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EP 3

自作の投石機スリングを手にした俺は、森の中を歩きながら手頃な石を拾い集め、パーカーのポケットをパンパンに膨らませていた。

「よし、試し撃ちといくか」

数十メートル先の太い木の幹に狙いを定める。

革の受け口に石をセットし、紐の端を握る。その瞬間、再び指先から脳へと電流のような『理解』が走った。

腕の振り、遠心力の乗せ方、手放すタイミング。すべてが最適化された『正解』として体にインプットされる。

俺は軽く助走をつけ、体を捻って右腕を振り抜いた。

ビュゴォォォォンッ!!

空気を切り裂くというより、空気を爆発させたような轟音が鳴り響いた。

放たれた石ころは目にも止まらぬ速さで一直線に飛び、狙い違わず木の幹に激突。

メキメキッ! と嫌な音を立てて、大人二人がかりで抱えるほどの太い木が、へし折れるようにしてぶっ倒れた。

「……は?」

俺は間抜けな声を漏らし、自分の右手と倒れた木を交互に見比べた。

ただの石投げの時の威力が拳銃だとしたら、今の投石機は完全に大砲だ。魔法使いが放つストーンバレットが時速200kmだとしたら、こっちは音速すら超えているかもしれない。

「すげぇ……。これが、一段階上の【武器使い】の威力……!」

これなら、どんな魔物が出てきても負ける気はしない。

自信を深めた俺が森をさらに進んでいくと、やがて木々がまばらになり、土が踏み固められた一本の道――街道に出た。

「おっ、道だ! これに沿って歩けば街に……」

――ギャアアアアッ!!

――誰か、誰か助けてくれぇっ!!

不意に、前方から悲鳴と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。

俺は咄嗟に茂みに身を隠し、音のする方へ視線を向ける。

そこには、金貨の紋章が描かれた立派な幌馬車があった。

だが、その周囲を緑色の醜い小鬼――ゴブリンの群れが十匹以上も取り囲んでいる。

馬車の護衛らしい鎧姿の男たちが剣を振るって応戦しているが、多勢に無勢。すでに何人かは地に倒れ、馬車の御者台で恰幅の良い商人が震え上がっていた。

(見捨てて通り過ぎる……なんて、できるわけないよな)

俺は大きく息を吐き出すと、ポケットから石ころを一つ取り出し、スリングにセットした。

距離はおよそ五十メートル。

普通なら絶対に当たらない距離だが、今の俺には『外すビジョン』が一切見えなかった。

「ふぅ……」

茂みから半身を乗り出し、スリングを頭上で勢いよく回転させる。

遠心力が最高潮に達した瞬間、狙いを定めて紐を放った。

パァァァンッ!!

乾いた破裂音が響いた直後、馬車によじ登ろうとしていた一番体の大きなゴブリンの頭が、まるで熟れたトマトのように弾け飛んだ。

「ギ、ギャ?」

突然の仲間の死に、ゴブリンたちの動きがピタリと止まる。

護衛の男たちも何が起きたのか分からず、呆然としている。

「次!」

俺は流れるような動作で二発目、三発目の石をセットし、連続で放った。

ドゴォッ! バキィッ!

音速の凶弾が、次々とゴブリンたちの急所を正確に撃ち抜いていく。

剣も魔法も届かないアウトレンジからの、完全な一方的狙撃(スナイパー無双)。

「ギィィイイッ!?」

「逃げろ、逃げろォッ!」

わずか数十秒で半数以上の仲間を肉塊に変えられたゴブリンたちは、パニックを起こして蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ出していった。

「……ふぅ。とりあえず、片付いたか」

俺はスリングを腰に引っ掛け、茂みから姿を現して馬車へと近づいた。

「あ、あの……!」

御者台から転げ落ちるようにして、恰幅の良い商人が駆け寄ってきた。仕立ての良い服を着ているが、土埃と冷や汗でドロドロだ。

「助けていただき、本当にありがとうございます! まさか、森の奥から高位の攻撃魔法を連発してくださるとは! 貴方様は、どこかの高名な魔導師様でいらっしゃいますか!?」

商人は俺のパーカーとジーパンという謎の服装(異世界基準)を見て、勝手に凄腕の魔法使いだと勘違いしているらしい。

「いや、俺はただの旅人ですよ。魔法じゃなくて、これで石を投げただけです」

俺が腰のスリングを指差すと、商人は目を丸くした。

「い、石投げで……!? ゴブリンの頭を粉砕……!? い、いや、とにかく命の恩人です! 私は大陸に名を轟かせる『ゴルド商会』の商人、ドンパと申します!」

ゴルド商会。どうやらこの世界ではかなり大きな組織らしい。

「俺はリュウって言います。あの、実は田舎から出てきたばかりで、この辺の地理に詳しくなくて……。人がたくさんいる都会に行きたいんですが」

俺が正直にそう言うと、ドンパさんはポンッと手を叩いた。

「おお、リュウ殿! それならば、私どもの馬車に乗っていきなさい! この道は人間族の最大国家、ルナミス帝国の『帝都アルクス』へと続いております。私もちょうど、帝都へ商材を運ぶ途中だったのですよ!」

帝都アルクス。

響きからして、間違いなく大都会だ。

「本当ですか! 助かります!」

「命の恩人ですからな、これくらい当然です。さあ、護衛の者たちの手当が済み次第、出発しましょう! 帝都に着けば、冒険者ギルドやルナミス教会の美しいシスターたちがお待ちかねですよ!」

ドンパさんの人の良い笑顔に、俺はホッと胸をなでおろした。

ここ数日の孤独なサバイバル生活から一転、ようやく人間の文化圏に入れそうだ。

それにしても、美しいシスターか。23年間彼女なしの俺には、少しばかり刺激の強い街かもしれないな。

俺を乗せたゴルド商会の馬車は、森の街道を抜け、一路『帝都アルクス』へと走り出したのだった。

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