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EP 9

(……ごめん、みんな。ごめん、セーラ……)

賢者君の無機質な「撤退推奨」のアラートが耳の奥で鳴り響く中、俺は折れた魔導銃口剣を杖代わりにして、ただ無力に膝をついていた。

暗黒竜の顎門あぎとに、世界を終わらせる極大の闇のブレスが集束していく。

万事休す。すべてが終わる、その直前だった。

『……勝って……ください……』

不意に、風に乗って微かな声が聞こえた。

「え……?」

『どうか、ルナミスの平和を……』

『俺たちの、家族を……』

『勇者、様……っ』

それは、暗黒竜の炎に焼かれ、この荒涼たる大地に散っていったルナミス帝国騎士団の兵士たちの声だった。

いや、彼らだけじゃない。

帝都の片隅で祈る孤児院の子供たち。シャンプーを買いに来てくれた貴婦人たち。俺を信じて全財産を投資してくれたドンパさん。

そのすべての「生きたい」という祈りが、幻聴ではなく、確かな『魔力の波』となって俺の鼓膜を震わせていたのだ。

「リュウ……聞こえますか? みんなの声が」

背中から、セーラが俺を力強く抱きしめた。

彼女の身体から、残された最後の聖なる魔力が俺へと流れ込んでくる。

「ああ……聞こえる。聞こえるぞ、セーラ」

俺はゆっくりと立ち上がった。

折れた銃口剣を強く握り直す。

賢者君の計算する勝率は0.0001%。確かに、物質的な質量やエネルギー量だけで計算すればそうだろう。

だが、AIには絶対に計算できないものがある。

それは、武器を握る人間の『想い』だ。

「武器ってのはな……ただの鉄の塊でも、人を殺すための道具でもないんだよ」

俺の言葉に呼応するように、俺の身体の奥底で、かつてないほどの激しい光が脈動を始めた。

【武器使い】のスキルが、システムの限界を突破し、真の姿へと『羽化』しようとしている。

「誰かを守りたいって……明日も美味い飯を食いたいって、そう強く願う奴らの『心』そのものだ!!」

ピカァァァァァァァァァァァァッッ!!!!

俺が天に向かって叫んだ瞬間。

暗黒竜の炎に焼かれた焦土……その戦場のあちこちに突き刺さっていた、数万もの『折れた剣』や『砕けた槍』、『ひしゃげた盾』が、一斉に黄金の光を放ち始めたのだ。

『な……何事だ!? この光は……!?』

絶対的な勝者として君臨していた暗黒竜が、初めて狼狽の声を上げた。

戦場に散らばる無数の武器たちが、まるで重力を失ったかのようにフワリと宙に浮き上がり、そして、俺の掲げた右手に向かって、凄まじい勢いで収束していく。

持ち主を失った鉄屑たちが、兵士たちの遺志を宿し、俺の【真・武器使い】の力によって一つに融合していく。

形作られるのは、天を突くほどに巨大な、眩いばかりの『光の大剣』。

『バ、バカな……! 脆弱な人間どもに、これほどの力が……!?』

「バカはお前だ、暗黒竜! これが俺たち人間の力……未来を切り開く、『希望の力』だ!!」

俺は、数万の想いが詰まった巨大な光の大剣を、両手でしっかりと上段に構えた。

重さは全く感じない。みんなが、俺と共にこの剣を支えてくれているからだ。

「リュウ!! いけぇぇぇぇぇっ!!」

セーラの渾身の叫びを背に受け、俺は暗黒竜が放った極大の闇のブレスに向かって、真っ向から大剣を振り下ろした。

「くたばれぇぇぇぇぇッ!! 『聖光斬せいこうざん』!!!!」

ズバァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!

黄金の閃光が、世界を真っ白に染め上げた。

俺の振り下ろした光の大剣は、暗黒竜の放った絶望の闇のブレスを、まるで薄紙のように容易く真っ二つに切り裂いた。

そして、そのままの勢いで、空を覆う暗黒竜の巨体へと直撃する。

『バ、バカなあああああああああああああああっ!? 我が……神である我が、人間ごときにィィィィィィッ!?』

断末魔の叫びと共に、光の刃が暗黒竜の硬い鱗を、肉を、そしてその存在の核である『闇』そのものを、完全に一刀両断した。

カッ……!!

音の消えた世界で、暗黒竜の巨体が崩壊し、光の粒子となって夜空へと溶けていく。

後に残されたのは、紫の瘴気が晴れ、美しい満天の星空を取り戻したルナミスの空と……その星明かりに照らされた、静かな荒野だけだった。

「……終わっ、た……」

俺の手から光の大剣が消え去り、元の静寂が戻る。

張り詰めていた糸が切れ、俺はそのまま仰向けに大の字になって倒れ込んだ。

全身の筋肉が悲鳴を上げているが、心はこれまでにないほど晴れやかだった。

「リュウっ!!」

ボロボロのセーラが、俺の胸に飛び込んできて、またしても大泣きし始めた。

「勝ち、ました……っ! リュウが、みんなの想いが、あの暗黒竜を倒したんです……っ!!」

「……ああ。帰ろう、セーラ。俺たちの家に」

俺はセーラの背中に腕を回し、夜空を見上げながら、心からの安堵の笑みをこぼした。

神殺しの英雄となった俺の、長くて過酷な一日が、ようやく終わりを告げようとしていた。

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