない限り、基本的には『100%どうしようもない日用品』しか出ないんだ……!)
便利な道具がいつでも出せる、都合のいい魔法の箱じゃない。
これが、【ランダムボックス】の絶対的な制約だ。
「なんだ、ただのヒモかよ。じゃあ使い道はねぇな」
イグニスが欠伸をして寝袋に潜り込もうとする。
だが、俺は輪ゴムの束を握りしめ、ニヤリと笑った。
「……いや、使い道はあるよ。みんな、ちょっとそこら辺から『Yの字』になってる木の枝と、小石をいくつか拾ってきてくれないか?」
「え? まあ、いいけど……」
キャルルたちが不思議そうにしながらも、枝と石を集めてきてくれた。
俺はそれらを受け取ると、Y字の枝の間に輪ゴムを何重にも張り渡し、そこに小石を挟み込んで絶妙なバランスで固定した。
さらに、それらを野営地の周囲の木々に等間隔で設置し、落ちていた細いツタをピンと張って、輪ゴムの仕掛けに結びつけていく。
「アレン君、何をしてるの?」
「地球の知恵の応用さ。簡易的な『鳴子』だよ」
俺が設置を終え、パンと手を叩いた。
「イグニス、ちょっとそこにあるツタに足を引っ掛けてみてよ」
「あぁん? こうか?」
イグニスが無造作に歩き、足元に張られたツタに触れた瞬間。
パァァンッ!! カラカラカラッ!!
ツタに引かれた輪ゴムの張力が一気に解放され、挟まっていた小石が勢いよく弾け飛び、近くに吊るしておいた空の鍋や金属の水筒に激突して、けたたましい音を森に響かせた。
「うおぉぉっ!? な、なんだ今の音は!?」
「すごい……! 魔法も魔石も一切使わずに、ただのゴムの反発力だけでこんな精巧な警報装置を作ったの!?」
イグニスが飛び上がり、キャルルが目を丸くして驚愕する。
「うん。これなら、見張りがうとうとしていても、魔獣がツタに引っかかれば絶対に気づける。ただの『輪ゴム』でも、使い方次第で立派な罠になるんだ」
俺が胸を張って説明すると、大人たち3人は顔を見合わせ、そして心底感心したように、俺に向かって拍手をしてくれた。
「……大したもんね、アレン。やっぱりあんたは、私たちのリーダーだわ」
「ガハハ! 力が無くても頭がキレる! さすがは英雄の息子だぜ!」
「ふふっ、これで安心してぐっすり眠れるわね~」
頼りになる仲間たちからの、心からの称賛。
自分の『知恵』が認められたことが嬉しくて、俺は少し照れくさそうに頭を掻いた。
ハズレアイテムしか出ないポンコツスキル。
だけど、俺の頭の中には、父さんから受け継いだ『地球の知識』と、それを応用する発想力がある。これがあれば、どんなガラクタだって最強の武器に変わるんだ。
「よし! それじゃあ明日は早起きして、一気に『城塞都市アイギス』まで進むよ!」
「「「おーっ!!」」」
こうして、初めての野営の夜は更けていく。
頼もしい仲間と、少しの知恵。それだけを武器にして、俺たちの旅は本格的に幕を開けたのだった。




