6:そのころの侯爵家
エカテリーナと離婚してから一週間ぐらいたった。
なぜか、茶会や夜会に誘われなくなった。
なぜなんだ、たかが夫人一人と離婚しただけなのに皆の私に対する扱いがひどすぎはしないか。
しかも、王妃から誘われた茶会に伯爵の娘の第四夫人を離婚したエカテリーナの代わりに行かせると王妃に手紙を出したらキャンセルされた。
子供達からも、なぜ第一夫人と離婚をしたのかと責められた。
「第一夫人と離婚した今、侯爵家はもう無価値だ。」と次期当主の長男からも言われた。
子供達は彼女を嫌っていたはずだ。あんなに厳しく子供達に接していたし、子供達もマナーの授業以外は彼女と接することを避けていたはずだ。
なぜ私が責められなければならないのだ。
子供達はエカテリーナのことが嫌いなのではないのか?恨んではないのか?
次男も何を思ったのか彼女を探しに行くと言いもう三日も帰ってきていない。
三男に関しては何を思っているのかエカテリーナが暮らしていた別宅に出入りしているようだ。
他の子供達もそうだ、彼女がいつ帰ってくるかと屋敷の正門の前で朝から夕方まで待っている子もいれば手紙を書いて使用人にエカテリーナに渡してもらうように言っている子もいるし、部屋にこもって出てこない子もいる。
他の夫人達はそれが気に入らないようだ。子供たちに文句を言ったり、第一夫人のことを忘れるように言っているが子供達に何かを言われよく激怒している。
私は愛する第二夫人をエカテリーナの代わりに第一夫人にしようとしたが他の夫人が気に入らないようだ。
妖艶な第四夫人のサマンサは激怒してヒステリックを起こし物を投げたり使用人に当たったりする。
美しい第三夫人のナターシャも気に入らないようで私にチクチク文句を言ってくる。その当てつけか、ドレスや装飾品を新調することが多くなった。
可愛らしい第二夫人のリリーは早く第一夫人の座につきたいみたいで、毎日毎日私の書斎に来ては泣いて仕事ができなくなる。仕事をしようとすれば何かをわめきながら泣き続ける。うるさくて仕事ができない。
使用人も日に日にやつれてるように見える。
執事頭のセバスチャンからはいろいろと文句を言われた。
使用人のうち何人かはこの屋敷に来ることを拒否しているものもいるようだ。
騎士達もそうだ。第一夫人だったエカテリーナに対する忠誠心と他の夫人達に対する忠誠心を比べると悲惨なものだった。私に対しても同じだ。
騎士達のあの目は忠誠を誓った主人を見ている眼ではなく軽蔑や仕事で仕方なくやっているという目だ。もし、自分たちがどうもできない相手だと知ったらすぐに逃げ出しそうだ。
私の右腕のロジャーからも文句を言われた。こいつに言われるのが一番謎だった。エカテリーナと婚約をしていた時期は「早く婚約破棄しろ。」だの「こんなのと結婚しても辛いだけだ。」と言っていたが。いざ、侯爵家で働き始めると「あの人に離婚されないようにしろ。繋ぎ止めろ。」だの「あの人のおかげで侯爵家は続いているんだ。感謝しろ。」と言っていた。
エカテリーナと離婚した日、ロジャーは「侯爵家は終わった...。」と呟いていた。当初は意味が分からなかった。今となっては...
第一夫人、エカテリーナがいた頃が懐かしい。
静かで仕事もできていたし他の夫人もこんなに騒がしくはなかった。
彼女がいたから、そうだったのだろうか?
エカテリーナのことは最初からあまり気に入らなかった。
勉強も、剣術も、魔法も、マナーも、ダンスも全部完璧だった。あの女が悔しがる顔を見たくて婚約中何度も他の女と浮気したけど、あの女はいつも無表情だ。結婚した翌日に第二夫人のリリーを連れてきた日も相変わらず無表情だった。
私は侯爵家の権力、家名と財産が欲しかった。離婚する時に争うのかと思ったら全部私に譲った。なぜかと聞いても
「自由になったのに足枷は必要ないでしょ?」
そう言っていたが私にはよくわからなかった。
彼女は今、どこにいるのだろうか?
彼女は...この屋敷に、侯爵家に戻ってきてくれるだろうか?