EP 6
ファミレス『ルナキン』でのドタバタな出会いを経て、俺たちは正式にパーティー結成の手続きをするため、再び冒険者ギルドへと足を運んでいた。
しかし、ギルドの立派な両開き扉の目前で、一人の男がピタリと足を止め、腕を組んで仁王立ちになった。
「……ちょっと待て。パーティーを組むのは百歩譲っていいとしてだ」
大剣より重い両手斧を背負った竜人、イグニスが、不満げに鼻息を荒くして俺とキャルルを見下ろした。
「なんで俺様のような大英雄が、ヒョロガリの13歳のガキや、兎の嬢ちゃんの下につかなきゃならねぇんだ! 戦闘力で言えば、どう考えても俺様がリーダーだろうが!」
「はぁ?」
イグニスの主張に、兎耳をピクッと動かしたキャルルが、呆れたようなため息をついた。
「あんたねぇ。さっきアレン君の金でハンバーグセット奢ってもらって、一番デカい声で『一生ついていくぜ!』って泣いてたじゃない。どの口が言ってんのよ」
「そ、それはそれ、これはこれだ! 竜人族の誇りとして、集団のトップは一番強い者が立つのが自然の摂理! 俺様がリーダーで、アレンが専属事務官、お前たち女二人は俺様のサポートだ! 決まりだな!」
ふんぞり返ってドヤ顔をキメるイグニス。
だが次の瞬間、キャルルの姿が、フッと蜃気楼のようにブレた。
「え?」
俺が瞬きをした時には、すでにキャルルはイグニスの懐(ゼロ距離)へと潜り込んでいた。
「自然の摂理? ばっかじゃないの。この帝都の摂理はね――『事務手続きができる奴が一番偉い』のよ!!」
「なっ――」
キャルルが両手に構えた特注のダブルトンファーが、イグニスの巨体のバランスを絶妙な力加減で強引に崩す。
体勢を崩され、顎が無防備に跳ね上がったイグニスに向かって、キャルルは恐ろしいほどの闘気を纏わせた右膝を、下からカチ上げた。
「月影流――『顎砕き』ッ!!」
ゴメェェェェンッ!!!
「あべばっ!?」
鈍い打撃音がギルド前の広場に響き渡る。
S級クラスの耐久力を誇るはずの竜人の巨体が、たった一発の膝蹴りで宙に浮き、そのまま白目を剥いて地面にズドーン!と沈み込んだ。
「ひぃっ!?」
俺は思わず一歩後ずさった。
体重差も体格差も完全に無視した、あまりにもえげつない急所への一撃。
口から泡を吹いてピクピクと痙攣しているイグニスを見下ろし、キャルルはトンファーをくるりと回して腰に収めた。
「ふぅ。他にリーダーの座に文句があるトカゲはいるかしら?」
「……い、いません。キャルルさん、強すぎ……」
「だから、さん付けは禁止だってば。よろしくね、アレン『リーダー』」
キャルルがニカッと笑ってウインクをする。
そこへ、おでこに『冷えピタ』を貼ったルナが、ふんわりとした笑顔で倒れているイグニスに近づいた。
「あらあら、イグニスさんお怪我かしら? 大丈夫、私が治してあげるわね。ええと、たしか【大地の息吹・極】だったかしら」
「ま、待ってルナさん! その魔法、対象が街中だと――!」
俺の制止も虚しく、ルナの白銀の杖から規格外の自然回復魔法が放たれる。
イグニスの顎の骨は一瞬で治癒したが、余剰な魔法エネルギーが周囲の石畳に作用し、ギルド前の広場からドゴゴゴゴッ!と巨大な大樹や色とりどりの花が乱れ咲いてしまった。
「わぁ〜、綺麗なお花畑ね!」
「綺麗じゃないわよ! ギルドの前の道を塞いじゃってるじゃないの! アレン、早くこいつらの首根っこ掴んで中に入るわよ!」
「う、うん!!」
俺は目を覚ましたイグニスと、呑気に花を摘んでいるルナの背中を押し、慌ててギルドの中へと駆け込んだ。
◆
「――というわけで、この4人でパーティー登録をお願いします」
俺がギルドの受付カウンターで、自分のスマホ(魔導通信石)を端末にかざすと、先ほどイグニスを冷たく追い返した受付のお姉さんが、信じられないものを見るような目で俺たちを見た。
「えっ……あの、アレン様。本当に、よろしいのですか?」
受付のお姉さんの声が震えている。
彼女の視線の先には、俺の後ろで大人しく正座している3人の姿があった。
「素材を黒焦げにして大赤字を叩き出す『破壊竜』のイグニスさんに……」
「押忍」
「街中で極大魔法をぶっ放して道路を陥没させる『歩く自然災害』のルナ様に……」
「ふふっ、お花綺麗だったわねぇ」
「怒らせると駐留兵を半殺しにする『雷神の月兎』キャルル様……」
「アレン、この後サウナ行かない?」
受付のお姉さんは、まるで世界の終わりを告げるような悲痛な顔で、俺の手を両手でギュッと握りしめた。
「英雄リュウ様の御子息とはいえ、まだ13歳のアレン様が……この、帝都が誇る『三大問題児』を一人でまとめるというのですか!? 命がいくつあっても足りませんよ!?」
「あはは……大丈夫です。僕がしっかり管理しますから」
俺は引きつった笑顔で返した。
どうやら俺の最初の仲間たちは、ギルドでも札付きのヤバい奴らだったらしい。
だが、もう後戻りはできない。彼らの圧倒的な力は、俺の夢への最短ルートになるはずだ。
「よし、みんな聞いて! 今からこのパーティーの絶対のルールを決める!」
俺が振り返ってビシッと指を突きつけると、問題児3人が「おっ?」と顔を上げた。
「一つ! イグニスはクエスト中、絶対に『大火炎』を使わないこと! 素材を燃やしたら晩ご飯抜き!」
「な、なんだと!? 俺様の最大火力が……っ、わ、わかった! 晩ご飯のためなら我慢する!」
「二つ! ルナは街中で魔法を使う時は、必ず事前に僕に許可を取ること! あと、偽金(石)でお会計をしようとしたら、僕が新しい『冷えピタ』を没収します!」
「ええっ!? あの気持ちいい布、没収されちゃうの!? わかったわ、気をつけるわね……」
「三つ! キャルルは……ええと、二人が暴走しそうになったら、遠慮なく物理で止めて!」
「任せなさい! 私の靴とトンファーが火を吹くわよ!」
「よーし。それじゃあ、僕たちのパーティーの初陣だ! 何かいい依頼は――」
俺が掲示板の方へ振り返ろうとした、まさにその時だった。
ガァァァァァンッ!!
ギルドの奥にある緊急用の鐘が、けたたましく鳴り響いた。
奥から血相を変えたギルド職員が飛び出してきて、ホールにいる全冒険者に向けて絶叫したのだ。
「き、緊急事態だ!! 帝都近郊のミスリル鉱山に、Aランク相当の凶悪魔獣『狂甲獣』が出現した! 坑道に鉱夫たちが取り残されている! 腕に覚えのあるパーティーは、至急討伐と救助に向かってくれ!!」
Aランク魔獣。
それは、普通の冒険者なら数十人がかりでようやく足止めできるレベルの化け物だ。ギルド内にざわめきと、明らかな怯えの色が広がる。
だが、俺の後ろにいる3人の大人たちの顔は、先ほどまでのふざけた雰囲気から一変していた。
「……おいおい。俺様の斧の錆にするには、ちょうどいい獲物じゃねぇか」
「鉱山なら、燃やしても怒られないわよね?」
「人命救助なら、私の足の出番ね。アレン、指示を」
頼もしすぎる規格外の3人が、リーダーである俺の言葉を待っている。
俺は小さく息を吐き、腰の『黒鋼の剣』の柄を強く握りしめた。
「行くよ、みんな! 僕たち問題児パーティーの、初陣だ!!」




