EP 7
「急ぐわよみんな! Aランク魔獣なんて、冒険者ギルドの主力部隊が到着する前に私たちが片付けて、報酬を独り占めする大チャンスじゃない!」
帝都アルクスからミスリル鉱山へと続く街道を、キャルルがウサギ特有の驚異的な跳躍力でピョンピョンと先行しながら叫んだ。
「待ってキャルル! 近道なら私に任せて。森の木々が、こっちだよって囁いてるわ〜!」
ルナがふんわりとした笑顔で街道を外れ、鬱蒼とした森の奥深くへと自信満々に駆け出していく。
しかし、彼女が向かっている方向は、ミスリル鉱山とは180度逆の『隣国』の方角だった。
「どこ行ってんのよこのポンコツエルフ!! そっちは魔王領の跡地よ!!」
キャルルが空中で強引に軌道を変え、マッハの速度でルナの襟首を引っ掴んで元の街道へと引きずり戻す。
「ふきゅっ!?」
「ったく、方向音痴にも程があるわ! アレン、あんたルナから目を離さないで!」
「う、うん! わかった!」
俺は『黒鋼の剣』がガチャガチャと鳴るのを押さえながら、全力で二人の後を追った。
その後ろからは、地響きを立てながら巨体のイグニスが走ってくる。
「ガァーッハッハッハ! 燃えてきたぜ! 俺様の斧の初お披露目には最高の舞台だ!」
「イグニス! 絶対に『大火炎』は使っちゃダメだからね!? 鉱山の中で火を吹いたら酸欠になるし、生き埋めになっちゃうから!」
「わ、わかってるって! 物理でぶっ叩けばいいんだろ、物理で!」
(……本当に大丈夫なのかな、このパーティー)
俺は冷や汗を拭いながら、一抹の不安を抱えつつ鉱山へと急いだ。
◆
数十分後。俺たちがミスリル鉱山の入り口に到着すると、そこはすでに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「ひぃぃぃっ! バケモノだぁぁっ!」
「坑道が崩れるぞ! 逃げろぉぉっ!」
泥だらけになった数十人の鉱夫たちが、命からがら坑道から飛び出してくる。
その直後――。
ズズズズズズッ……!! ドゴォォォォォォンッ!!
鉱山の入り口の分厚い岩盤を内側から粉砕し、巨大な『それ』が姿を現した。
「ブルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
大気を震わせる咆哮。
体長は優に5メートルを超え、全身が鋼よりも硬い『ミスリル鉱石』の分厚い装甲で覆われた四足歩行の魔獣。
Aランク相当の災害指定魔獣――『狂甲獣』だ。
「うわぁ……デカい。それに、すごい圧だ……」
俺は思わず息を呑み、盾を構えて身構えた。
だが、歴戦(?)の大人たちは全く動じていなかった。むしろ、不満げな声を上げている。
「ちょっと! なにあれ、土煙すごすぎじゃない! 私のフワフワの毛並みが汚れちゃうし、お気に入りの服がホコリまみれになるわ!」
キャルルが耳をパタパタさせながら、露骨に嫌そうな顔で文句を言っている。
「あらあら、怒ってて可哀想に。お腹が空いてるのかしら? 私が美味しいお野菜を出してあげ――」
「ルナ! 今あいつに野菜をあげたら、栄養満点になってさらに凶暴化するからやめて!」
俺がルナの杖を必死に押さえつけていると、横からイグニスが嬉々として両手斧を構えて飛び出した。
「ガハハハッ! アレン、見てろ! 約束通り火は吹かねぇ! この俺様の純粋な力で、あの硬そうな甲羅ごとカチ割ってやるぜ!!」
「あっ、ちょっとイグニス! まだ連携の打ち合わせが――!」
俺の制止を無視し、イグニスは背中の竜の双翼を羽ばたかせて上空へ飛び上がった。
「潰れな! 『イグニス・ブレイク(物理特化)』ォォォォッ!!」
闘気を極限まで纏わせた両手斧が、隕石のような速度でアーマー・ビーストの脳天へと振り下ろされる。
S級の竜人の一撃だ。いかにミスリルの装甲とはいえ、タダでは済まないはずだった。
――ガキィィィィィィンッ!!!!
しかし。
アーマー・ビーストは巨体に似合わぬ俊敏さで体を丸め、背中の最も分厚い甲羅の部分で、イグニスの斧を斜めに『受け流した』のだ。
「なっ!?」
イグニスの渾身の破壊力は魔獣の装甲を滑り、そのまま真下にある『鉱山の岩盤』へと直撃した。
ドッゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
「うわあああああっ!?」
凄まじい衝撃波と共に大地が爆発し、俺たちは吹き飛ばされそうになった。
最悪なことに、イグニスの規格外のパワーによって鉱山の入り口付近の地盤が完全に崩落し、大量の岩石がバラバラと降り注いできたのだ。
「イ、イグニス! 何やってるの! 鉱山が崩れちゃうよ!!」
「わ、悪ぃ! 思ったよりツルッと滑りやがった!」
イグニスが慌てて飛び退くが、時すでに遅し。
崩落した岩石によって退路を塞がれ、俺たち4人は、怒り狂うアーマー・ビーストとすり鉢状の岩場に完全に閉じ込められてしまった。
「ブモォォォォォォォォッ!!」
甲羅に傷をつけられて激怒したアーマー・ビーストが、体をボールのように丸め、超高速の回転突進の構えに入る。
Aランク魔獣の必殺技『ミスリル・ローラー』。あんなものに巻き込まれれば、いかに頑丈な竜人でもタダでは済まない。
「ちょっとトカゲ! あんたのせいで逃げ場がなくなったじゃないの!」
「う、うるせぇウサギ! ならお前が蹴り飛ばして止めろ!」
「私の強化靴でも、あのミスリルの塊を蹴ったら足が折れるわよ!」
「あらあら、二人とも喧嘩はダメよ〜。私が『ハッピー・ドリーム(幻覚植物)』でみんなを眠らせて……」
「ルナ! 今それやったら僕たちまで幻覚見て終わっちゃうから!!」
迫り来る死の回転突進の真ん前で、俺のパーティーメンバーたちは信じられないほど見事な『仲間割れ』を繰り広げていた。
(……ダメだ。みんな個人の力は強すぎるのに、全然噛み合ってない!!)
このままじゃ、全滅する。
俺は奥歯を強く噛み締め、パーティーの先頭へと躍り出た。
父さんから受け継いだ『黒鋼の剣』を構え、左手の盾を前に突き出す。
(僕が……僕がリーダーとして、あいつの隙を作らなきゃ!)
俺は、自分のステータスプレートに刻まれた、あのふざけた名前の【ユニークスキル】に、ありったけの魔力と「頼む!」という強い祈りを込めた。
「きてくれっ……!! 僕の、【ランダムボックス】ッッ!!!」
俺の右手に、眩い光の箱が出現した。
絶対絶命のピンチ。勇者としての強い意志(運命力)が、初めてそのスキルの『確率』をバグらせた瞬間だった。




