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EP 6

ジュワァァァァッ……!

我が家の真新しいキッチンのコンロで、肉汁たっぷりの特製チーズインハンバーグが極上の音を立てていた。

隣でエプロン姿のセーラが、満面の笑みでソースの準備をしている。

「ふふっ、今日はリュウのお仕事も早く終わったし、最高の晩ご飯になりますね!」

「ああ、早くビールと一緒に流し込みたいぜ」

俺が皿を用意しようと戸棚に手を伸ばした、まさにその瞬間だった。

――ガァァァァァァァァンッ!! ガァァァァァァァァンッ!!

帝都アルクスの空気を劈くような、禍々しく重い鐘の音が鳴り響いた。

それは、火事や魔獣の襲撃を知らせる通常の鐘ではない。建国以来、数百年鳴ったことがないと言われる『国家存亡の危機』を知らせる黒鐘こくしょうだった。

「え……? なに、この音……っ」

セーラが不安げにエプロンを握りしめる。

同時に、俺のポケットの中のスマートフォンが、これまで聞いたことのないけたたましい警告音を発した。

『ピーッ! ピーッ! マスター、緊急事態デス。北方・魔の領域ヨリ、観測史上最大ノ【絶望クラス】ノ魔力波長ガ急速ニ膨張シテイマス。コノエネルギー値ハ……伝承ニアル【魔神王】ト完全ニ一致シマス』

「魔神王、だと……!?」

俺はフライパンの火を止め、セーラと顔を見合わせた。

おとぎ話の中で、かつてこの世界を闇で覆い尽くそうとしたとされる悪意の権化。それが復活したというのか。

直後、我が家の玄関が乱暴に叩かれ、顔面蒼白になった王宮の伝令騎士が転がり込んできた。

「りゅ、リュウ殿! セーラ殿! 至急、王城の作戦会議室へ! 陛下がお呼びです!!」

   ◆

数十分後。王城の最も奥深くにある作戦会議室は、重苦しい沈黙と絶望に支配されていた。

円卓を囲むのは、ルナミス帝国国王、騎士団長、そしてギルドマスター。皆、信じられないものを見るような目で、机に広げられた地図を睨みつけている。

「……信じ難いが、事実だ。北方の封印が破られ、魔神王が復活した。すでに数万の魔族の軍勢が、この帝都アルクスへ向けて進軍を開始している」

国王が苦渋に満ちた声で告げた。

数万の魔族。そして、S級のドラゴンすら赤子扱いするほどの絶対的な『神』の力。帝都の城壁など、紙切れのように吹き飛ばされるだろう。

「陛下! 我らルナミス騎士団が全軍を出撃させ、魔族の本隊と激突します! 我らが命に代えても、奴らの足を止めてみせましょう!」

歴戦の騎士団長が、血を吐くような覚悟で進み出た。

だが、それだけでは勝てない。魔族の軍勢を足止めできても、その奥に座する『魔神王』の首を取らなければ、この世界は終わる。

「……だから、俺たちの出番ってわけだ」

俺が円卓に歩み寄ると、国王も騎士団長も、すがるような目で俺とセーラを見た。

「そうだ、S級英雄のリュウよ……そして、聖女セーラよ。騎士団が魔族の軍勢を惹きつけている間に、最強の力を持つそなたたち二人で、魔神王の居城へ単独で潜入し、奴の首を取ってきてはくれまいか……!」

それは、あまりにも無謀な死地への特攻依頼だった。

失敗すれば、人類は滅亡する。

会議室にいる全員が、俺の口から出る言葉を息を呑んで待っていた。

俺は横に立つセーラの小さな手を、しっかりと握りしめた。

「セーラ。せっかくのチーズインハンバーグ、冷めちまうな」

俺がそうこぼすと、張り詰めた空気の中で、セーラはふわりと優しく微笑んだ。

「帰ったら、温め直して一緒に食べましょう、リュウ。……孤児院の子供たちや、ドンパさんたちにも、明日も美味しいご飯を食べてほしいですから」

彼女の瞳に、迷いや恐怖は一切なかった。

あるのは、愛する日常と、隣にいる俺への絶対的な信頼だけ。

「……決まりだな」

俺は王宮の連中に向かって、不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「作戦は『俺とセーラで魔神王をぶっ飛ばす』。それでいいな? せっかく手に入れた月給40万の生活と、愛する妻との平和な食卓を邪魔する奴は、神様だろうがなんだろうが……俺の武器で、バラバラに解体してやる」

「おおおおっ……! 頼む、人類の希望、勇者リュウよ!」

俺は魔改造を重ね、もはや原型を留めていない漆黒の相棒『魔導銃口剣リュウカスタム』を背中に背負い、セーラは白銀の杖を強く握りしめた。

   ◆

その夜。

ルナミス帝国騎士団の総勢数万が、鬨の声を上げて魔族の軍勢へと激突した。

怒号と悲鳴、魔法の爆発光が夜空を赤く染める血みどろの総力戦。

騎士たちが命を懸けて切り開いてくれた、魔神城へと続く一本の『血の道』。

「リュウ! 右から魔族の防衛部隊が来ます!」

「全弾ぶっ放す! 掴まってろ、セーラ!!」

俺たちは血路を駆け抜け、ただ二人だけで、天を突くほどに巨大で禍々しい『魔神城』の城門を蹴り破った。

人類の存亡と、俺たちの愛する日常を懸けた最後の戦い(ラストバトル)の幕が、今、切って落とされたのだ。

いかがでしょうか!


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