EP 3
帝都アルクスの城壁から数キロ離れた、岩と砂だけの荒野。
俺とセーラさんがそこに辿り着いた時、空はすでに異常な赤黒さに染まっていた。
『ゴルルルルォォォォォォォォッッ!!!』
大気が悲鳴を上げるような咆哮。
見上げた上空の雲を切り裂いて現れたのは、太陽を覆い隠すほどの巨大な翼と、全身からマグマのような赤い光を漏らす絶対的な絶望――S級災害『獄炎竜』だった。
「来ました……! リュウさん!」
「ああ。挨拶代わりの一発が来るぞ!」
ズゴォォォォォォォンッ!!
獄炎竜が遥か上空から口を開き、帝都への進軍を阻む俺たちに向けて、すべてを溶かす『大火炎』を吐き出した。
まるで太陽の一部が落ちてきたかのような、圧倒的な熱量と質量。
「『聖光壁』!!」
セーラさんが白銀の杖を掲げ、全魔力を込めて光の障壁を展開する。
だが、ドラゴンのブレスが衝突した瞬間、障壁はメシミシと嫌な音を立て、内側にいる俺たちの肌までジリジリと焦げるような熱波が襲ってきた。
「くっ……! さすがはS級、ただの炎じゃないですね……っ!」
「このまま防戦一方じゃジリ貧だ。まずはあのデカブツを、地上に引きずり下ろす!」
俺は背中の『竜殺しの大斧』を一度地面に突き立て、腰から漆黒の『魔導銃口剣改』を抜き放った。
カチャリと機構を【銃モード】に変形させ、自作した『一発12円』のクズ魔石特級弾をチャンバーに送り込む。
「賢者君、風と熱の弾道計算を頼む」
『ピピッ。風速、熱膨張率、オヨビ対象ノ飛行軌道ヲ算出。……マスター、右ノ翼膜ノ付ケ根ガ最も装甲ガ薄イ急所デス』
【武器使い】のスキルが、俺の眼球にドラゴンの急所をハイライト表示させる。
反動を殺す完璧なスタンスで構え、引き金を絞った。
――ドボォォォォォォンッ!!!
銃口から轟音と共に放たれた魔力弾が、真っ赤な閃光となって一直線に上空へ吸い込まれる。
そして、計算違わず獄炎竜の右翼の付け根に直撃し、分厚い翼膜を爆発と共に大きく吹き飛ばした。
『ギャオオオオオオオッ!?』
翼を破壊された獄炎竜はバランスを崩し、きりもみ状態になりながら、地鳴りを上げて荒野のど真ん中へと墜落した。
ズドォォォォォンッ!! と、凄まじい土煙が舞い上がる。
「ナイスです!リュウさん! 次は私の番です!」
墜落し、怒り狂って立ち上がろうとする獄炎竜に向けて、セーラさんが前に出た。
彼女の杖の先端に、これまで見たこともないほど膨大な大地の魔力が集束していく。
「大地の怒りよ、邪悪なる竜を穿ち、その動きを封じよ! 『岩石雨』!!」
セーラさんが杖を振り下ろした瞬間、獄炎竜の上空に巨大な魔法陣が展開された。
そこから、家屋ほどもある巨大な岩石が、文字通り『雨』のように次々と降り注いだのだ。
ドゴォッ! ガァンッ! ズバァァンッ!!
「ギギャァァァアアッ!?」
凄まじい質量の岩石群がドラゴンの巨体を打ち据え、破壊された翼と強靭な尻尾を大地に縫い付けるように押さえ込んだ。
S級災害の動きが、完全に止まった。
「セーラ、最高だ!! ここから一気に決めるぞ!!」
俺は地面に突き立てていた450キロの『竜殺しの大斧』を両手で引き抜き、爆発的な脚力でドラゴンの懐――最も分厚い鱗に守られた胸元へと肉薄した。
「おおおおおおっ!!」
【武器使い】の全力を乗せた、無重力スイングのフルパワー。
竜を殺すためだけに作られたドワーフの狂気が、ドラゴンの胸の鱗に直撃した。
バキィィィィィィィィッ!!!
魔法すら弾く絶対の防御力を誇っていた『竜の鱗』が、圧倒的な物理の暴力(質量)の前に粉々に砕け散った。
『ガ、アアアアッ……!?』
「まだだ!」
俺は斧から片手を離し、もう一方の手で握っていた『魔導銃口剣』を、砕けた鱗の隙間……柔らかいドラゴンの生肉の奥深くへと、柄の根本まで深々と突き刺した。
そして、背後にいる最高の相棒に向けて叫んだ。
「セーラ、今だ! 俺の剣に撃ち込めぇっ!!」
「はいっ!! 天の裁きよ、その刃に宿れ! 『雷光』!!」
セーラさんの杖から放たれた極太の雷撃が、避雷針となった銃口剣へと一直線に吸い込まれた。
俺が魔改造で組み込んだ魔力伝導回路が、その雷属性の魔法を極限まで増幅させる。
逃げ場を失った超高圧の雷撃は、銃口剣の刃先から、ドラゴンの体内へ向かって直接大爆発を起こした。
『ギ、ギ……ギャァァァァァァァァァァァァッッ!!!!』
内臓を雷で焼き焦がされ、ドラゴンの巨体が痙攣する。
だが、生態系の頂点であるS級災害は、まだ死んではいなかった。
『ゴ……ルルルルル……』
瀕死の獄炎竜の喉の奥で、先ほどとは比べ物にならないほど高密度の光が圧縮されていく。
最後の命を燃やし尽くし、俺たちもろとも帝都を消し飛ばそうとする、自爆覚悟の『超・大火炎』の予兆だった。
「撃たせるかよ」
俺は銃口剣から手を離し、再び『竜殺しの大斧』を両手でしっかりと握り直した。
大きく一歩を踏み込み、斧を上段に構える。
『アアアアアアアアアッ!!!』
ドラゴンが最後の大火炎を放った、まさにその瞬間。
俺は【武器使い】の理のすべてを、この一撃に込めて振り下ろした。
「消し飛べェェェェェェッ!!!」
ドッ……パァァァァァァァァァァァッ!!!
数トンの破壊力を伴った大斧の斬撃が、迫り来る極太の火炎の渦を、まるで水面を割るように綺麗に『真っぷたつ』に切り裂いた。
両断された大火炎は俺たちの左右をすり抜けて後方の荒野を焼き払い、そして――俺の斧の刃はそのままドラゴンの頭部から顎、そして胸にかけて、完璧な一刀両断を決めていた。
ズンッ……。
一瞬の静寂。
そして、縦に真っ二つに割れた獄炎竜の巨体が、左右に崩れ落ち、地響きと共に完全に沈黙した。
「……終わった、か」
俺が大斧を肩に担ぎ直して息を吐くと、背後からセーラさんが、涙ぐみながら飛びついてきた。
「リュウさぁぁぁんっ!! やりました、やりましたよ!! S級のドラゴンを、私たち二人だけで……っ!!」
「あはは、痛い痛い。でも、セーラさんの完璧なサポートのおかげだ。あの岩石雨と雷、最高に痺れたぜ」
顔を真っ赤にして抱きついてくる彼女の頭を撫でながら、俺は崩れ落ちたドラゴンの肉塊を見上げた。
「よし……帝都に帰ったら、今日の晩飯は豪華に『ドラゴン肉の極上ステーキ』だな。あのカレーにも絶対合うはずだぞ」
「ド、ドラゴンのお肉……っ! じゅるり……」
さっきまで泣いていたのに、美味しそうな単語を聞いた瞬間にヨダレを拭うセーラさん。本当に、可愛くて頼りになる最高のヒロインだ。
その後。
俺たちがドラゴンの巨大な角と、証拠となるレア素材を引きずって冒険者ギルドへと帰還した時。
荷物をまとめて逃げ出そうとしていた冒険者たちやギルドマスターは、全員が顎を床につけんばかりに絶句し、俺たちを神でも見るかのような目で拝み倒した。
「魔力ゼロのEランクと、教会のシスターの二人だけで……S級災害を討伐しただと……!?」
その日のうちに、特例中の特例として、俺とセーラさんのギルドカードは光り輝く『S級冒険者』の証へと書き換えられた。
帝都を救った『S級英雄』の誕生。
日本円と現代知識、そして最強の物理チートで無双する俺の異世界生活は、ここからさらにスケールを大きくして加速していくのだった。




