第二十二話 ノヴァの選択
帝都・冒険者ギルド酒場。
昼下がりの店内は依頼を終えた男たちの熱気と、あちこちのテーブルで輝く魔導端末の光で満ちていた。
「なあ、ヴィヴァーチェが皇帝陛下から褒賞貰ったって話、見たか?」
木製のジョッキを傾けながら、大柄な戦士が向かいの男に話しかけた。
「見た見た。コン・ブリオっていう伝承魔獣を倒した奴らだろ。大通りで金貨の袋を抱えて歩いてたって噂だ」
「そそ。俺、あの討伐配信をリアルタイムで見てたんだよな」
「マジかよ。どんな感じだったんだ?」
「いや、それがさ。戦闘の途中で歌姫ミューズが現れてな、いきなり歌い出したんだわ」
「伝承魔獣の前で歌ったのか? 正気じゃねえな、即死だろ」
「それが違くてさ。カノンってやつの音の盾が凄くてな、魔獣の咆哮も攻撃も、全部防ぎきってたんだよ」
二人の会話に、隣のテーブルで大剣の手入れをしていたベテラン冒険者が割り込んできた。
「おい、それ本気で言ってんのか? 俺たちも封印遠征には何回も参加したことがあるが……あいつの攻撃は大盾持ちが二人掛かりで受け止めても腕の骨が砕けるんだぞ?」
「本当だって。俺はリアルタイムで見たんだからな。あいつの放つ透明な壁みたいな音波が、魔獣の爪を弾いてた」
「アーカイブとか残ってないのか?」
「魔導配信ギルドのサイトを見たが今は非公開で見えなくなってるな」
「チッ……じゃあ、そいつらの戦闘の様子が残ってる他の動画とかないのかよ」
「自分で調べろよ。ったく人使いが荒いな……えーっと。ヴィヴァーチェ……ヴィヴァーチェっと。打ちにくいな」
男は端末の魔導鍵盤を指で突きながら、不平を漏らす。
「あったか?」
「魔導配信ギルドの管理サイトにはねえな。……お、なんか個人サイトで投稿されてる動画はあるぞ」
「お、見せろ見せろ」
「……なんだこれ。再生回数、2回だぞ」
「スズメの涙じゃねえな。投稿者の打ち間違いか?」
「タイトルは……『岩石ゴーレムを演奏でメロメロにします』だってよ」
「なんだそのふざけたタイトル。……待て、サムネイルに映ってるの、ミューズじゃないか? アカ消ししたっていう歌姫の」
「本当だ。こんなとこで配信してたのかよ……おい、再生してみろ」
光る画面を数人が覗き込む。
「……最初の雑談部分は飛ばしてくれ。俺は戦闘が見たい」
「ったくせっかちだな」
映像が切り替わり、画面の中で岩石ゴーレムが腕を振り上げている。
それに対峙するのは4人の演奏家たち。
「……おい、この火力なんだ?」
「すごい火力だな。演奏家ってこんなに強いもんなんか?」
「さ、さあなあ? あいつらって本職バッファーのはずだろ。下手したら魔法職より火力出てないか」
大剣持ちのベテランが画面を食い入るように見つめ、声を詰まらせた。
「ただ音をぶつけてるんじゃない」
「あん?」
「見てみろ。ゴーレムの関節部分にあたるようにこの男が音を導いてるんだよ」
「お前ようわかるな……」
「俺たちにゃあよう分からん世界だな。要するに、めちゃくちゃ強いってことか」
「……ああ。単なるバッファーだと思っていたが、これができる演奏家なら俺のパーティにも欲しいな」
「ちょっとガッツまた変な奴拾ってくるのはやめてよね」
「言ってみただけだよ」
男たちは感嘆の溜息を漏らし、画面から目を離した。
「世の中、急に出てくる怪物がいるもんだな……」
「まあな。でも、そろそろ時間だろ?」
「おっと、そうだった。ノヴァの高難易度ダンジョン攻略企画の配信が始まる時間だ」
「魂魄の迷宮だっけか? 楽しみだよな。なんか魔導配信ギルドもかなりバックアップして、特設枠まで作ってるらしいぞ」
「そりゃあクオリティ高そうだ。楽しみだな」
酒場の喧騒のなか、男たちは端末のチャンネルを切り替え、画面に映し出されるであろうノヴァの勇姿を心待ちにし始めた。




