EP 9
俺の体から溢れ出した、母さん譲りの黄金の『聖なる光』と、父さん譲りの赤黒い『闘気』。
相反するはずの二つのエネルギーは、俺の意志に呼応するように螺旋を描いて混ざり合い、圧倒的な密度を持ったプラズマのような輝き――『聖闘気』へと変貌を遂げた。
「す、すげぇ……なんだあの闘気は! 俺様でも見たことがねぇぞ!」
「聖女の魔力と物理闘気の融合……アレン、あんた本当に13歳なの!?」
イグニスとキャルルが驚愕の声を上げる中、俺は父さんから受け継いだ『黒鋼の剣』を両手で上段に構え、床を蹴った。
「はあああああああっ!!」
装甲を失い、恐怖に身をよじって後ずさろうとするアーマー・ビーストの懐へ、一瞬で踏み込む。
狙うは、むき出しになった魔獣の心臓部。
「これで……終わりだッ!! 『聖闘気斬』ッッ!!」
振り下ろされた黒鋼の剣が、魔獣の分厚い皮膚と筋肉を、まるで水面を裂くように何の抵抗もなく両断した。
傷口から黄金と赤黒い光の奔流が魔獣の体内へと流れ込み、その細胞の活動を完全に停止させる。
「ブ、ギィィ……ッ」
Aランク魔獣アーマー・ビーストの巨体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、地響きを立てて完全に沈黙した。
「……やった」
俺が剣を振り抜き、荒い息を吐きながら立ち上がると、岩陰に隠れていた鉱夫たちから、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「た、倒したぞぉぉっ!!」
「すげぇ! 冒険者の主力部隊もいないのに、たった4人でAランク魔獣を……!」
歓声の中、背後からドスドスと重い足音が近づいてきたかと思うと、突然、俺の体がヒョイッと宙に持ち上げられた。
「ガァーッハッハッハ!! やったなアレン! さすがは俺様が見込んだリーダーだぜ!」
「ちょっとイグニス、アレンが潰れちゃうでしょ! 下ろしなさい!」
キャルルがイグニスのスネに蹴り(軽め)を入れて俺を救出すると、ポンポンと俺の頭を乱暴に、しかし優しく撫でてくれた。
「ふふっ。あの魔法の光の筒も凄かったけど、最後の一撃、完璧だったわよ。リーダー」
「お疲れ様、アレン君。怪我はないかしら? あったら私がすぐに治してあげるわね」
ルナもふんわりと笑いながら、俺の頬についた泥をハンカチで拭ってくれる。
俺は、強くて、ワガママで、でも最高に頼りになる3人の仲間たちを見回し……心の底から込み上げてくる嬉しさに、満面の笑みで頷いた。
「うん! みんな、最高の連携だったよ! ありがとう!!」
◆
数時間後、帝都アルクスの冒険者ギルド・本部。
「――っっっ!? ほ、本当にアーマー・ビーストを討伐したんですかっ!?」
受付のお姉さんが、カウンターにドスッと置かれた『砕けたミスリルの装甲片』と、鉱山長からの『討伐証明書』を見て、目玉が飛び出んばかりに驚愕していた。
ギルド内の他の冒険者たちも、信じられないものを見る目で俺たちを遠巻きに囲んでいる。
「ガハハ! 当たり前よ! 俺様たち『帝都最強パーティー』にかかれば、Aランク魔獣なんて赤子同然だぜ!」
「うるさいわねトカゲ。あんた最初、魔法を弾かれて岩盤崩しただけじゃない」
「な、なんだとウサギ! トドメの装甲を割ったのは俺様だぞ!」
「あらあら、また喧嘩? 私が幻覚のお花でみんなを仲良しにしてあげるわね」
「ルナさんストップ! ここギルドの中だから!」
俺が慌ててルナの杖を押さえ込んでいると、受付のお姉さんが、震える手で俺の手を握りしめた。
「アレン様……あなたという人は……。まさか本当に、この三大問題児を従えて、Aランククエストを無傷で成功させるなんて……っ! さすがは、英雄リュウ様の御子息です!」
「あはは……みんなが協力してくれたおかげですよ」
俺は苦笑いしながらも、誇らしい気持ちで胸を張った。
もう、「ガキのパーティーなんてごめんだ」と冷笑する大人は、このギルドには一人もいなかった。
◆
その夜。
俺たちは、おなじみの大衆ファミレス『ルナキン』のボックス席で、特大の祝杯を上げていた。
「よし! Aランクの特別報酬も入ったし、今日は僕の奢りだ! みんな、好きなものを頼んでいいよ!」
「よっしゃぁぁっ! 姉ちゃん! メニューの肉料理、上から下まで全部持ってきてくれ!!」
「私は特大の苺パフェ! あと人参サラダの追加ね!」
「私はドリンクバーの全種類混ぜジュースを作るわ〜!」
テーブルに乗り切らないほどの料理が運ばれてきて、俺たちはグラスを高く掲げた。
「僕たち最強パーティーの、初陣の勝利を祝して……乾杯!!」
「「「乾杯っ!!」」」
イグニスが肉の山を豪快に平らげ(今回は炭にしていない)、キャルルが嬉しそうにパフェを頬張り、ルナが謎の色のジュースを飲んでニコニコしている。
騒がしくて、ハチャメチャで、目が離せない仲間たち。
でも、不思議と嫌じゃない。むしろ、この時間がずっと続いてほしいとすら思う。
俺はこっそりポケットの中に手を入れた。
指先に触れる、あの『黄色いアヒルの玩具』。戦闘には役に立たない、ポンコツなハズレアイテム。
でも、俺の【ランダムボックス】は、このアイテムから始まったんだ。
(父さん、母さん。俺……すっごく楽しいよ。最高の仲間が見つかったんだ)
外はすっかり夜が更け、帝都アルクスの美しい星空が広がっている。
13歳の少年アレンと、問題児だらけの大人たちによる、誰も見たことのない新しい英雄譚。
俺たちの本当の冒険は、まだ始まったばかりだ――!




