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路線バス運転士俳優山田ひろしの常識  作者: バスバスキヨキヨ


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小野さんのマネージャーの本田清は人格者

 すごく親近感のある優しい小野さんのマネージャーは、少し話しただけで、なんだか昔からの友人のような感覚があった。年齢は僕よりもずっと上なのは明らかだけど。

「本田さん、来るの早かったですね。ちゃんと安全運転で来てくれました?」

「当たり前だろ、リカ。マネージャーが事故を起こしても、このご時世、小野リカはもちろん映画関係者の人にも迷惑をかけるんだから。それに、事故にならないとしても、自分よがりの乱暴な運転は周囲の優しいドライバーに嫌な思いをさせるんだからさ」

 本田さんは僕の想像通りのような人だった。僕の人を見る目もなかなかだと思わざるを得ない。それとも、本田さんが良い意味で分かりやすい人なのだろうか。とりあえずは、本田さんのおかげで自信がついたので、口に出さずとも本田さんには感謝の念を持っておこう。

「本田さんは仕事もできるし真面目なんですよね。それに、私にとっての東京のお父さんのような存在なの」

「おいおい、そんな歳が離れてないよ。あっ、そんな事よりも、山田さんとマネージャーの……つか……」

「あ、私は塚谷、つかたにみきです。山田ひろし共々、よろしくお願いします」

「本田清です。塚谷さんとはたまに現場で顔を合わせますけど、こうやって話すのは初めてですね。これからも、うちの小野が迷惑をかけますけど、少しでいいので大目に見ていただけたら幸いです」

「大丈夫ですよ。迷惑かけられまくりですけど、私はリカさんが好きなので我慢できます」

「美樹ちゃん、ひどい」

「こらこら、美樹。こういう時は社交辞令でいいんだよ。すいません、今ちょっと寝起きなので大目に見てください」

「ひろしさんまで、私の事を迷惑だと思ってるのね?」

「あっ、違う違う。えっと、なんて言うか、その……」

「ははっ、安心しました。小野にも、こうやって本音で話してくれる芸能人の友人がいてくれて。小野は芸能界で生きていくには、ちょっと精神的に弱いところがあるので、なかなか皆さんと打ち解けられなかったんですよ。これからも仲良くしてやってくださいね」

 仕事中はそんなところを見せない小野さんと、マネージャーの本田さんは、本当の親子のようだった。僕と塚谷のように、小野さんも本田さんと二人で協力して、一つの仕事を成功に導いているのだ。二人の雰囲気から、よく分かる。すぐにこの二人を好きになったことは言うまでもないだろう。

 立ち話がまだまだ続きそうだったが、お腹を空かせた塚谷が露骨に急かすので、すぐに本田さん運転の車で僕たちは出発した。塚谷なりに気を使ったと思おう。本田さんだって暇ではないのだから。

「本田さん、私、これからひろしさんとごはんを食べに行くから、先に帰ってくださいね」

「えっ、ええー。そ、それは、ちょっと……。もう一度よく考えた方がいいかな」

「どうして?」

「だって……あっ、山田さん、ごめんなさいね。その、山田ひろしって主演は全然ないけど、業界内ではものすごく人気があるからね。それで、週刊誌とかのカメラマンが常に狙ってるらしいから、何もなくても二人が一緒にいるところを写真に撮られたら大騒ぎになるよ」

「私は、ひろしさんとなら、別に写真を撮られてもいいかな。まあ、そうは言っても、美樹ちゃんもいるから大丈夫ですよ」

「そうなんだ。それなら、私も行った方がよくないか?」

「うーん……だめー。今日は若い人たちだけで楽しみたいし。それに本田さんは考えすぎよ。そんな人目ばっかり気にして生きてたら、息が詰まるだけよ」

「そうだなあ。山田さん、小野のことをよろしくお願いしますね。だけど、もし小野リカに傷つけるような事をしたら、私は絶対に許しませんよ」

「もう、本田さん。ひろしさんに何て事を言うのよ」

「小野さん、僕なら大丈夫だよ。そして本田さん、小野さんに本田さんのようなマネージャーが付いてくれていて安心しました。ただ一つ気になったのは、週刊誌とかが僕のことを狙ってるって、本当ですか?」

「そうですね。あくまでも噂ですけど、それでもちらほらと耳に入ってきますね。主役をやってもおかしくないのに全然ないのは、何か問題を抱えていて誰も使いたがらないんじゃないかと。じゃあ、その問題を突き止めてやろうとなったんでしょう。だけど、よく考えたら、そもそも問題があれば表舞台に全く出られるわけがないんですよね。なので、結局、山田ひろしは単なる怠け者なのかもという結論に至ったみたいですよ。今言ったのは全部、風の噂ですけど。でも、業界内人気がすごいのは事実だから、気をつけていて損はないですよ。家までは追いかけて来ないでしょうけど、街中やお店にいる時はカメラに注意してもいいかもしれないでしょうね」

 陰でいろいろ言われているのはあまり良い気がしないけど、話題に上がらないよりは良いのだろう。それに、四六時中は狙われていないようだし。だからって油断は禁物かもしれない。これからは、あっちの家に行く時は今まで以上に周りを気にした方が良いだろう。

 その後、撮影拠点までは取り留めのない話に終始しながらも、運転に関する話は一語も出なかった。それはその場を回してくれたのが塚谷というのが大きかったのだろう。そもそも塚谷と小野さんの二人がほとんど話していたし。

 撮影拠点では、まだ作業をしているスタッフが幾らか残っていた。挨拶くらいはするべきなのだろう。だけど、時間に追われているようなので、あえて立ち寄らないようにする。塚谷のお腹が限界に近いのもあった。目立たないように努力して、本田さんの快適で安全運転の車から、すぐに塚谷運転の車に乗り換えて出発した。目的地は、ここから一番近いお好み焼き屋だ。

 ナビも地図も見ずに、10分も走らなかっただろう。塚谷の嗅覚があっさりとお好み焼き屋を見つけ出した。まだ夕方なので空いていたし、変にこそこそすると逆に怪しいと思い、変装もせず塚谷を先頭にして堂々と入っていくのを選んだ。楽しすぎて警戒心を忘れていたのかもしれない。

 店員さんは、小野さんが小野リカだと気づいたが、僕にはこれといった反応を示さなかった。これくらいでは、僕の自尊心がどうこうなるなんてあるはずがないのだけれど。いやらしい笑顔を僕に向ける塚谷に気づかないふりをして、メニュー表をじっくり見て何も気にしていない風を装う努力をしなければならなかったのは、細やかな誤算となった。具材全部乗せのお好み焼き以外に、サイドメニューの焼きそばを注文するという。食べ切れるだろうか。塚谷が喜んで手伝ってくれるのに気づく余裕は、この時点ではなかった。

「ひろしさん、決まりました? 店員さんを呼びますよー」

「あっ、ちょっと待って。僕が呼ぶよ。すいませーん」

 僕の本気のよく通る声に反応して、店員さんがすぐに来てくれた。しっかりと目を見てゆっくりと注文する。なのに、僕がどこの誰なのかは分からなかったようだ。小野さんは少し申し訳なさそうにしている。塚谷は必死で笑うのを堪えているふりをしている。僕は何事もなかったかのように、二人に話しかけた。

「空いてて良かったね。もし混雑していたら、店の中がパニックになっていたかもしれないよ」

「そうですよね。私はそんなに知らなかったんですけど、リカさんてまあまあ有名なんですね?」

「たまに主演で使ってもらってるからかなあ。こんな変装もしないで外に出ることなんてほとんどないから、気づかれることも少なかったんだけど。なんか恥ずかしいよ」

「ひろしさんなんて、伊達メガネ一つで全く気づかれないんですよ。やっぱり主役で出るって大きいのかなあ。あっ、負け惜しみじゃないですけど、ひろしさんにも主演のオファーがないわけではないんですよ」

「やっぱりそうだよね。ちょっとでも見る目があれば、ひろしさん主演で作品を作ってみたいと思うはずだもん。これはお世辞とかじゃなくて、私の本心ですからね、ひろしさん。でも、どうして、そのオファーを断ってるんですか? 作品が自分のイメージと合わないとかですか?」

「いやいや、大物俳優じゃないんだから。そんな理由で断らないよ。主役って、当たり前だけど、ほとんど画面に出てるでしょ? ということは、ほとんど毎日撮影があって、休みがなくなるからかなあ。怠け者だと思われたらそれまでだけど、僕は休みが好きなんだよね。芝居ももちろん好きだけど、どっちもバランスよくあるのが僕の理想だから」

「すごく分かります。私の場合は、休みだからって何かするわけではないんですけど、休みは嬉しいもんですよね。ひろしさんは、休みの日に何かする事があるんですか? あー、もしかしたら、車の運転が上手なのと関係があるんでしょ?」

「あっ、いや……」

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