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路線バス運転士俳優山田ひろしの常識  作者: バスバスキヨキヨ


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動くべきか動かざるべきか

 それから少し進むと、また一台のパトカーが合流してくれた。と思ったら、細胞分裂したかのように、その二台目のパトカーの背後に三台目のパトカーが現れる。僕が確認できる範囲だけでも、明らかなパトカーが三台もいるというのだから、テロリストだって存在に気づいたはずだ。なのに、全然慌てる様子がないのが、すごく不気味に感じた。

 そんなテロリストが、僕をさらなる恐怖に落とす。良かれと思って、バスの燃料が少ないことを、僕はテロリストに告げたのだ。あわよくば、バスジャックを諦めてくれたらいいのにという気持ちもあったが。だけど、テロリストは、さも当たり前にガソリンスタンドに入るように指示をした。

 テロリストがどこまで行きたいのか分からないが、燃料がもたないのはほぼ確実なのだろう。だけど、まるでコンビニにでも入るくらいの軽い感じで即答するなんて。ただでさえ目立つ赤の二階建てバスがガソリンスタンドに入ってきたら、それなりに注目される。いや、注目だけではない。警察によって周囲を囲まれるはずだ。普通に考えたら、良くて膠着、悪くて即逮捕だ。そんなことくらいは、テロリストだって分かっているはず。その上で、計画のうちだったかのようにガソリンスタンドに入るということは、簡単に脱出する自信があるのだ。

 ガソリンスタンドにバスを乗り入れると、僕は期待1割、諦め9割で、テロリストの行動を目で追った。すでにパトカーが取り囲んでいる。ガソリンスタンドの他の客や周囲の人が何事かと注目しだす。そんな中を、唯一の目出し帽のテロリストと、僕の仲間を後ろで監視していた二人のテロリストのうちの一人が連れ立ってバスから降りた。まるで、テロリストと被害者を装いながら。

 安直な作戦にも思えたが、人質役のテロリストが警察官に何か言うと、パトカーはあっさりとバスの進路を開けた。その間に、二人は悠然とバスに燃料を入れて、何事もなく戻ってくる。こんなにもあっさりと希望を打ち砕かれるとは。ここまで何も進展しないとは。人質解放の交渉がされて、少なくとも、子供のひなちゃんとお年寄りのエリザベスだけでも解放されるかもと期待がないわけではなかったのに。

 この大胆不敵なテロリストを目の当たりにした僕は、少しだけど悪い未来が頭をよぎってしまった。だけど、こんな時だからこそ、僕にしては珍しく必死で良い材料を探す。少なくとも今は警察は手も足も出せなかったが、理由があるはずだ。例えば、情報がほとんどない状態なので、今はまだ慎重に行動せざるを得ない状況だからとか。

 だけど、情報が集まったからといって、事態が好転するのだろうか。そう思えるくらいに、警察の対応が僕には弱腰に見えたのだ。正しく夢も希望も打ち砕かれそうな僕の背中を、突如、塚谷が元気すぎるくらいにポンポンと叩いた。不思議なもので、希望がどんどん湧いてくる。

 塚谷だって恐いだろうに、僕が諦めてどうする。打開策はきっとあるのだ。例え警察が手を出せないにしても、僕の庭でもあるバスの中では優位に立てるかもしれない。

 今までは、テロリストに逆らわないことばかりを考えていた。だけど、思い切ってこちらから攻めてみるのもありだ。このテロリストたちは捕まる心配が皆無なのだろう。そんな余裕が見て取れるのだ。きっと念入りに計画を練っていて、決して突発的に犯行に及んだのではないと、今は確信できる。

 ただ、彼らの計画に、僕がバスを運転するのはなかったのだ。数の上でも、僕たちに分がある。仮にどこかに他にもテロリストの共犯者がいるにしても、これだけのパトカーに囲まれているのだ。バスの中にいる3人のテロリストさえやっつけてしまえば、僕たちの安全は確保される……と信じよう。

 彼らの計画の全貌が分からないのは、確かに不安要素だ。だけど、バスという密室の中で、できる事なんて限られる。ほとんど手ぶらで乗ってきたのだから、大掛かりな仕掛けもないし。

 初めに凶暴性を見せ、銃を持っていることもアピールしてしまえば、僕たち日本人が反抗なんてしないと想定しているのだろう。そうでないなら、満を持して、もっと大勢で来たはずだ。少なくとも、拘束するためのロープくらいは持ってきた。よほど自信があるのだろうけど、その自信に付け入る隙はないだろうか。

 強気になりつつも、僕は焦り始めてきた。テロリストたちは、警察関係者の目から逃れる作戦を考えていないはずがない。このまま言う通りに走り続けたら、どこかで何らかの方法で、パトカーはまかれる可能性が大だ。そうとしか考えられなくなってきたのだ。行動を起こすなら、時間との戦いにもなるのだろう。

 ほんの少しでいいんだ。ほんの少し、ほんの数秒、このテロリストたちを拘束できれば、警察がきっと助けに来てくれる。しかし、それが実に困難だから、このような展開になっているとも言える。銃さえ持っていなかったなら、人間の数と気合でなんとかできなくもない。この状況では、近づくだけでもリスクが大きすぎるのだ。

 前提として、テロリストの3人に同時に隙ができないといけない。そして、そのテロリスト3人を同時に押さえつけないとだめだ。そうしないと、テロリストたちの逆襲にあうのが目に見えている。なにせ、テロリストたちは銃を所持していて、使うことに何の躊躇いもないのだから。

 ただのローリスクハイリターンではだめだ。スーパーローリスクが絶対条件だ。そんな都合の良い方法なんてあるのだろうか。

 悩みに悩んでいる時に、一筋の光がおぼろげに見えた。

 見えたけど……今度は、それを実行するべきかを悩み始めた。テロリストに逆らわず、警察に任せるべきなのではと、最初に戻ってきてしまう。このままテロリストたちの言う通りにしていれば、命までは取られることはないだろう。しかし、見えた一筋の光を実行に移して失敗でもしようものなら、僕たちの誰かがもしくは全員が、ケガをするか最悪の場合は命を……。

 僕はバス運転士だ。乗客の身の安全を守る義務がある。この場合の安全とは、どうすることが正しいのだろうか。それは……イギリスの勇敢なバス運転士が教えてくれたじゃないか。

 ここはイギリスだ。このバスを運転していたイギリスのバス運転士は義務を果たしたのだ。このバスを受け継いだ僕が、テロリストたちの言いなりになっていては、彼に顔向けができないじゃないか。

 答えは出た。攻撃は最大の防御なのだ。

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