第十六話 ミューズが隣にいる日
「……あんた、寝相どんだけ悪いのよ」
朝の食堂。
眠そうな顔のコルネがミューズを睨みつけている。
「ご、ごめんなさい! い、いつも抱き枕があるんですが……取りに帰りましょうか?」
「バカね。抱き枕の一つや二つくらい、私が代わりになって見せるわ」
「うわーん! コルネさん大好き!」
「ちょ、ちょっと! 暑苦しいわね! 二人も見てないで何か言いなさいよ!」
抱きついてきたミューズの頭を押し戻しながら、コルネが俺たちに助けを求めてくる。
「いえ、コルネちゃんも嬉しそうだったので」
「ガウディオーソだな」
「翻訳係! 出番よ!」
「はい! コルネさんは歓喜に満ちています!」
「全く嬉しくないわ!」
その口元は大きく緩んでいた。
俺は空になった皿を押しやり、三人を見渡した。
「さて、今日こそヴィヴァーチェを登録しに行こう」
「そうね。まだ昨日の依頼の清算も終わってないし」
「すっかり忘れてましたね」
「えいえいおー!」
◇
冒険者ギルドの扉をくぐった瞬間、周囲の視線が一斉にミューズへと注がれた。
「ミューズさん、大丈夫でしたか!?」
「心配したぞ! 急に配信が止まったから」
「何があったんだよ!」
あっという間に人が集まってくる。
ミューズは少し驚いたように目を見張った。
「皆さん……! わ、私!」
大きく息を吸い込む。
「私、歌姫をやめてヴィヴァーチェの一員になります!」
「な、なんだって!?」
「歌をやめちゃうのか!?」
ミューズは力強く首を振った。
「やめません! 私はこれからも歌います! ただ……与えられた歌姫としてじゃなくて、自分の意志で、この四人で歌いたいんです!」
「随分と人気者ね」
俺はそっとコルネの肩を叩いた。
「話したいこともあるだろうし、先に清算を済ませてしまおう」
「そうね」
受付カウンターに向かうと、受付嬢に頭を下げる。
「昨日はすまなかった」
「いえいえ! こちら、回収していただいた魔導鉱石の報酬になります」
「助かる。それと……パーティ登録を行いたい」
「承りました! では、証明写真の撮影を行いますので奥の部屋へどうぞ」
小部屋へ案内される。
「ミューズ! 置いていくわよ!」
「わー! 待ってください! 置いてかないでー!」
人だかりから抜け出してきたミューズが慌てて駆け込んでくる。
「はい、じゃあ撮りますよ~」
パシャリ、と魔導撮影機の水晶が淡い光を放つ。
「ミューズ、泣いてるじゃないの! あはは!」
「コ、コルネさんこそ! 顔が硬いですよ!」
「カノンよりはマシな方よ!」
「わぁ、カノンさん真顔」
「と、撮り直しましょうか?」
受付嬢の問いかけに、俺は画面を見つめたまま答えた。
「いいや、これがいい。最高の一枚だ」
手渡されたパーティ契約書には、四人の写真が刻まれていた。
「こちら契約書になります。無くさないようにしてくださいね。ランクは……一番低いミューズさんに合わせてFランクとなります」
「フォルテだな」
「このままフォルツァンドまで駆け上がっちゃいましょう!」
「はぁ……」
不満げに溜息をつくコルネだったがその目はどこか楽しそうだった。
俺は掲示板から一枚の羊皮紙を引き抜く。
「よし、今日はこの依頼にしよう」
「えー、ちょっと額が足りないんじゃない? これじゃあデラックスオークハンバーグ十個にしかならないわ」
「コルネちゃんはご飯のことしか頭にないんですか!?」
「ふふ、私にいい考えがあります!」
ミューズが胸を張り、眩しい笑顔を向ける。
その日、魔導配信ギルドから歌姫の名が消えた。




