EP 12
俺は走りながら、スリングに石をセットし、頭上で鋭く回転させた。
狙うは、逃げ遅れた村の子供に棍棒を振り下ろそうとしていたオークの頭部。
「まずは一匹!」
パァァァンッ!!
空気を切り裂く破裂音と共に放たれた石ころは、まるで徹甲弾のようにオークの分厚い頭蓋骨をあっさりと貫通した。
「ブ、ギ……?」
巨体がドスンドスンと地響きを立てて倒れ伏す。
「なっ!? なんだ今の威力は!?」
後方で見ていた冒険者たちが驚愕の声を上げるが、俺の手は止まらない。
ポケットから次々と石を取り出し、流れるような動作でスリングに装填していく。
「セーラさん、右の三匹を頼む!」
「はいっ! 女神の加護よ、拒絶の盾となれ!『聖光壁』!!」
セーラさんが白銀の杖を掲げると、俺たちの死角から襲いかかろうとしていたオークたちの目の前に、光り輝く巨大な障壁が出現した。
ガンッ! ゴツンッ!
オークたちの力任せの打撃が、光の壁に弾き返される。
俺はその隙を見逃さない。壁で体勢を崩したオークたちの眉間へ、三連続の投石を見舞った。
ドゴォッ! バキィッ! ズドンッ!
ただの石ころが、スリングと【武器使い】のスキルを通ることで、必殺の兵器へと変貌する。
「ギィィッ!?」
「ブヒィィィアアアッ!」
次々と頭を吹き飛ばされ、沈んでいくオークの群れ。
俺の超遠距離からの物理狙撃(無双)と、セーラさんの鉄壁の聖属性防御。
攻撃と防御が完全に噛み合った俺たちEランクパーティーの前に、数十匹いたオークの群れは、ものの数分でただの肉塊の山へと変わっていた。
「……お、終わったのか?」
「すげぇ……あの二人だけで、群れを全滅させちまったぞ……!」
呆然としていた他の冒険者たちや、助けられたポポロ村の住人たちが、信じられないものを見るような目で俺たちを見つめている。
俺がスリングを下ろし、ふぅと息を吐いた、その時だった。
「フハハハハハハ! 見たか平民ども!」
後方の安全地帯から、今まで一歩も動かなかったボボッツ男爵が、のっしのっしと偉そうに歩み出てきたのだ。
「我が完璧な指揮と戦術のおかげで、村は守られた! さあ、村の者ども! このボボッツ男爵に感謝と称賛を送るが良い! 冒険者ギルドへ報告するこの手柄は、すべて私のものだからな!」
腰の高級兵器『銃口剣』をこれ見よがしにポンポンと叩きながら、最も安全な場所でドヤ顔を決めるボボッツ。
あまりの厚顔無恥っぷりに、俺もセーラさんも、他の冒険者たちも言葉を失った。
(こ、こいつ……マジで言ってんのか?)
俺が呆れ果ててため息をつこうとした、まさにその瞬間だった。
ズンッ……ズンッ……ズンッ……。
森の奥から、木々をなぎ倒すような重い地響きが近づいてきた。
ボボッツのニヤリ顔が引きつる。
次の瞬間。
『ゴルルルルルルロォォォォォォォォォォォッッ!!』
ビリビリと大気を震わせる、絶望的なまでの咆哮。
燃え盛る木々をへし折って姿を現したのは――通常のオークの三倍はあろうかという、見上げるほどの巨体。
そして、その全身は、まるで血を浴びたように赤黒く染まっていた。
「れ、レッドオーク……!?」
誰かが絶望に染まった声を漏らした。
オークの突然変異体にして、上位種。単体で軍隊すら壊滅させると言われる『赤き鬼神』。
その手には、大木を丸ごと引き抜いて作ったような、凶悪極まりない巨大な鋼鉄の棍棒が握られていた。
「ヒッ……!? ギィッ……!?」
レッドオークの濁った巨大な眼球が、ギロリと動く。
そして、村の中央で一番派手な鎧を着て、一番偉そうにふんぞり返っていた男――ボボッツ男爵を、明確な『獲物』としてロックオンした。




