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EP 12

俺の激しい筋肉痛と魔力枯渇がすっかり完治し、ようやくいつもの体調を取り戻した数日後の朝。

シェアハウスの洗面所から、キャルルの悲鳴が響き渡った。

「きゃあああっ!? な、なんなのよこれ!!」

「どうしたのキャルル!?」

俺が急いで駆けつけると、洗面所に設置されていた『魔導全自動洗濯機』が、まるで狂ったようにガタガタと激しく振動していた。

これも、父さん(リュウ)がかつて「手洗いは面倒だ」という理由で、風魔法と水魔法の魔石を組み合わせて開発した、帝都の大ヒット商品だ。

「アレン、洗濯機が急に火を吹き始めたのよ! 私のお気に入りの服が焦げちゃう!」

「えっ!? 水魔法の魔石しか入ってないはずなのに、なんで火が……っ、危ない!」

バンッ!!

俺がキャルルを庇って伏せた瞬間、魔導洗濯機のフタが爆発音と共に吹き飛び、中から高圧の熱水と燃える服の切れ端が散弾銃のように発射された。

壁に突き刺さる熱水。普通の故障とは明らかに違う、まるで明確な『殺意』を持った暴走だ。

「ガハハ! どうした、朝から騒がしいな。俺様の朝飯はまだ……うおっ!?」

リビングから顔を出したイグニスに向かって、今度はキッチンに置いてあった『魔導自動調理器オーブン』が火炎放射器のように炎を噴き出した。

「な、なんだぁ!? 飯を作る機械が俺様に喧嘩を売ってきやがったぞ! 叩き割っていいか!?」

「ダメ! 爆発するかもしれない! とにかく外に避難しよう!」

ただごとではない。俺たちは慌てて武器を手に取り、シェアハウスを飛び出した。

だが、玄関の扉を開けた俺たちの目に飛び込んできたのは、俺たちの部屋以上に凄惨な『地獄絵図』だった。

「ひぃぃぃっ! 助けてくれぇっ!」

「車が! 魔導四輪車が勝手に走り出して、お店に突っ込んだぞ!!」

「誰か火を消して! 水道から熱湯しか出ないわ!!」

帝都アルクスのメインストリートは、完全なパニック状態に陥っていた。

街灯の魔導ランプが一斉に破裂してガラス片を撒き散らし、重い荷物を運ぶための荷運び用ゴーレムたちが暴走して建物を破壊している。

便利な日常を支えていたあらゆる魔道具が、一斉に人間に牙を剥いたのだ。

「う、嘘だろ……。帝都中の機械が、一斉に壊れたっていうのか……?」

昨日まで、美味しいご飯を食べて、便利に笑い合っていた人々。

その顔は今、予期せぬ日常の崩壊によって、恐怖と『絶望』に歪んでいた。

「アレン君、見て! あそこの壊れたゴーレムの中から、何か出てくるわ!」

ルナが杖で指し示した先。

暴走して壁に激突し、機能停止したゴーレムの装甲の隙間から、カサカサと不気味な音を立てて『それ』が這い出してきた。

手のひらほどのサイズ。鋼鉄の装甲と、機械の節足を持った、蟲の姿をした化け物。

「……蟲? いや、機械なのか……?」

『キィィィィッ!!』

機械の蟲(パラサイト型)は、俺たちに気づくと、鋭い金属の牙を剥き出しにして顔面に飛びかかってきた。

「危ないッ!!」

俺が『黒鋼の剣』を抜くよりも早く、隣にいたキャルルのトンファーが閃き、空中で機械の蟲を粉砕した。

バラバラになった鋼鉄の残骸から、紫色の不気味な体液が漏れ出している。

「チッ、硬いわね。普通の虫じゃないわ。金属でできてる」

「俺様の炎で燃やしてやろうか!」

「待って、イグニス! これでわかった。魔道具が一斉に壊れたんじゃない」

俺は粉砕された機械の蟲の残骸を見下ろし、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「こいつらが、街中の魔道具やゴーレムの内部に寄生して、中から操っていたんだ! 誰かが意図的に、この帝都の『平和な日常』を壊そうとしてる!」

偶然の事故ではない。明確な悪意を持った何者かによる、大規模なテロルだ。

「おいおい、どこのどいつか知らねぇが、俺様の朝飯を邪魔した罪は重いぜ。どこにいるんだ、そいつは!」

「……地下だ」

俺は、道端にある『地下水道』へのマンホールの蓋が、不自然にこじ開けられているのを見逃さなかった。

地下から這い出てきた無数の引っかき傷の痕跡。蟲たちの発生源は、間違いなくあそこだ。

「みんな、聞いて! ギルドや騎士団は、地上の暴走した魔道具の鎮圧で手一杯になるはずだ。僕たち問題児パーティーは、元凶を叩く!」

13歳の俺の号令に、3人の大人たちの目の色が、スッと戦士のものへと変わった。

「ふふっ、地下探索ね。暗いところでも私の魔法があれば明るいわよ」

「行くわよリーダー。私の服を焦がしたバカに、極上のヤキを入れてやるわ」

「ガハハ! 俺様の斧の錆にしてやるぜ!」

「……行くよ! 帝都の平和は、僕たちが取り戻す!!」

俺は剣を強く握り締め、暗く不気味な口を開けている地下水道への階段を、迷うことなく駆け下りていった。

その奥の暗闇で、最悪の『絶望』が待ち受けているとも知らずに。

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