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EP 13

ズズンッ……! ズズンッ……!

地響きを立てて歩み寄るレッドオークの巨体に、ポポロ村の空気が凍りついた。

その赤黒い筋肉の鎧と、見上げるような巨躯から放たれる圧倒的な殺気。

通常のオーク数十匹を束ねても届かない、完全な『格上』のバケモノだ。

「ヒィッ……! あ、あ、あっちへ行けぇっ!」

村の中央で一番目立っていたボボッツ男爵は、レッドオークの濁った瞳に睨みつけられ、腰を抜かしそうになりながらも後ずさった。

震える手で、腰に吊るしていた15万円の特級兵器『魔導銃口剣マギ・ガンブレード』を抜き放つ。

「私に近づくな! この最新兵器の威力を思い知れぇっ!」

ボボッツは銃口剣を【銃モード】に変形させ、レッドオークに向かって構えた。

だが、その太短い腕はガクガクと情けなく震え、重い銃口はブレにブレまくっている。その上、恐怖で指が硬直し、引きトリガーを引くことすらできていない。

『ゴルルルルァァァァッ!!』

レッドオークが苛立ったように咆哮し、大木ほどもある鋼鉄の棍棒を天高く振り上げた。

それがボボッツの脳天めがけて、無慈悲に振り下ろされる――!

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

死の恐怖が限界を超えた瞬間、ボボッツの股間からジョワァァァッと生温かい液体が漏れ出した。

立派な貴族のズボンに、無様な染みが広がっていく。

「わ、私は男爵だぞ! こんな辺境で死ぬわけにはいかんのだぁぁっ!!」

ボボッツは完全にパニックを起こし、あろうことか命綱であるはずの『銃口剣』を放り投げ、四つん這いになりながら一目散に村の出口へと逃げ出していった。

後に残されたのは、失禁の跡と、土埃に塗れた15万円の高級兵器だけ。

「……バカが。見栄で持つからそうなるんだよ」

逃げ惑うボボッツを尻目に、俺は一直線にレッドオークの足元へと駆け出した。

狙うは一つ。地面に転がった機械仕掛けの剣だ。

「ギガァッ!」

レッドオークの棍棒が、ボボッツのいた場所を粉砕する。

巻き上がる土煙の中、俺はスライディングで飛び込み、その武骨なグリップを力強く握りしめた。

――ピカァァァァァァァッ!!

その瞬間、銃口剣全体が眩い光に包まれた。

【武器使い】のスキルが完全起動する。

重さ、重心、6発のシリンダーの回転機構、魔力伝導回路のバイパス。

事前の『賢者君』のスキャンデータと、俺の肉体の『最適解』が完全にリンクしたのだ。

ズシリと重かったはずの剣が、まるで俺の腕の一部のようにピタリと馴染む。

「……なるほど。こいつは、こう使うんだな」

俺がゆっくりと立ち上がると、獲物を取り逃がしたレッドオークが、今度は俺を明確な敵と認識して巨大な棍棒を横薙ぎに振り抜いてきた。

まともに喰らえば、体がミンチになる一撃。

だが、俺が動くよりも早く、背後から凛とした声が響き渡った。

「リュウさん! 目を閉じてください!」

「!」

セーラさんの声だ。俺は咄嗟に目を固く閉じる。

「大いなる光よ、邪悪なる視界を奪え! 『ホーリー・フラッシュ』!!」

セーラさんの白銀の杖の先端から、太陽が爆発したかのような強烈な閃光が放たれた。

「グギャアアアアアアッ!?」

不意打ちで至近距離から光を浴びたレッドオークは、眼球を焼かれて悲鳴を上げ、棍棒を振り回しながら顔を覆って後退した。

完璧なタイミング。完璧なサポート。

うちのヒロインは、ただ可愛いだけじゃない!

「ナイスだセーラ! ……さあ、15万円の力、見せてもらおうか!」

俺は目を開け、銃口剣のグリップを握り直す。

親指でシリンダーのロックを外し、内部に装填された魔力カートリッジを強制的に一斉開放する。

ガチャリ、と重厚な金属音が鳴り響いた。

「銃口剣、ファイナルモード!」

柄の機構から、凄まじい魔力エネルギーが刀身へと流れ込む。

キイイイイイイン……ッ!!

耳をつんざくような甲高い動作音と共に、分厚い鋼鉄の刃が、まるで溶鉱炉から引き揚げた直後のように数千度の超高熱を帯びて赤熱化していく。

周囲の空気が一瞬で乾燥し、陽炎が揺らめいた。

これが、この武器の限界突破リミットブレイク

多用すれば武器自体が自壊する諸刃の剣だが、今の俺の【武器使い】による完璧な魔力制御なら、ただの一振りで最高の威力を叩き出せる。

「ハアアアアアアッ!!」

俺は爆発的な踏み込みで、レッドオークの懐へと一気に肉薄した。

熱波を放つレーザーブレードと化した銃口剣を、下段から一気に振り上げる。

「ヒート・ブレイズ・エッジ!!」

ズバァァァァァァァァッ……!!

抵抗など、一切なかった。

数千度の熱線を帯びた赤き刃は、レッドオークが防御にと突き出した鋼鉄の棍棒をバターのように両断し、そのまま分厚い筋肉の鎧ごと、巨大な胴体を斜めに斬り裂いた。

「…………ギ、ガ?」

レッドオークの巨体がピタリと静止する。

斬り口からは一滴の血も流れない。超高熱によって、瞬時に細胞ごと焼き切られ、止血フタをされてしまったからだ。

数秒の静寂の後。

ズレるようにして、レッドオークの上半身が滑り落ち、ドスゥゥゥン! と地響きを立てて崩れ去った。

「……ふぅ。一発5000円の弾を全部使い切っちまった。コスパ悪いなぁ、これ」

俺が赤熱化の解けた銃口剣を軽く振り下ろし、カチャリと安全装置をかけると、静まり返っていたポポロ村に、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

「うおおおおおおっ!! すげぇぇっ!!」

「あのバケモノを、たった一太刀で……!!」

「リュウさん! リュウさん!」

涙を流して喜ぶ村人たちと、驚愕に顔を引きつらせる冒険者たち。

そして、修道服の裾を翻して一直線に俺の元へ駆け寄ってくるセーラさん。

「リュウさぁぁぁぁんっ!!」

「おっと」

ドスッ、と凄まじい勢いで抱き着かれ、俺は思わず数歩後ずさった。

ふわりと香る甘い匂いと、押し当てられた豊かな柔らかさに、俺の顔が一気に熱くなる。

「す、すごいです! あんな恐ろしいバケモノを一撃で……! しかもあの男爵が捨てた剣を使いこなすなんて……っ! もう、本当に、本に書いてある英雄様そのものですぅっ!」

「あ、はは……セーラさんの援護があったからですよ」

顔を真っ赤にして上目遣いで見つめてくる彼女の頭を、俺は照れ隠しにポンポンと撫でた。

辺境の村を救い、傲慢な貴族は失禁して逃亡。

この日を境に、俺とセーラさんの名は『ポポロ村の英雄』として、帝都の冒険者ギルドに広く知れ渡ることになるのだった。

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