第十八話 私たちの音
「みなさーん! あっちの撮影機に顔を向けてください!」
ダンジョンの薄暗い通路。ミューズが明るい声を響かせ、浮遊する魔導撮影機を指さした。
「いい考えって、あれのこと?」
コルネが撮影機を胡散臭そうに覗き込む。
「はい! 私たちのダンジョン攻略を配信するんです!」
「配信……か」
俺が思わず眉をひそめると、コルネがすぐさま見咎めてきた。
「露骨に嫌な顔するじゃない」
「配信……私も昔のパーティでやったことありますが、あんまり見てもらえませんでしたよね」
アルコが懐かしそうに笑う。
「ふん、私の演奏で観客を魅了してやるわ!」
「コルネさん、その意気ですよ!!」
「でも、大丈夫なのか? ミューズはこの前、あそこを飛び出したばかりだろう?」
俺の問いかけに、ミューズは胸を張った。
「はい! ですから、魔導配信ギルドでは配信しません!」
「そんなことができるんですか!?」
「はい! 私に任せてください!」
「ミューズ。君のやりたいことなら、俺は応援するよ」
「は、はい!」
「ただ……何のために歌うのか。それだけは忘れないでくれ」
「……はい!」
ミューズはまっすぐ俺の目を見つめ、大きく頷いた。
◇
角を曲がると、前方の空間に三体の岩石ゴーレムが立ち塞がっていた。
重い足音が洞窟内に響き渡る。
俺は鍵盤を展開し、指先を滑らせた。
低音の振動が波となって広がり、三人の音を受け止める土台となる。
アルコが弓を引く。
弦から放たれた旋律の矢が風を切り、ゴーレムの関節部を正確に穿った。
コルネが奏でる管楽器の高音が空気を震わせ、純粋な魔力がアルコの矢と俺の音律に重なっていく。
そこに、ミューズの歌声が重なる。
澄み渡るソプラノが洞窟全体を満たし、音を美しく束ねていく。
四つの音が重なり合う。
音の波がゴーレムの巨躯を揺らし、岩の身体が内側から崩れていった。
崩れ落ちる岩の音を見届け、俺はミューズに向き直る。
「ミューズ、楽しいか」
「はい! 誰かに強制されずに歌うって、こんなに気持ちいいんですね……!」
ミューズの目から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。
その顔には、眩しいほどの笑顔が浮かんでいた。
「あんた、今までどんな扱い受けてきたのよ」
コルネが呆れたように溜息をつく。
「配信ギルドの役員さんたちが、毎回毎回勝手にスケジュールを入れてくるんですよ!」
「なんであんたは断らないのよ」
「だ、だって! 役員さんたちの顔が怖いから……」
「あんたはもっと自分の意見ってのを持ちなさいよね!」
涙を拭うミューズの頭を、コルネが肘で軽く小突いた。
◇
依頼を終え、宿の食堂で夕食を囲む。
テーブルの上では、魔導撮影機を挟んでミューズとコルネが顔を突き合わせていた。
「どうよ! 一万回くらい再生いったんじゃないかしら!」
自信満々に胸を張るコルネに、ミューズが画面を見つめたまま告げる。
「残念、コルネさん! 一回です!」
「誰が見てんのよ!」
コルネの叫びが食堂に響き渡った。
「あはは……私が確認するために、一回再生しました」
「自分じゃないの!」
くすくすと笑うアルコ。
「笑いごとじゃないわよアルコ! 一回ってどういうこと!? あんなに格好よくゴーレムを倒したのに!」
「でも、楽しかったです」
「俺たちのペースで、やりたいようにやる。それが一番だな」
俺が言うと、コルネはガックリと肩を落とした。
「ぼろ儲けできると思ったのに!」
「もう、コルネちゃん!」
アルコが呆れたように笑い、ミューズも楽しそうに声を上げる。
三人のはしゃぐ姿を見つめながら、俺はスープを口に運んだ。
笑顔が一番だ。




