はじめまして。お義母さん①
今日はとても天気がいい。
洗濯物もすぐに乾くだろうし
布団を干したら最高だろう。
しかし私の心はどしゃ降りだ。
ゲリラ豪雨、台風、酷暑、水不足…なんかいろいろ。
今私は大義くんと歩いている。
大義くんの実家に向かい歩いている。
足が重い…
地獄だ。
今から大義くんの母親に会いに行く。
付き合って一度も会ったことはない。
大義くんは会わせようとしていたが
何かと理由をつけて断っていた。
元気な母親を入院したと嘘ついたり、
飼っていない犬が病気とか言ったり、
嘘を付きまくって逃げていた。
はっきり言えば会いたくなかった。
永遠に。
なのにこれから毎日、嫌でも顔を見て
話をしなければならなくなる…
「奈々ちゃん?」
「ぶつぶつ…」
「奈々ちゃん?」
「え!なに」
「着いたよ」
「!」
目の前には立派な日本家屋がたっていた。
でかい。
アパートでしか暮らしたことのない私には
夢のような家…
「大義くん家はお金持ちだったんだね…」
「違う違う、ただムダに家だけ大きいだけだよ」
うらやましい。
友達とかたくさん呼んで遊んだりしたんだろうな…
カラカラ
大義くんは引き戸を開けて
「ただいまー母さん。奈々ちゃんも一緒だよー」
「さ、奈々ちゃん、入って」
「う、うん…お邪魔しま……」
その時
私に何かが刺さった!
痛い!
実際には何も刺さってないが体中痛い。
これは殺気?殺意?
「はっ!」
気づくと辺りの空気が淀んでいた。
「何か…いる…」
「?奈々ちゃん?どうかしたの?」
「大義くん、あなたの家何か…」
すると
淀んだ空気の中から声がした。
「おかえりなさい。大義。
あら、いらっしゃいませ。奈々さんね。
始めまして、大義の母親です。」
「ひっ!」
淀んだ空気の中から現れたのは着物を着た
60過ぎの女性。大義くんの母親。
顔はとてつもない笑顔だが、嘘っぽい。
笑顔のふりをして私を睨みつけている。
確実に私に敵意むき出しだ。
……怖いが挨拶をしなくては。
「は、はじめまして、な…
佐々木奈々とも…です。よろしくお願いしまふ。」
「あらやだ。奈々さん。緊張しているの?」
「奈々ちゃん、これからはここが奈々ちゃんの家に
なるんだから、緊張なんてしないで」
「そうですよ奈々さん。
この祖父から続く立派な家は貴方の家になるんです
よ。血縁でもない貴方の家にね。」
「…はい」
(さっそくイヤミ言われてない?私)
大義くんの母親はずっと私を睨みつけていたが
品定めするように私を見た。
「まぁ…とてもかわいらしい子じゃないの。
どうしてこんな子と大義が出会えたのかしらね。」
「母さん、僕に奈々ちゃんはもったいないって
こと?」
「やだ、そんなつもりはないのよ。
ただどうしてこんな子と出会ってしまうのかと
疑問をもっただけよ。ウフフ。」
大義くん、アホなの?
確実に私となんで会ってしまったんだよ!と
言ってるんだよ。
そもそも初対面でこんな子って言うものなの?
「奈々ちゃん?元気ないね…」
「え、別に…」
(元気なんてなくなるわ!)
「もしかしてお腹すいてるの?」
「え?全く」
「母さん、奈々ちゃんにおやつ」
「え!いりません。」
(もう帰りたいのよ!)
「奈々さん…お昼ご飯食べてないの?」
「ううん。さっき大盛り牛丼食べてたよ」
「!食べてないです!」
「?口の周りにご飯粒つけてかきこんでたじゃん」
(あーもう大義くん、余計なことを言わないで)
「…奈々さんはよく食べるのね。良いことよね。」
「でしょ。奈々ちゃんはおいしそうに食べるから
僕は見てるだけで幸せになるんだよ」
「大義くん…」
(きゅんとした)
ラブな空気をキャッチしたお義母さんは
急に声を荒げ言葉の矢を私に放った。
「奈々さん。さっさと中に入ってくれるかしら?
風が冷たいのよね。貴方は若いからいいでしょうけ
ど、私は冷えるのよ。」
グサ。
「大義。悪いけど今家には食べ物が何もないのよ。」
「え?昨日買い物に行ったじゃん」
「そうだったかしら?
とにかくどこを探しても何もないのよね。」
「あ、じゃあコンビニで何か買ってくるよ」
「え!」
大義くんが行ったらお義母さんと2人きりに
なってしまう!と思うよりはやく
「嫌よ。大義が行ったらお母さん
この子と2人きりになるじゃない。無理よ。」
グサ。
「…た、大義くん。私自分で何か買ってくるから…」
「でも…」
「それがいいわね。自分の食べたいものをたくさん
買ってくるといいわ。」
グサ。
「ななちや、道わかる?」
「ま。子供ならともかく20をこえた子が
道がわからないなんてことあるかしら。」
グサ。
「う、うん…行ってきます…」
「奈々さん。気をつけて。」
そう言ってお義母さんは戸を閉めた。
ビシャン!
すごい音だった。
「………」
同居と聞いてから悪いことばかりではなく
良い方にも考えていた。
ひょっとしたら意気投合して
私の母より仲良しになるかも…とか
楽しい妄想もしていた…
ムダだった。
お義母さんは私を見る前から嫌いだったんだ。
大義くんから私の話を聞いてるだけで
大嫌いになってたんだ。
ムリだ。
さんざん迷ってコンビニについた。
甘いものを食べたかったのに何も無かった。
仕方ないので酒のツマミを買った。
イカと水。
さすがに酒はやめておいた。
コンビニの前は公園になっていたので少し
そこで休むことにした。
年期の入ったベンチに座りイカを食べる。
酒飲みたい…
あの家で暮らすということは
お義母さんのイヤミに耐えてニコニコしていなくては
いけないんだ。
私にできるわけない。
でも大義くんのお嫁さんになりたい。
頑張ろう。いつかお義母さんと仲良くなれるかもしれないし、なにより私には大義くんがいる。
ペットボトルの水をがぶ飲みし、イカを食い散らす。
「わーきったない食べかたー」
キャップを被った男の子が言う。
気づくと子供達に囲まれていた。
「おねーさん大人なのにボロボロ落としてるよ」
三つ編みの女の子が不思議そうに言う。
「ひるまからおさけのんでるからだめ人間だよ」
少し小太りの子が言う。
「丸井くん!レディになんてこと言うの!」
「でた!山野のレディ発言」
「やめろよ、二人とも…」
山野て子と丸井って子が取っ組み合いを始めそうだった。
「こらこら。くだらないことでケンカしないの。
そこの少年。えっと、丸井くん。
これはお酒ではないからね。水
あとね、昼間からお酒呑んでいてもだめ人間では
ないんだよ」
「だってかーちゃんが言ってたんだもの…」
丸井はうつ向いて
「…ごめんなさい」
「丸井くん、えらい」
「丸井は悪いやつじゃないんです…」
それをみていたら
さっきまでのイライラとか全部消えていた。
「おねーさんも仲間に入れて。一緒に遊ぼ」
「え」
「今から俺たち冒険戦隊レッツラゴーごっこ
やるんだよ」
「!それ知ってる!毎週みてるもの!」
3人組「おー」
「あと2人足らなかったから仲間にしてやる」
「じゃあ、おねーさんはレッツラ青ね
丸井くんはレッツラ黄色
椎くんはレッツラ桃
私は赤ね。リーダよ」
「緑は誰がやるんだよ」
わいわい
大義は大慌てで走っている。
「奈々ちゃん遅すぎる…迷子になっちゃったんだ
あー、何で一人で行かせたのかな」
公園の前を通ると女性が子供たちと遊んでいた。
「…奈々ちゃん?」
「じゃあ、おねーさんは青と緑の二役ね」
「リーダ、悪役がいないよ」
「あ…」
「悪役は僕にやらせて」
急に大義が現れた。
「大義くん?」
「おねーさんの仲間?」
「うん。僕もレッツラゴー見てるからね参加させて」
「しかたないな。人が足らないしいいぜ」
「…大義くん」
「遅いから心配してたんだ、よかった何もなくて」
「…ごめんなさい」
「僕こそごめんね、知らない街なのに1人で行かせ
て」
「大義くん」
「おい!悪役は悪役らしくしろ」
「はーい」
負けないね私。
お義母さんに何をされても言われても
だって私はお義母さんと結婚するんじゃない
大義くんとするんだもの。
「くらえ!レッツラゴービーム」
「やーらーれーたー」
「大義くんうまい」
公園のすみ。
大義の母親が睨みつけている。
「…奈々さん、私は貴方を認めたくない。
大義と結婚したくないと思ってもらうように
私は貴方と戦うわ。」




