第二十八話 FZランク
魂魄の迷宮での救出劇から一夜が明けた。
「……カノンさん、あと五分……」
「もう十分待ったぞ。アルコ、朝だ」
「むにゃ……カノンさんが起こしてくれるから大丈夫です……」
「起きないと朝食が冷めるぞ」
布団の中で丸まっていたアルコが「うう……」と不満げな声を漏らしながら這い出してきた。
帝都の街頭に繰り出すと、あちこちから活気のある声が聞こえてきた。
「聞いたか? 魂魄の迷宮で暴走した骸竜を止めたパーティがいるらしいぞ」
「ああ、コン・ブリオを退治したヴィヴァーチェだろ? 多くの冒険者を救ったって話だ」
「あのカノンって演奏家、一体何者なんだ……?」
通り過ぎる冒険者たちの会話に誇らしげな笑みを浮かべるコルネを横目に、俺たちは冒険者ギルドへと足を運んだ。
◇
「よく来たな、ヴィヴァーチェの面々」
ギルド長室でグスタフが頷いた。
「今回の魂魄の迷宮での救援活動、並びに多数のギルド職員や冒険者の救助……誠に見事だった。何より、骸竜の暴走を鎮め、魂を解放した功績は計り知れん」
差し出されたのは、正式な達成報酬と特別手当の詰まった袋だった。
「……ありがとうございます」
「私たち、またFランクに後戻りですね」
ミューズが少し寂しそうに笑った。
「まあ、一時的なものだったしな」
「えっ、せっかくBランクの仕事をしたのに!?」
コルネがすぐに反応する。
グスタフは豪快に笑い、首を振った。
「その件なんだがな。お前たちをFZランクとして認定することになった」
「えっ……ゼット……?」
聞き慣れない階級に、コルネが目を丸くする。
「特異認定制度だ」
グスタフは腕を組んで説明した。
「お前たちはコン・ブリオを倒した上、あの骸竜まで追い返した。ギルドとしても、実力を認めざるを得ん」
「なら、普通にSランクとかにしてくれればいいじゃないの」
不満そうに突っかかるコルネに、グスタフは苦笑いを返した。
「実力があっても、まだ信頼がないんだよ」
「なによ、私たちを疑ってるわけ!?」
「まあまあ、コルネちゃん」
アルコがコルネをなだめる。
「コルネ。グスタフさんが言ってるのは、俺たち個人の実力じゃなくて、パーティとしての実績が足りないということだ」
「そういうこった」
グスタフが頷く。
「お前たちはまだパーティを組んでから日が浅い。組織としての信用が足りないんだよ。下手に正式なSランクにして、ギルドの信用に傷がついちゃ困る」
グスタフの言葉に、コルネは「ふーん」と頬を膨らませた。
「で、そのFZランクになると何が変わるわけ?」
「まず、Sランク相当の依頼を受けられるようになる」
「Sランク相当?」
「まあ、要相談だがな」
グスタフはニヤリと笑う。
「それだけじゃねえ、お前たちには、これから指名依頼も飛んでくるようになるぞ」
「指名依頼?」
コルネが目を丸くする。
「ああ」
グスタフは懐から一枚の書類を取り出した
「ちょうどいい、お前たち宛てに指名依頼が届いているんだ」
「えっ……?」
ミューズが驚きの声を漏らす。
「詳しい話は奥でしようか」
「……なんだか、すごいことになってきましたね」
アルコが呟く。
「そうだな」
俺たちはグスタフの後を追ってギルドの奥へ向かった。
◇
別室へ移動し、一枚の羊皮紙を提示された。
「……これって」
ミューズが書類を覗き込む。
「皇帝陛下からだ。陛下の名で正式にギルドへ依頼が来ている」
アルコとコルネが顔を見合わせる。
「依頼内容は……皇宮での演奏だ。皇帝陛下がヴィヴァーチェ四人による演奏を御前で聴きたいと仰せだ」
「……皇帝陛下から、私たちに?」
「私たちの演奏を、お聴きになりたいということですか?」
「……俺たちの音を必要としてくれているなら、行かない理由はないな」
◇
その夜、俺たちはささやかな祝いの席を設けた。
「今日は特別なんだから、いっぱい食べてもいいわよね!」
テーブルいっぱいに並んだ料理に、コルネが目を輝かせる。
「コルネちゃん、そんなに作って食べきれるんですか?」
「大丈夫よ! アルコももっと食べなさいって!」
賑やかな会話が弾み、笑い声が部屋を満たす。
「カノンさん」
ミューズがグラスを手に、柔らかく微笑みかけてくる。
「演奏、楽しみですね」
「……ああ。いつも通り、俺たちの音を奏でよう」




