EP 3
帝都アルクスの中央通り。冒険者たちの熱気と喧騒が渦巻く巨大な建物――『冒険者ギルド・アルクス本部』の重厚な扉を、俺は力強く押し開けた。
「よしっ……ここからが、僕の冒険の始まりだ!」
父さんから譲り受けた『黒鋼の剣』を腰に帯び、俺は意気揚々とギルドの掲示板へ向かった。
しかし、冒険者としての現実は、13歳の少年にとって想像以上に厳しいものだった。
「ねえ、そこの戦士さん! 僕とパーティーを組みませんか!? 剣術と魔法には自信が……」
「あぁん? 13歳のガキ? 悪いが、子守りをしてる暇はねぇんだよ」
「そっちの魔法使いのお姉さん! 僕、回復魔法も使え――」
「ごめんなさいねぇ、坊や。ガキのパーティーなんてごめんだわ。ケガでもされたら、こっちの責任になっちゃうし」
開始からわずか数十分。
俺はギルド内のめぼしい冒険者たちに片っ端から声をかけたが、結果は全戦全敗だった。
『英雄リュウの息子』という身分を明かせば手のひらを返す大人もいるだろうが、それじゃあ家を出た意味がない。俺は自分の力で、自分を認めてくれる仲間を見つけたかったのだ。
「はぁ……パーティー結成って、こんなに難しいんだ……」
掲示板の隅でガックリと肩を落としていると、ギルドの受付カウンターのほうから、地響きのような大声が聞こえてきた。
「だから! 俺様は竜人族の族長の息子、イグニス・ドラグーン様だぞ!? 身分証なんかなくたって、この立派な翼と筋肉を見りゃ強さは一目瞭然だろうが!!」
声の主は、燃えるような赤い髪と、背中に立派な竜の双翼を持った、見上げるほどに屈強な男だった。
その背負っている両手斧からは、尋常ではない闘気が漏れ出している。間違いなく、S級に片足を突っ込んでいるレベルの強者だ。
だが、そんな圧倒的なバケモノに対する受付嬢の態度は、氷のように冷たかった。
「ですからお客様。当ギルドは数年前から近代化されまして、報酬の受け取りには『魔導通信石』による電子口座の紐付けが必須なんです。身分証も保証人もスマホも無い、いわゆる『住所不定無職』の方の登録はできません。次の方、どうぞー」
「ぐぬぬぬっ……! お、俺様のような歴史に名を残す大英雄を、こんな薄っぺらい紙切れや石ころのルールで追い返すってのか!? 田舎の親父とお袋には『もう城が建った』って手紙書いちまったのに……これじゃあ帰るに帰れねぇ!!」
顔を真っ赤にして地団駄を踏むイグニス。
その絶望的なまでの『事務能力の無さ』と『生活力ゼロ』のオーラに、周囲の冒険者たちはドン引きして距離を置いていた。
しかし、俺の目には、彼が『輝く原石』に見えた。
(あの人、戦闘力は間違いなく桁違いだ。でも、父さんが作ったギルドの『近代化システム』に完全に対応できてない……! だったら!)
俺は、とぼとぼと力なくギルドの出口へ向かうイグニスの前に、サッと回り込んだ。
「ねえ、そこの竜人のお兄さん!」
「あぁ? なんだお前、人間のガキ。俺様は今、機嫌が悪いんだ。鳩にパンの耳でもあげて、心を落ち着かせねぇと……」
完全に哀愁を漂わせているイグニスを見上げ、俺は満面の笑みで提案した。
「お兄さん、すっごく強いのに、事務手続きができなくて困ってるんでしょ? だったら、僕とパーティーを組まない?」
「はぁ? お前みたいなヒョロガリのガキと!?」
「僕、帝都育ちだから『魔導通信石』の操作も、ギルドの面倒な書類作成も、口座の紐付けも全部一人でできるよ。僕が君の『身元保証人』になって、事務手続きを全部代行する。その代わり、君の圧倒的な力で僕の冒険をサポートしてほしいんだ」
俺の言葉を聞いた瞬間、イグニスの赤い瞳が見開き、パァァァァッ!と顔に希望の光が差した。
「ほ、本当か!? お前、あの忌々しい石ころ(スマホ)を操れるのか!?」
「うん、任せてよ。それに僕、こう見えて回復魔法も使えるから、お兄さんが怪我をしても治してあげられるしね」
「おおおおっ!! 渡りに船とはこのことだぜ! よし、気に入ったぞ人間のガキ! 俺様ほどの強者に事務作業は似合わねぇからな。お前を俺様の『専属事務官 兼 弟分』にしてやる!!」
チョロい。あまりにもチョロすぎる。
イグニスは俺の小さな手を両手でガシリと握り締め、ブンブンと上下に振った。
「俺様はイグニス・ドラグーン! 大船に乗ったつもりで任せておけ! で、お前の名前は?」
「僕はアレン。アレン・鍵田だ。これからよろしくね、イグニス!」
こうして、俺の記念すべき最初のパーティーメンバーが決まった。
戦闘力はS級だが生活力と事務能力がゼロの竜人族、イグニス(20歳)。
そして、戦闘力は未知数だが事務手続きとツッコミ能力に長けた、ユニークスキル【ランダムボックス】使いの俺、アレン(13歳)。
(ふふっ……父さん。僕、自分の機転で、すごい仲間を見つけたよ!)
この時の俺はまだ知らなかった。
この見栄っ張りの竜人を仲間にしたことが、今後の俺の冒険を、想像を絶する『ハチャメチャな方向』へと加速させていく引き金になるということを。




