EP 4
「ガハハハハッ! 見てろよアレン! 俺様がいかに『大英雄』にふさわしい逸材か、その目にしっかり焼き付けな!!」
帝都アルクスの近郊にある『静寂の森』。
そこで俺たちは、記念すべき初クエストである【狂乱猪の討伐と素材の納品】に挑んでいた。
マッド・ボアはDランク相当の魔獣で、その突進力は巨木をへし折るほど。本来なら初心者パーティーが束になってようやく倒せる相手だ。
ズドドドドドッ!!
「ブモォォォォォォォォッ!!」
真っ赤な目を血走らせ、軽トラほどの大きさがあるマッド・ボアが地響きを立てて突進してくる。
「イグニス、気をつけて! 奴の突進は真っ直ぐだから、僕が盾と『聖光壁』で受け止めて隙を作る! その間に横から――」
俺が父さん譲りの戦闘セオリーを叫びながら盾を構えようとした、その時だった。
「受け止める? そんなチマチマした真似、俺様の辞書にはねぇ!!」
イグニスが俺の前にドスドスと歩み出て、マッド・ボアの突進を真正面から見据えた。
そして、背中の竜の双翼を大きく広げ、空気を震わせるほど深く息を吸い込んだのだ。
「消し炭になりやがれ! 『大火炎』ォォォォォッ!!」
ゴォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!
イグニスの口から放たれたのは、ただの炎ではない。
空間そのものを歪ませるほどの、紅蓮の灼熱ブレス。
それは一直線にマッド・ボアを飲み込み、さらにその後ろにあった森の木々ごと、扇状にすべてを焼き尽くしていった。
「えっ」
あまりの熱波に、俺は盾を構えたまま呆然と立ち尽くした。
数秒後、炎が収まった後に残されていたのは、一直線に黒く焦げた大地と、小さな煙を上げている『真っ黒な炭の塊』だけだった。
「ガァーッハッハッハ! 見たかアレン! これが竜人族の族長の息子、俺様の圧倒的パワーだ! さあ、パパッと素材を剥ぎ取って、ギルドに凱旋しようぜ!」
イグニスが両手斧を肩に担ぎ、ドヤ顔で振り返る。
俺は引きつった笑顔で、足元に転がる『炭の塊』を指差した。
「……イグニス。これ、剥ぎ取る場所、あると思う?」
「あ?」
イグニスが足元を見る。
突つくと、ボロリと崩れてただの灰になった。毛皮も、牙も、高く売れるはずだった極上の豚肉も、完全に細胞レベルで炭化していた。
「……あ、あれ? ちょ、ちょっと火力が強すぎたか……? ま、まぁいい! 倒したことには変わりねぇ! ギルドに報告だ!」
嫌な汗を流し始めたイグニスと共に、俺はその黒い炭の欠片を袋に詰めて、ギルドへと帰還した。
◆
「――ですから! 討伐部位の証明もできず、納品すべき肉も毛皮もただの『灰』になっている以上、報酬はお支払いできません! 価値はゼロです!!」
ギルドのカウンターで、受付のお姉さんがピシャリと冷酷な宣告を下した。
「そ、そんな殺生な! 俺様はあんなデカい猪を一瞬で倒したんだぞ!? なんなら森の木も綺麗に伐採してやったじゃねぇか!」
「その森の木を勝手に燃やした『自然破壊の罰金』として、むしろこちらから違約金を請求したいところなんですよ!?」
受付のお姉さんの正論パンチに、イグニスは「ぐふっ……!」と胸を押さえて崩れ落ちた。
俺は慌てて間に入り、ペコペコと頭を下げた。
「す、すみません! 罰金は僕が立て替えておきますから! ほら、イグニスも謝って!」
「お、俺様が、こんな石ころ(スマホ)使いの女に頭を下げるなど……っ」
「僕の言うことが聞けないなら、口座の紐付け、解除するよ?」
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!!」
英雄リュウが作り上げた『現代的なペナルティ制度』の前に、竜人のプライドはあっけなくへし折られた。
ギルドを出た後。
俺の財布から罰金を引かれ、残ったお金は小銭が数枚。
夕暮れの帝都の隅っこで、イグニスは完全に膝を抱えて丸まっていた。
「……俺様は、戦闘力はS級なのに……なんでいつもこうなるんだ……。田舎のお袋に、純金の像が建ったなんて手紙、書かなきゃよかった……」
グゥゥゥゥゥゥ……。
イグニスのお腹から、地鳴りのような音が鳴る。俺のお腹も、空腹でペコペコだ。
俺は大きなため息をついた。
(父さん。冒険者って……魔獣と戦うより、仲間の生活の面倒を見る方が大変なんだね……)
最強の物理火力を持っているのに、経済観念と手加減がマイナスに振り切れている相棒。
俺はポケットの中で『黄色いアヒル』を握りしめながら、彼を慰めるように肩を叩いた。
「……イグニス。落ち込んでてもお腹は膨れないよ。僕のお小遣いの残りで、とりあえず安くご飯が食べられるところに行こう」
「ア、アレン……! お前、なんてよくできた弟分なんだ……! 俺様、一生ついていくぜ!」
涙目で俺の服の裾を掴む、身長2メートル超えの竜人。
俺たちは重い足取りで、帝都のメインストリートにある、安くてお腹いっぱい食べられる大衆向けファミレス――『ルナミスキング(通称・ルナキン)』のネオン看板へと向かって歩き出した。




