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EP 2

「さて、まずは飲み物からだな」

誰もいなくなった孤児院の厨房で、俺はスマートフォンの画面をスクロールしていた。

テーブルの上に並べたのは、昨日森で採取しておいたいくつかの香草ハーブと、少し酸味のある木の実、そして荷物の底に残っていた大量の『太陽芋』だ。

「賢者君、この異世界のハーブと太陽芋の糖分で、最高に中毒性のある『アレ』を作りたい。レシピの構築と、炭酸の生成方法を頼む」

『ピピッ。了解シマシタ。太陽芋ヲ煮詰メタシロップニ、5種類ノ指定ハーブト木ノ実ノ果汁ヲ配合。炭酸水ハ、戸棚ニアル【重曹石】ト【クエン草】ヲ水デ反応サセルコトデ生成可能デス。……【究極ノ異世界クラフトコーラ】ノ手順ヲ、マスターノ脳内ニ転送シマス』

「よしきた!」

俺は袖を捲り上げ、すり鉢とすりこぎを握りしめた。

――ピカァッ!

調理器具を握った瞬間、【武器使い】のスキルが発動する。俺の腕は「スパイスを極限まで完璧に粉砕する神の粉砕機」へと変貌した。

ゴリゴリゴリッ!

数種類のハーブがあっという間に黄金比でブレンドされ、鍋で煮詰めた太陽芋の濃厚なシロップと混ざり合う。そこに、錬金術のように発生させた炭酸水を注ぎ込むと、シュワシュワと弾ける琥珀色の液体が完成した。

「匂いは完全にコーラだ。次はメインディッシュといくか」

俺は昨日残しておいた特級品の【肉椎茸】を取り出し、包丁(双剣)とフライパン(盾)を構える。

肉椎茸を分厚くスライスし、強火で一気に表面を焼き固めて肉汁(旨味)を閉じ込める。

同時に、別の鍋では細切りにした『太陽芋』を、獣脂で二度揚げしていく。パチパチという小気味よい音と共に、きつね色のポテトフライが山のように揚がっていく。

コギムギパンを半分に切り、こんがりと焼いた肉椎茸のパティを乗せ、そこへ『マヨ・ハーブ』と『醤油草』を混ぜ合わせた特製オーロラソースをたっぷりと絡める。

ジュワァァァァッ……!

暴力的なまでに食欲を刺激する、脂とソースの焦げる匂いが厨房を満たした。

ハンバーガー、フライドポテト、そしてコーラ。

現代社会が生み出した、最強のジャンクフード・セットの完成だ。

「セーラさん! みんな! ご飯できたぞ!」

俺が食堂へ声をかけると、どんよりと沈み込んでいた子供たちとセーラさんが、フラフラと厨房に引き寄せられてきた。

その目は、俺がテーブルの上に並べた見慣れない料理に釘付けになっている。

「りゅ、リュウさん……この、パンにおキノコが挟まったお料理は……?」

「すっげーいい匂い! お腹鳴っちゃうよ!」

「これは俺の故郷の料理で『ハンバーガーセット』って言うんだ。男爵や教会の偉い奴らなんか絶対に食べたことがない、最高の飯だ。さあ、冷めないうちに両手で持って、大きな口でガブッといってくれ」

俺が促すと、セーラさんと子供たちは恐る恐るハンバーガーを両手で持ち上げ、大きく口を開けてかぶりついた。

サクッ、ジュワァァァァッ!

「〜〜〜〜〜〜っ!?」

一口食べた瞬間、全員の動きが雷に打たれたようにピタリと止まった。

セーラさんのエメラルドグリーンの瞳が、これ以上ないほど見開かれる。

「お、美味しいっ……!? 噛んだ瞬間、肉椎茸の旨味とマヨ・ハーブの酸味が口の中で爆発して……コギムギパンの甘さがそれを優しく包み込んで……っ! なんですかこれ、美味しすぎて頭が真っ白になりますぅっ!」

「ポテトもやべぇ! 外はカリカリなのに中はホクホクで、塩加減が最高だ!」

一心不乱にバーガーとポテトに食らいつく子供たち。完全にジャンクフードの魔力に脳を支配されている。

そして俺は、すかさず木組みのジョッキに注いだ『特製コーラ』を差し出した。

「喉が渇いただろ。これを一気に飲んでみてくれ」

「あ、ありがとうございます……んぐっ!? きゃあっ!?」

コーラを一口飲んだセーラさんが、ビクッと肩を跳ねさせてジョッキを離した。

「な、なんですかこのお水!? 口の中でパチパチと弾けて、舌を噛まれたみたいに痛っ……あれ?」

驚いていたセーラさんの表情が、みるみるととろけていく。

「痛いのに……すごく爽やかで、甘くて、スパイシーで……っ。お肉の脂を綺麗に流してくれて、またすぐにハンバーガーが食べたくなります……! ごくごく、ぷはぁぁぁっ! な、なんですかこの悪魔の飲み物はぁぁっ!?」

「炭酸飲料っていうんだ。ポテトとハンバーガーには、これがないと始まらないからな」

数分後。

テーブルの上には、見事に空っぽになった皿とジョッキだけが残されていた。

子供たちはお腹をポンポンと叩いて満足そうに笑い合い、セーラさんに至っては、美味しさのあまり放心状態で椅子にぐったりと寄りかかっている。

さっきまでの悲壮感など、跡形もなく吹き飛んでいた。

「リュウさん……私、こんなに美味しくて幸せなご飯、初めて食べました……」

「ならよかった。で、セーラさん。相談があるんだ」

俺はコーラのジョッキを拭きながら、ニヤリと笑った。

「この『ハンバーガーセット』、帝都の連中に売ったら、いくらで、どれくらい売れると思う?」

俺の言葉に、セーラさんはハッと我に返った。

「え……? 売る、ですか? こ、こんな信じられないくらい美味しいお料理、屋台で出したら一瞬で大行列になります! 貴族の料理人だって絶対に真似できません!」

「だろ? ボボッツ男爵と教会上層部が予算を打ち切ったなら、俺たちがこの孤児院を『帝都で一番流行る飲食店』に改装して、奴らがひれ伏すくらい稼いでやろうぜ」

「孤児院を、お店に……!」

俺の提案に、セーラさんの瞳に希望の光が宿る。

食材の調達は、俺が【武器使い】と【賢者君】を使って森で集めれば、原価はほぼゼロ(タダ)だ。利益率は異常な数値を叩き出すだろう。

「俺の故郷の『経済システム(マーケティング)』を、このアナステシア世界に叩き込んでやる。男爵の妨害なんて、札束(日本円)で物理的に殴り飛ばしてやるよ」

俺の強気な宣言に、セーラさんは両手を胸の前で組み、パァッと花が咲くような笑顔を向けた。

「はいっ! 私も、接客でも買い出しでも、何でも手伝います! リュウさんと一緒なら、絶対に負ける気がしません!」

こうして、俺たちは教会の権力と男爵の陰湿な嫌がらせに対抗すべく、最強のジャンクフードを武器にした『商売無双』の火蓋を切って落としたのだった。

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