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EP 4

「さあ、奥様方。まずは当サロン特製の『軽食』をお召し上がりください」

俺が孤児院を改装したカフェのテーブルに並べたのは、特級・肉椎茸のハンバーガーと太陽芋のフライドポテト、そして氷を浮かべた琥珀色のクラフトコーラだった。

「……ま、まあ。パンに具材を挟んだだけのお料理? それにこの黒くて泡立っている泥水のような飲み物は……」

公爵夫人や騎士団長の妻といった超VIPなマダムたちは、怪訝そうに眉をひそめた。普段は一流の専属シェフが作った繊細な宮廷料理しか口にしない彼女たちにとって、このジャンクフードはあまりにも野蛮に見えるのだろう。

「騙されたと思って、一口どうぞ。コーラ……その黒い飲み物と一緒に流し込むのがオススメです」

俺が自信たっぷりに促すと、一人の夫人がおずおずとハンバーガーを両手で持ち、上品に小さくかじりついた。

サクッ。ジュワァァァァッ。

「…………ッ!?」

夫人の目が見開き、扇子を取り落とした。

「お、奥様?」と心配する他の夫人たちをよそに、彼女は震える手でハンバーガーを見つめた。

「な、なんという暴力的な旨味……っ! 濃厚なキノコの脂と、このマヨ・ハーブの酸味が絡み合って……い、いけませんわ、こんなはしたない食べ物……っ!」

そう言いながらも、夫人の手は止まらない。ガブッ、ムシャムシャ!と、貴族の矜持など完全に投げ捨てて、猛然とバーガーに食らいつき始めたのだ。

「ああっ、お口が脂でギトギトに……っ! でも止まりませんわ! そこでこの黒いお水を……ごきゅっ……きゃあっ!? お口の中で弾け……ああっ、脂がスッキリと洗い流されて、またあのはしたないパンが食べたくなりますわぁぁっ!!」

「ま、まあ! わたくしにも一口!」

「わたくしにもっ!!」

ものの数分で、帝都の頂点に君臨する貴婦人たちは、ポテトの塩気とコーラの炭酸の虜になり、我先にとジャンクフードを胃袋に詰め込んでいった。

完全に『食の異文化交流(という名の侵略)』が完了した瞬間だった。

「ふぅ……ふぅ……っ。ま、満足ですわ。まさかルナミス教会の孤児院で、これほど素晴らしいお食事に出会えるなんて……」

すっかり毒を抜かれ、コーラのジョッキを握りしめて恍惚とした表情を浮かべるマダムたち。

俺はすかさず、カウンターの奥から美しいガラスの小瓶(これも賢者君の知識で砂からサクッと錬成した)を取り出し、テーブルの中央にコトッと置いた。

「お気に召して何よりです。……さて、本題の『魔法の美容液』ですが。これがセーラさんの髪を劇的に変えた『シャンプーとトリートメント』のセットになります」

マダムたちの目の色が一瞬で「獲物を狙う肉食獣」に変わった。

「陽薬草の極上エキスを超微粒子化して配合しており、髪のダメージを根本から修復します。……ただし、製造が極めて困難なため、本日は『限定3セット』のみの販売とさせていただきます。お値段は、1セット『一万円(ゴルドの金貨1枚)』です」

「買いますわっ!!」

「わたくしは3セット全部いただきますわよ!!」

「お黙りなさい! わたくしは騎士団長の妻ですのよ!? 5万円出しますわ!!」

俺の『限定商法』と『ブランド化』の罠に、マダムたちは見事なまでに引っかかった。

バサバサバサッ!と、テーブルの上に諭吉……いや、ゴルドの金貨(一万円札)が乱舞する。原価ゼロ(タダの雑草と魔獣の油)の液体が、数分で数十万円の現金へと化けていく。

経済学と生産チートの恐るべきシナジー効果だ。

「ま、毎朝、このハンバーガーのセットと、美容液の納品をお願いしますわね! リュウ殿!」

大量の日本円を置いて、ホクホク顔で馬車に乗り込んでいくマダムたち。

それを見送った後、孤児院のカウンターには、教会の予算数ヶ月分にも匹敵する分厚い札束が積み上がっていた。

「りゅ、リュウさん……これ、夢じゃないですよね……?」

「すっげー! 一万円札がいっぱいだー!」

腰を抜かしかけているセーラさんと、目を回している子供たち。

俺が「これで毎日腹いっぱい肉が食えるぞ」と笑いかけた、その時だった。

「――素晴らしい!! まさかこれほどの熱狂を生み出す商売の天才が、こんなところに隠れていたとは!!」

バンッ!とカフェの扉が勢いよく開き、拍手をしながら一人の恰幅の良い男が入ってきた。

仕立ての良いスーツを着込み、目をギラギラと輝かせているその男は……。

「ドンパさん!?」

俺が第1章で森で助けた、あの『ゴルド商会』の大商人、ドンパだった。

「お久しぶりです、リュウ殿! いやぁ、帝都中の貴族の奥方たちが『孤児院の魔法の薬と悪魔の食べ物』の噂で持ちきりになっておりましてな。匂いを辿ってみれば、まさか我が命の恩人であるリュウ殿だったとは!」

ドンパさんは興奮冷めやらぬ様子で、俺の手を両手でガシリと握りしめた。

「リュウ殿! 単刀直入に申し上げます。その『ハンバーガー』と『シャンプー』の独占販売権を、我がゴルド商会に譲っていただけませんか! この大陸全土の物流網を使って、世界中に売りさばいてみせますぞ!」

「ゴルド商会と、独占契約……!?」

セーラさんが悲鳴のような声を上げた。大陸一のマンモス企業からの、直々のオファー。

「もちろん、リュウ殿には製法提供の対価として、莫大なロイヤリティをお支払いします。まずは契約金として……『一千万円(ゴルドの金貨1000枚)』をご用意させていただきましょう!!」

ドンパさんがドンッ!とテーブルに置いたのは、見たこともないほど分厚い、日本円のジュラルミンケースだった。

「一千万……!?」

ボボッツ男爵が圧力をかけて止めた「教会の孤児院予算」など、鼻で笑い飛ばせるほどの圧倒的な超巨額資金。

俺はセーラさんと顔を見合わせ、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。

「ドンパさん。喜んで契約させてもらいますよ。……これでようやく、あの中古のポンコツ剣(銃口剣)を魔改造する資金が手に入った」

俺の反撃の準備は、完全に整った。

ボボッツ男爵がどれほど騎士団や教会を動かそうと、今の俺たちの後ろ盾には『帝都の最高権力者の妻たち』と『大陸一の商会』がついている。

奴が俺たちを潰そうと動いたその時が、完全なる『社会的抹殺ざまぁ』の引き金となるのだ。

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