EP 10
世界を滅ぼす暗黒竜を打ち倒し、ルナミス帝国に完全な平和が戻ってから数日後。
帝都アルクスは、未曾有の危機を乗り越えた喜びに沸き返っていた。
魔族の軍勢は暗黒竜の消滅と共にチリとなって消え去り、奇跡的に息を吹き返した騎士たちや、孤児院の子供たち、そしてドンパさんたちも、皆無事で俺たちの帰還を涙ながらに出迎えてくれた。
「S級英雄リュウ万歳!」「聖女セーラ様万歳!」という帝都中の大歓声と、王宮での盛大な祝賀会を何とか抜け出し……俺たちはようやく、誰にも邪魔されない『自分たちの家』へと帰ってきていた。
「ふぅ……っ。やっぱり、家が一番落ち着くなぁ」
俺はネクタイを緩めながら、ダイニングの椅子にどっかりと腰を下ろした。
テーブルの上に並んでいるのは、あの出陣の夜に食べ損ねた『特製チーズインハンバーグ』と、孤児院カフェでも大人気のフライドポテト、そしてよく冷えたエール酒だ。
「お疲れ様、リュウ。祝賀会、すごかったですね。王様まで泣いて喜んでくださって……」
エプロン姿のセーラが、向かいの席に座りながらふわりと微笑む。
「あんな堅苦しいメシより、俺はセーラと一緒に食べるこのハンバーグが世界で一番美味いよ。……ほら、乾杯しようぜ。俺たちの、平和な日常に」
「はいっ。平和な日常に……乾杯!」
カチン、と木組みのジョッキを打ち合わせる。
よく冷えたエールを喉に流し込み、熱々のチーズインハンバーグを大きく切り分けて口に運ぶ。
濃厚な肉汁と、とろけるチーズの味わいが、戦いの疲れを芯から癒やしてくれた。
「うめぇ……! やっぱ最高だわ」
「ふふっ、よかったです。たくさん食べてくださいね」
そう言って俺を見つめるセーラの表情が、ふと、いつもよりさらに柔らかく、慈愛に満ちたものに変わった。
彼女はフォークを置き、両手で自分のお腹を愛おしそうに、そっと撫でたのだ。
「ん……? どうした、セーラ。お腹痛いのか? 食べすぎたか?」
俺が不思議に思って首を傾げると、セーラは顔を真っ赤にして、モジモジと上目遣いで俺を見つめてきた。
「え? セーラ?」
「あのね、リュウ……私、最近少し体調が変で、今日クリニックで診てもらったんです。そしたら……」
セーラは照れくさそうに、けれど世界で一番幸せそうな笑顔を浮かべて、言った。
「出来ちゃったみたい。あ、な、た♡」
「……………………え?」
俺の手から、ポロリとフォークが滑り落ちた。
カチャン、と皿に当たる音が、静かなダイニングに響く。
「……え? 出来た? なにが? いや、まさか……えっ!? 嘘だろ!?」
「本当ですっ。私たちの間に、新しい命が……赤ちゃんが、出来たんですっ」
嬉し涙を浮かべながら頷くセーラ。
その言葉の意味を脳内のAI『賢者君』に計算させるまでもなく、俺の心臓はドラゴンの咆哮よりも激しく早鐘を打ち始めた。
俺が、父親に。
セーラが、母親に。
世界を救った最強の『相棒』が、今度は俺の『家族』を増やしてくれたのだ。
「う、うおおおおおおおおっ!! やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃあっ!?」
俺は椅子を蹴飛ばして立ち上がり、テーブルを回り込んでセーラを力いっぱい、けれどお腹を気遣うように優しく抱きしめた。
「えぇぇぇ!? マジかよ、最高じゃねぇか!! ありがとう、セーラ! 絶対に、絶対に世界一幸せな家族にしようぜ!!」
「はいっ……! 私、リュウのお嫁さんになれて、本当によかったです……っ!」
俺の腕の中で、セーラが幸せそうに泣き笑いする。
窓の外では、平和を取り戻した帝都の夜空に、美しい星々が瞬いていた。
過労死寸前の底辺から始まり、日本円とチートスキルで無双した俺の異世界生活。
神様すらぶっ飛ばした俺の次の目標は、『最強のマイホームパパ』になることらしい。
愛する妻と、これから生まれてくる新しい命。
この温かくて騒がしい日常は、きっとこれからも、永遠に続いていく。




