表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/52

EP 5

ドンパさんが差し出した一千万円の札束が詰まったジュラルミンケースと、独占販売の契約書。

俺がその紙にサインのペンを下ろそうとした、まさにその瞬間だった。

ドゴォォォォンッ!!

孤児院カフェの真新しい扉が、乱暴な蹴りによって吹き飛ばされた。

土足で踏み込んできたのは、銀色の鎧に身を包んだルナミス帝国騎士団の小隊。そして、その中心でふんぞり返っているのは、脂ぎった顔を醜く歪ませたボボッツ男爵だった。

「フハハハハ! 見つけたぞ、こそ泥め! 孤児院に逃げ込んでいるという私の情報網に狂いはなかったな!」

突然の乱入者に、カフェでお茶を楽しんでいたマダムたちが一斉に眉をひそめる。

だが、そんな最高権力者たちの存在にすら気づかず、ボボッツは俺をビシッと指差して喚き散らした。

「おい騎士ども! そこのパーカー姿の平民が、私の家宝である15万円の『魔導銃口剣』をポポロ村で盗み出した大悪党だ! 即刻捕縛しろ! そして、こんな薄汚い孤児院など、証拠隠滅のために今すぐ取り潰してしまえ!!」

勝ち誇ったように高笑いするボボッツ。

俺の隣で、セーラさんが怯えたように修道服の裾を強く握りしめた。

だが、俺は焦るどころか、深くため息をついてペンを置いた。

「……なぁ、男爵。お前、本当に自分の『情報網』とやらを信じてるのか?」

「あぁん? 往生際が悪いぞ平民! 貴様のようなその日暮らしの底辺が、15万円もの超高級兵器を目にして魔が差したのだろう! 騎士団の取り調べで、たっぷりと拷問して吐かせてやるわ!」

ボボッツが下劣な笑みを浮かべた、その時だ。

カチャンッ。

カフェの奥のVIP席から、ティーカップがソーサーに乱暴に置かれる高く冷たい音が響いた。

「……底辺、ですって?」

静かな、だが絶対的な零度の怒りを孕んだ声。

立ち上がったのは、つい先ほど俺から『シャンプーとトリートメント』を5万円で買い取った、最も豪奢なドレスを着た貴婦人だった。

「誰の許可を得て、わたくしたちの憩いの場に土足で踏み込んで騒いでいるのかしら。随分と偉くなったものねぇ、ボボッツ『男爵』?」

「あ? なんだババァ、貴族である私に向かって……ひっ!?」

振り返ったボボッツの顔から、一瞬にして血の気が引いた。

無理もない。その貴婦人の顔を見た瞬間、ボボッツを引き連れてきた騎士団の隊長や隊員たちが、一斉に顔面蒼白になって直立不動の敬礼姿勢をとったからだ。

「え、え、エレノア大公爵夫人!? な、なぜ王族にも連なる貴方様が、このような教会の掃き溜めに!?」

「掃き溜め? ここはわたくしたちに『最高の美』と『未知の美食』を提供してくれる、帝都で最も価値のあるサロンですわ」

エレノア夫人が扇子をピシャリと閉じて、冷酷に見下す。

さらにその隣の席から、もう一人の貴婦人が立ち上がった。

「ボボッツ男爵。貴方、先ほど『騎士団に拷問させる』と言いましたわね? わたくしの夫である騎士団長に何の相談もなく、一体どこの部隊を私兵として使っているのかしら?」

「き、騎士団長夫人まで……っ!? ひぃぃっ!」

騎士団のトップの妻に睨まれ、同行していた騎士たちが一斉にボボッツからスッと距離を置いた。完全に「自分たちはこの男に騙されて連れてこられただけです」というアピールだ。

「ま、待ってください! 誤解です! そ、その男は本当に私の剣を盗んだ泥棒で……!」

「泥棒、ですと?」

今度は、俺の目の前に座っていたゴルド商会のドンパさんが、ゆっくりと立ち上がって口を開いた。

「笑わせないでいただきたい。このリュウ殿は、たった今、我がゴルド商会と『一千万円(金貨1000枚)』の独占販売契約を結んだばかりの、超VIPなビジネスパートナーですぞ。……そんな莫大な財力を持つお方が、たかが15万程度の安物の剣を盗むと? 筋が通りませんな」

ドンパさんが見せつけるようにジュラルミンケースを開けると、そこには帝都の一般人が一生かかっても稼げないような、見事な日本円の札束の山が輝いていた。

「い、いっせんまん……!? ば、馬鹿な……!? なぜ平民がそんな大金を……!」

完全に包囲されたボボッツは、ガクガクと膝を震わせ、後ずさりした。

「それから、盗んだわけじゃありません!」

俺の背中に隠れていたセーラさんが、勇気を振り絞って前に出た。

そのエメラルドグリーンの瞳には、もう涙はなかった。

「レッドオークが現れた時、男爵様は恐怖のあまりお漏らしをして、自分で銃口剣を放り投げて逃げ出したじゃありませんか! リュウさんは、貴方が捨てた剣を拾って、村の皆を助けてくれたんですっ!」

「なっ……! お、おもらし……!?」

貴婦人たちが、汚物を見るような目で一斉にボボッツを睨みつけた。

帝国貴族たる者が、魔獣の前で失禁し、武器を捨てて逃亡する。これ以上ないほどの絶対的な恥辱。騎士団の隊員たちも、軽蔑の眼差しを隠そうともしない。

「ち、ちが……私は、決して逃げたわけでは……っ!」

「騎士隊長」

エレノア夫人が、扇子でボボッツを指し示した。

「この男、虚偽の申告で騎士団を私物化し、あろうことかわたくしたちのティータイムを台無しにしました。どうすべきか、わかっていますわね?」

「はっ! ただちに!」

隊長が合図をすると、騎士たちが一斉にボボッツを取り押さえ、冷たい鉄の手錠をガチャン!と容赦なくかけられた。

「や、やめろぉぉぉっ! 私は男爵だぞ! 離せ! その平民のハンバーガーを私にも食わせろぉぉぉっ!!」

見苦しい悲鳴を上げながら、ボボッツは床を引きずられ、騎士団と共に連行されていった。

虚偽申告、職権乱用、貴族への不敬罪。あの男爵家は間違いなく取り潰しになり、二度と日の目を見ることはないだろう。

完全なる、社会的抹殺。

「……お見苦しいところをお見せしました、奥様方。お詫びに、もう一つお茶とポテトをお持ちしましょう」

俺が何事もなかったかのように微笑みかけると、マダムたちは「まぁ! 嬉しいわ!」と一瞬で優雅なティータイムへと戻っていった。

「リュウさん……!」

「リュウ殿、さすがの肝っ玉ですな!」

感極まった顔のセーラさんと、高笑いするドンパさんに見守られながら、俺は一千万円の契約書にサラリとサインを書き込んだ。

嫌がらせをしてきた権力者を、さらに巨大な経済力と権力で完膚なきまでに叩き潰す。

これにて後顧の憂いは完全に断たれた。

俺の手元には、莫大な軍資金と、壊れたロマン武器『魔導銃口剣』が残されている。

(さあ、賢者君。あの15万円のオモチャを、俺専用の最強の武器に魔改造してやろうぜ)

『ピピッ。マスターノ要望ニ応ジタ、銃口剣ノカスタマイズ設計図ヲ構築シマス』

資金繰りの不安は消えた。

ここから先は、俺の【武器使い】とAIの知識が融合した、真の生産&戦闘チートが火を噴く時間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ