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路線バス運転士俳優山田ひろしの常識  作者: バスバスキヨキヨ


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塚谷美樹(つかたにみき)……自称敏腕マネージャー

「あれー、ひろしさんから電話してくるなんて珍しいじゃないですか。いよいよ私の声を聞きたくなったのかな? あっ冗談冗談、怒らないでー。やっぱり、撮影の確認ですよね。でも、こんな時間に? 今、仕事中じゃないんですか? バスの。この時間は、あんまりお客さんが乗らないとかで、寂しくなってきたとかですね。分かります分かります。あっ、この話は内緒でしたね。ひろしさんと私だけの、ひ、み、つ。だなんて言うと、何か悪い事をしてるみたいですね。大丈夫です。今の会話は誰にも聞かれてません。ひろしさんも知っての通り自宅にいるので。休みなのに、一人寂しくまったりしていたところに、ひろしさんからデートに誘われるなんて夢にも思ってなかったですよ。ものすごく嬉しいですけど。どこに連れていってくれるんですか? って、ひろしさんの今日の仕事は終わったんですか? 早いですね。もしかしたら、明日の撮影に備えて早退したとかですか? 案外融通が利くんですね。あれ? そう言えば、私の家を知ってましたか? まあ、知らなくても、ひろしさんなら来れますよね? じゃあ、待ってまーす」

 ふうー。やっと終わった。と思ったのも束の間、塚谷が電話を切りそうだ。二度手間はなんとしてでも避けなくては。

「おいおいおーい。切るなー。話は終わってない。というか全然何も話してないよ」

「え? まだ電話で話したいんですか? まったく、わがままなんだから」

「うー。いろいろ反論はあるけど、それはまた会った時にでも。いや、一つだけ。デートはしないというか、付き合ってもいないのに、誤解されるような事は言わないこと」

「もおー、真面目なんだから。冗談じゃないですか。ちょっとだけ本気だけど……」

「え? 聞こえない。まあいいや。こんな時間に電話したのは、緊急の要件ができたからなんだけど……。実は、健二さんにバレちゃった」

「健二さん? 健二さん健二さん健二さん……」

「え? まさかとか思うけど、あの小林健二を知らないの?」

「しっしっしっ知ってるに決まってるじゃないですか。何年この世界にいると思ってるんですか。アノコバヤシケンジを知らないわけないでしょ。怒りますよ」

 疑わしいけど、話を続けないといけない。簡単に調べられる時代なのだから問題ないだろう。でも、一緒に仕事をしたことが一度や二度ではないのだけれど、敏腕マネージャーでもあんな有名芸能人を覚えていないものなのだろうか。なぜか少し安心して、そして不覚にもかわいく思ってしまった。

「で、その健二さんにバレちゃった」

「バレた? え? どういうことですか? 撮影中止とかですか?」

 塚谷は頭の回転が速いだけなのか、それとも頭がこんがらがってしまったのかもしれない。……。いや、僕の説明不足もあった。塚谷がどうでもいいことをペラペラと喋るから……とか下らない言い訳をしている場合ではない。

「いや、そのバレたじゃなくて。僕がバス運転士だというのが、バレちゃった……知られちゃった」

「へえー、そうなんですか……って、うそー! 嘘ですよね? それとも冗談んですか? 私をからかってるんでしょ? やっぱりそうですよね。そんな簡単に騙される私ではないですよ。ひろしさんは、まだまだですねえ。それじゃ、バスの仕事頑張ってくださいねー」

 現実逃避をしようとしているのか、本当に冗談だと思っているのか、僕は判断しかねた。それよりも、またまた電話を切られそうだ。意地でも情報共有をして、この危機を一緒に乗り越えて欲しいというのに。なので、僕は諦めない。必死で食らいつく。

「待て待て待ってー。嘘でも冗談でもなくて、本当に知られちゃったんだよ」

 電話は切られていない。だけど、しばし沈黙。僕は耐えられなくなった。

「塚谷君? 聞いてる? もう一度言うけど、健二さんに知られたのは本当だよ」

「……あっ、すいません。一瞬だけ、別世界に行ってたみたいです。なんだか、きれいなお花畑で楽しそうに走り回ってました。そんな事はどうでもいいですね。それよりも、何をしてるんですか。明日、会ったら即説教ですね」

 いやいや、完全な不可抗力なんだけど。時間もないので、ああだこうだと言い争っている場合ではないか。少なくとも、見放されなくて良かった。それに、なんとか助けてくれそうだ。感謝を込めて一応謝っておくか。

「ごめんなさい」

「ごめんですめば警察なんていらないよ、っていう、この前のひろしさんの芝居はなかなか良かったですよ。褒めてあげますね」

「塚谷君と話してると、なんでいつも話が逸れるのかな? もう時間がないから要件を言うね。僕は明日だけだけど、健二さんは今日も撮影があるから……」

「あっ、それで、健二さんを口をきけないくらいにボコボコにして、ついでに記憶も失くなるほどグチャグチャにしてこい、って言ってるんですね?」

「そうそうそう。健二の野郎を半殺しにして、僕の秘密を知ったことを後悔させてやれ……。って、ちがーう!」

「おおー。ひろしさん得意のノリツッコミ。面白くはないけど、冴えてるじゃないですか。その様子なら大丈夫ですね」

 褒められているのか、けなされているのか、よく分からないが、何気に心配してくれていたようだ。なんだかすごく励まされたようで、元気が増えたのが分かった。おかげで脳の回転が早まったのだろう。塚谷の言った言葉が、ふと出てきた。

「ありがとう。それより、塚谷君は、今日は休みだったんだね? 電話までして、さらに健二さんへの口止めをお願いしようとするなんて、悪かったね。今日は……」

「えー、すごくショックです。私の休みを知らないなんて。そのうえ、タダ働きをしろだなんて……」

「あっ、だから今日は。ゆっくり休んでって言おうと……」

「喜んで行ってきまーす。ガチャ。……」

「あれ? 塚谷君?」

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