EP 5
カラン、カラン、カラーン……!
帝都アルクスの中央に位置する、ルナミス大教会の壮麗な鐘の音が、青空に高く鳴り響いていた。
「セーラ! すっごく綺麗だぞー!」
「お兄ちゃんもカッコいいー!」
教会の長いバージンロード。
両脇の参列席から、孤児院の子供たちが元気いっぱいに花びら(フラワーシャワー)を撒き散らしている。
俺の隣を歩くセーラは、最高級の純白のシルクで仕立てられたウェディングドレスに身を包んでいた。ヴェール越しに透けるはにかんだ笑顔と、うっすらと赤く染まった頬が、間違いなく世界で一番愛おしい。
参列席には、目を真っ赤にして号泣しているゴルド商会のドンパさんや、ギルドマスター、そして俺たちのシャンプーの常連である貴婦人たちの姿もあった。さらには、帝国の王家から贈られた巨大な祝いの花輪まで飾られている。
S級英雄である俺たちの結婚式は、帝都中を巻き込んだ前代未聞のパレード状態となっていた。
神父の前で永遠の愛を誓い合い、ヴェールを上げてそっと唇を重ねた瞬間。
ステンドグラスから差し込む光に包まれながら、教会の天井が吹き飛ぶのではないかというほどの大歓声と拍手が巻き起こった。
「リュウ……私、本当に幸せ……」
「俺もだ。絶対にお前を一生笑顔にしてみせるからな」
こうして、Eランクの底辺冒険者から始まった俺の成り上がりは、最高の伴侶を得て一つのハッピーエンドを迎えた。
◆
結婚式から数ヶ月後。
S級冒険者としての激動の日々から一転、俺たちは帝都の一等地で、絵に描いたような『新婚スローライフ』を満喫していた。
「ほら、そこの新人! 剣の振りが甘い! 刃筋(軌道)の最適解を身体で覚えろ!」
「「「は、はいっ! リュウ教官!!」」」
王宮の巨大な訓練場。俺は腕を組み、ルナミス帝国騎士団のエリートたちに厳しい檄を飛ばしていた。
S級冒険者としての功績と、【武器使い】の異常なスキルが王城の目に留まり、俺は王宮直属の『帝国武術指南役 兼 筆頭メンテナンス師』という役職に任命されたのだ。
危険な魔獣討伐に行かずとも、騎士たちに剣の振り方を教え、時々彼らの武器を【武器使い】とAI『賢者君』の力でサクッとメンテナンスしてやるだけで、毎月決まった日に『月給40万円(金貨40枚)』が振り込まれる。
完全週休二日制、ボーナスあり、定時上がりの超安定公務員。過労死寸前だった前世からすれば、まさに夢のような待遇だった。
「お疲れ様です、リュウ。今日も騎士団の皆さんは元気ですね」
定時ジャストで仕事を終え、王城の門を出ると、日傘を差したセーラが迎えに来てくれていた。
左手の薬指には、あのダイヤの指輪がキラキラと光っている。
「おう、迎えサンキュー。そっちの仕事はどうだった?」
「はい! 今日もクリニックは大繁盛でしたよ!」
セーラもまた、専業主婦に収まるようなタマではない。
俺がドンパさんの協力を得て出資し、帝都のメインストリートに『セーラ・ヒーリングクリニック』を開業したのだ。
彼女の圧倒的な聖属性の【ヒール】と、俺が開発した『究極の美容シャンプー&トリートメント』を組み合わせたその店は、帝都の貴婦人や冒険者たちで連日予約が数ヶ月待ちになるほどの大盛況だった。
「今日の晩ご飯は、リュウの大好きなハンバーグにしますね。この前教えてもらった、中にチーズを入れるやつ!」
「マジか! 最高すぎる。早く帰って一緒に作ろうぜ」
「ふふっ、はいっ!」
夕日に照らされた帝都の石畳を、セーラと手を繋いで歩く。
家に帰れば、温かくて美味いご飯があり、一緒に風呂に入り、同じベッドで眠りにつく。
金(日本円)も、地位も、最高の妻も手に入れた。
俺の異世界生活は完全に上がり(クリア)を迎え、こんな平和で愛おしい毎日が、死ぬまでずっと続くものだと信じて疑わなかった。
――そう。
あの『凶報』が、王城にもたらされるその日までは。




