EP 6
ボボッツ男爵が社会的に抹殺され、孤児院に平和と莫大な資金(一千万円のジュラルミンケース)がもたらされた日の夜。
子供たちが眠りについた後、俺は孤児院の裏庭にある小さな物置小屋にこもっていた。
作業台の上に置かれているのは、完全に魔力回路が焼き切れ、ただの鉄の棒と化した15万円の『魔導銃口剣』。
そして、ドンパさんから貰った契約金の一部を使って帝都の鍛冶屋や錬金術店から買い集めてきた、大量の工具類(レンチ、ハンマー、ヤスリ、ピンセット)と、安価な魔石や金属の欠片だ。
「リュウさん、夜食のコギムギパンのサンドイッチと、温かいお茶をお持ちしました……って、すごい道具の数ですね」
扉からひょっこりと顔を出したセーラさんが、目を丸くして作業台を見つめている。
お風呂上がりの彼女の銀髪は、俺が作ったシャンプーのおかげで、薄暗いランプの光の下でも発光しているかのように艶やかで美しい。
「ありがとう、セーラさん。ここに置いておいてくれ。……さあて、それじゃあ大手術といくか」
俺は袖を捲り上げ、右手に六角レンチ、左手に精密ヤスリを握りしめた。
――ピカァァァッ!
工具を握った瞬間、いつものように【武器使い】のスキルが発動する。
対象を「解体・改修」するための武器として認識された工具たちが、俺の肉体に『超一流の機械技師』の最適解をダウンロードしていく。
「賢者君、スキャンした銃口剣の内部構造と、俺が考えた『改良案』のすり合わせを頼む」
『ピピッ。マスターノ提案シタ【排熱バイパス機構ノ増設】オヨビ【シリンダー(弾倉)ノ拡張】、計算完了。強度計算モ完璧デス。コレヨリ、魔導銃口剣ノオーバーホール兼カスタマイズ工程ヲナビゲートシマス』
「よし……いくぞ!」
俺の手が、残像を残すほどの凄まじいスピードで動き始めた。
ガチャチャチャッ! キイィィィン!
「わぁっ……!?」
セーラさんが驚きの声を上げる。
六角レンチが目にも止まらぬ速さで銃口剣の装甲を外し、ピンセットが焼き切れた複雑な魔力回路をミリ単位の狂いもなく引き抜いていく。
ドワーフの熟練工が数日がかりで行う精密作業を、俺はAIのナビゲートと神がかった指先の感覚だけで、わずか数十分でこなしていく。
(……この剣、構造自体は素晴らしいが、排熱がクソすぎるんだよな。だから『ファイナルモード』で自壊する。なら、現代のバイクのエンジンのように、冷却用のフィンとバイパスを組み込んでやればいい)
俺は買ってきた耐熱金属をハンマーで叩き出し、あっという間に新しい排熱回路を錬成して組み込んだ。
「リュウさんの手、まるで魔法使いみたいです……。でも、一番の問題は、その剣から撃ち出す『魔法の弾』ですよね? ギルドの人が、一発5000円もするから貴族しか使えないって……」
セーラさんの的確なツッコミに、俺はニヤリと笑った。
「そう。1回撃つだけで5000円(高級焼き肉が食える値段)なんて、コスパが悪すぎる。だから弾も『自作』する」
俺は作業台の隅に置いてあった、ゴブリンなどの最弱魔物から採れる、市場価値『10円』程度のクズ魔石を手に取った。
そのままでは魔力が少なすぎて弾にはならないゴミだ。
「賢者君。このクズ魔石の魔力波長を、俺の【武器使い】の魔力で強制圧縮して、さっき作った『新型薬莢』に封じ込める配合比率を出してくれ」
『ピピッ。クズ魔石ノ粉末ニ、燃焼促進剤トシテ【火薬草】ヲ3グラム配合。ソノ後、マスターノ魔力ヲ起爆剤トシテコーティングスルコトデ、一発5000円ノ特級カートリッジト同等、モシクハソレ以上ノ出力ガ得ラレマス。原価ハ……【一発約12円】デス』
「完璧だ。これならいくら撃っても財布が痛まない」
俺は乳鉢とすりこぎでクズ魔石を粉砕し、火薬草と混ぜ合わせ、真鍮の薬莢に次々と詰め込んでいった。
そして、深夜。
すべての組み上げと調整を終えた俺は、油で汚れ、生まれ変わった相棒を高く掲げた。
「完成だ……!」
「す、凄いですっ! 全体の色が渋い黒鋼に変わって、なんだかすごく……強そうです!」
セーラさんが両手を握り合わせて目を輝かせる。
銃身に放熱用のスリット(冷却フィン)が刻まれ、シリンダーはよりスムーズに回転するように再設計されている。
ボボッツが持っていた時の成金趣味の派手な装飾はすべて削り落とされ、機能美だけを追求した無骨で凶悪なフォルム。
名付けるなら――『魔導銃口剣改・リュウカスタム』。
「試し撃ち、してみるか」
俺は6発の自作激安カートリッジをシリンダーに装填し(チャキッ、と最高に良い音が鳴った)、裏庭のさらに奥、森との境界にある巨大な岩に向けた。
「危ないから下がっててくれよ、セーラさん」
俺は【銃モード】に切り替え、グリップを握りしめる。
【武器使い】のスキルが、反動を殺すための完璧な射撃フォームを俺の肉体に強制する。
シリンダーを回転させ、引き金を引いた。
――ドボォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
「きゃあっ!?」
凄まじい轟音とマズルフラッシュが夜の森を照らし出した。
放たれた魔力弾(原価12円)は、数十メートル先の巨大な岩に直撃し……岩を粉砕するどころか、後方の木々ごと跡形もなく『消し飛ばして』しまった。
「……えっ?」
セーラさんが間抜けな声を漏らし、ペタンとへたり込む。
俺自身も、想像の3倍はデカい威力に目を丸くした。
「おいおい……たった1発消費で、この威力かよ。これ、前の持ち主(男爵)が使ってた時の『6発全弾消費』より威力出てないか?」
『ピピッ。マスターノ【武器使い】スキルニヨル完璧ナ魔力伝導ト、自作弾ノ燃焼効率ガ良スギルタメ、出力ガ規定値ノ約800%ニ跳ネ上ガッテオリマス。通常ノ魔獣デアレバ、カスルダケデ即死デス』
賢者君の冷静なアナウンスに、俺は頬を引きつらせた。
「一発12円で、オーバーキルにも程があるだろ……」
冷却フィンからシュゥゥゥと白い排熱の煙を上げる銃口剣を眺めながら、俺は確信した。
潤沢な資金(日本円)。
ヒロインのいる帰るべき家(孤児院カフェ)。
そして、どんなバケモノが来ても一撃で消し炭にできる、コスパ最強のチート武器。
「よし……これで、帝都の冒険者として本格的に暴れる準備は整ったな」
深夜の裏庭で、俺とセーラさんは、大きく吹き飛ばされた森の惨状を見ながら、顔を見合わせて乾いた笑いを漏らすのだった。




