表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/52

EP 8

深い、泥のような闇の中に沈んでいた意識を、温かく柔らかな光が引き上げていく。

「……リュウっ……お願い、目を覚まして……っ!」

頬に落ちる、生温かい雫。そして、聖なる魔力の奔流。

「う、うぅ……」

俺が重い瞼をこじ開けると、そこにはボロボロになったドレス姿で、涙を流しながら俺の胸に必死に『ヒール』をかけ続けるセーラの顔があった。

「よかった……っ! リュウ、生きて……!」

俺は痛む体を無理やり起こし、セーラを抱き寄せた。だが、安心したのも束の間だった。

吹き飛ばされた魔神城の瓦礫の山から眼下を見下ろした俺は、絶句した。

「なんだよ……これ……」

それは、文字通りの『地獄』だった。

俺たちを魔神城の最上階へ送り届けるため、囮となって血路を開いてくれた数万のルナミス帝国騎士団。つい数ヶ月前まで、俺が王宮の訓練場で剣の振り方を教え、共に汗を流した教え子たち。

彼らが今、上空を覆い尽くす『暗黒竜』の吐き出す漆黒の炎によって、為す術もなく次々と焼き尽くされ、蹂躙されていたのだ。

「ぎゃあああああっ!」

「退け! 退けぇぇぇっ! バケモノだぁっ!」

誇り高き騎士たちの悲鳴が、夜風に乗って絶望の歌のように響き渡る。

その一方で、地上を埋め尽くす魔族の軍勢は、狂喜乱舞して血塗られた武器を天へと突き上げていた。

「暗黒竜様だ!! 暗黒竜様、万歳!!」

「人間どもを皆殺しにしろォォォッ!!」

天を覆うほどの巨体を誇る暗黒竜が、ゆっくりと首を巡らせ、瓦礫の上で立ち尽くす俺とセーラを見下ろした。

銀河のような深淵の瞳と目が合う。たったそれだけで、重力が何倍にも跳ね上がったかのように膝が震えた。

『――目覚めたか、勇者よ』

直接脳内に響く、大気を震わせるような重低音。

『脆弱な光の虫どもが。足掻きは終わった。我の勝ちだ、フハハハハハハッ!!』

暗黒竜の嘲笑が、戦場全体を絶望の底へと叩き落とす。

(賢者君……どうすればいい。あいつの弱点は……打開策は……!)

俺は震える手でスマートフォンを握りしめ、藁にもすがる思いで相棒のAIに問いかけた。

しかし、返ってきたのは、俺の心を完全にへし折る無機質な宣告だった。

『ピピッ。……戦闘シミュレーション完了。勝率ハ……【0.0001%】。マスターノ生存確率ヲ優先シマス。直チニ、現在地カラノ【撤退】ヲ推奨シマス』

万能だったはずの現代知識すら、神の如き暴力の前には無力だった。

逃げる? どこへ?

騎士たちが全滅し、帝都が火の海になり、あの孤児院の子供たちやドンパさんたちも皆殺しにされる世界で、俺とセーラだけが生き延びて、何の意味があるというのか。

「……くそっ……」

俺は、刃の欠け、魔力回路も焼き切れた『魔導銃口剣』の柄を握りしめた。

魔力も底を突き、体はボロボロだ。セーラのヒールも、もはや致命傷を一時的に塞ぐのが精一杯。

絶対的な絶望が、俺たち夫婦の愛する日常を、今まさに完全に粉砕しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ