EP 4
帝都アルクスの中央にそびえ立つ、最も格式高い『星天の塔』。
その最上階にある超高級レストランの特等席を、俺は今夜のために貸し切っていた。
テーブルを彩るのは、帝都一のシェフが腕を振るった極上のフルコースだ。
透き通るような水晶魚のカルパッチョに、芳醇な香りを放つトリュフ茸のポタージュ。そしてメインディッシュは、俺たちが討伐したS級災害『獄炎竜』の希少部位を使った、とろけるような赤身肉のステーキ。
眼下には、宝石箱をひっくり返したような帝都の美しい夜景が広がっている。
「すごい……本当に夢みたい。こんな素敵な場所に、私なんかが座ってていいの?」
向かいの席に座るセーラが、満天の星空と夜景を交互に見比べながら、信じられないというように頬を染めた。
今日の彼女は、いつもの修道服ではない。ドンパさんの商会に特注で仕立ててもらった、夜空のように深い群青色のイブニングドレスを着飾っている。
自作のシャンプーで手入れされた銀髪は、シャンデリアの光を受けてキラキラと輝き、その美しさは間違いなくこの帝都で一番だった。
「当たり前だろ。S級冒険者になったお祝いと……今までずっと、俺の隣で一緒に戦ってくれたお礼だ」
「リュウ……」
セーラが嬉しそうに微笑む。
S級に昇格し、数々の依頼をこなす中で、俺たちの距離は確実に縮まっていた。いつしか「セーラさん」という他人行儀な呼び方も消え、互いに名前で呼び合う、本当の意味での『相棒』になっていた。
絶品のドラゴン肉のステーキに舌鼓を打ち、食後の甘い果実酒を飲み干した頃。
俺は小さく深呼吸をして、姿勢を正した。
「セーラ。今日は、お前に渡したいものがあるんだ」
「私に……?」
俺はパーカーのポケット……ではなく、今日のために新調した仕立ての良いジャケットの内ポケットから、小さなビロードの箱を取り出した。
パカッ、と箱を開ける。
中に鎮座しているのは、帝都で一番の宝石商に『一千万円(金貨千枚)』を積んで用意させた、特級の星屑ダイヤをあしらった指輪だ。
あまりのまばゆい輝きに、セーラは息を呑んで固まった。
「これって……あの、リュウ、これは……!」
「今まで色んなものを二人で作ってきたよな。美味い飯も、魔改造した武器も、孤児院のカフェも。俺のしょうもない思いつきに、お前はいつも笑って付き合ってくれた。お前が張ってくれる光の壁が俺の背中を守ってくれたから、俺はどんな敵にだって立ち向かえた」
俺は席を立ち、セーラの前に歩み寄ると、ゆっくりと片膝をついた。
「俺は、お前がいないともう生きていけない。だから……これからの人生も、俺の隣で笑っていてほしい」
セーラの大きなエメラルドグリーンの瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。
「セーラ。俺の、生涯の『相棒』になってくれないか。……結婚しよう」
俺が真っ直ぐに見つめてそう告げると、セーラは両手で顔を覆い、子供のように声を上げて泣き出した。
「うぅ……っ、ひぐっ……! はいっ……! はいっ、喜んでぇぇぇっ……!!」
セーラは椅子から立ち上がると、ドレスの裾が乱れるのも構わず、俺の胸に勢いよく飛び込んできた。
俺の胸板に顔を押し当てて号泣する彼女の左手を取り、俺は震えるその薬指に、一千万円のダイヤの指輪をそっとはめた。
サイズは賢者君の事前スキャンのおかげで、これ以上ないほどぴったりだ。
「リュウ、リュウ……っ! 私、世界で一番幸せです……っ! ずっと、ずっとリュウの傍にいます……っ!」
「あはは、ドレスがシワになっちゃうぞ」
俺は泣きじゃくるセーラの背中に優しく腕を回し、その銀色の髪にそっとキスを落とした。
夜空の星たちと、帝都の煌めく灯りが、俺たちの新たな門出を祝福してくれているようだった。




