EP 2
絶望的なパニックに包まれる帝都の喧騒を抜け、俺とセーラさんは裏路地にある帝都一の老舗武器屋『鉄の咆哮』の重い木戸を押し開けた。
薄暗い店内には油と鉄の匂いが充満し、壁という壁に無数の剣や槍が所狭しと並べられている。
カウンターの奥で腕を組んでいた、ドワーフの血を引いていそうな筋骨隆々の店主(親父)が、面倒くさそうに片目を細めた。
「へい、いらっしゃい。……なんだい、シスターとお付きの兄ちゃん。こんな騒ぎの日に、何をお求めで?」
親父の視線は、俺のパーカーとジーパンという軽装を値踏みしている。完全に「ただの冷やかしの素人」を見る目だ。
俺はカウンターに歩み寄り、単刀直入に切り出した。
「親父、ドラゴンをぶっ叩き割れる武器をくれ」
ピタリ、と親父が眉間に深いシワを寄せた。
「……あぁん? ドラゴンだぁ?」
「そうだ。あの馬鹿デカいトカゲの硬い鱗ごと、中身を粉砕できるような最高に重い鈍器がいい」
ドンッ! と、親父がカウンターを力任せに叩き、怒鳴り声を上げた。
「ふ、ふざけんじゃねぇ! 逃げ遅れた素人が、パニック起こして狂ったか!? お前みたいなヒョロガリの兄ちゃんが扱える武器なんて、うちには木刀くらいしか――」
「有るのか、無いのか聞いてるんだよ」
俺が低い声で遮り、まっすぐに親父の目を射抜くと、その只ならぬ覇気に圧されたのか、親父は一瞬言葉を詰まらせた。
「……チッ。あ、有るには有るがな……『竜殺しの大斧』が」
親父は忌々しそうに舌打ちをすると、店の奥、埃を被った頑丈な鉄格子の奥を顎でしゃくった。
「ただ、コイツは昔、頭のおかしいドワーフの巨匠が完全に『道楽』で作った代物だ。刃だけで数百キロはある純度100%の超高密度黒鋼。切れ味は最強だが、常人じゃ床から持ち上げることすらできねぇ、ただの鉄クズさ」
親父がそう言い終わるか終わらないかのうちに、俺は鉄格子の奥へと足を踏み入れ、その『竜殺しの大斧』の前に立っていた。
俺の身長ほどもある極太の柄。そして、まるで岩盤を削り出したかのような、暴力的なまでの質量を誇る両刃の斧身。
(賢者君、こいつの重心と最適なスイング軌道を出してくれ)
『ピピッ。対象ノ質量、約450キロ。力任セニ振ルノデハナク、遠心力トテコノ原理ヲ利用シタ【無重力スイング】ノ最適解ヲ転送シマス』
俺は両手を伸ばし、その極太の柄を力強く握りしめた。
――ピカァァァァッ!
【武器使い】のスキルが発動する。俺の筋肉繊維、骨格、そして魔力回路が、この規格外の化け物兵器を扱うためだけの『神の肉体』へと瞬時に最適化された。
「おいおい兄ちゃん、そいつは絶対に動か――」
親父の言葉を遮るように、俺は「ふっ」と短く息を吐き、片手でその『竜殺しの大斧』をヒョイッと肩に担ぎ上げた。
「なっ……!?」
「うん、悪くない。少し重いが、これくらい質量がないとドラゴンの頭蓋骨は割れないからな」
俺は手首のスナップだけで、450キロの大斧を風車のようにブンブンと振り回してみせた。
ブォンッ! ブォンッ!!
凄まじい風圧が店内の武器をカタカタと揺らし、親父の顔から完全に血の気が引いていく。
「あ、あんた……マジかよ……!?」
口をあんぐりと開け、腰を抜かしかけている親父。
横で見ているセーラさんは「さすがリュウさんです!」と、まるで当然のことのように拍手をして微笑んでいる。
「気に入った。買おう」
俺はピタリと大斧の動きを止め、懐からドンパさんに貰ったジュラルミンケースの束……ゴルドの金貨(一万円札)を数十枚、カウンターの上にバサッと無造作に放り投げた。
「ひぃっ!? こ、こんな大金……!」
「釣りはいらねぇよ。帝都が焼け野原になる前に、さっさと店閉めて逃げな」
唖然とする親父を店に残し、俺は大斧を肩に担いだまま、セーラさんと共に外へ出た。
右手には、魔改造を終えた『魔導銃口剣改』。
左肩には、ドワーフの規格外兵器『竜殺しの大斧』。
そして隣には、最高のバディである『美少女シスター』。
「行くぞ、セーラさん。S級災害のお出ましだ」
「はいっ! 帝都の皆さんと、孤児院の子供たちは、私たちが守ります!」
俺たちは、帝都の城門のさらに外――『獄炎竜』が飛来してくるであろう決戦の荒野へと向かって、力強く駆け出した。




