敵の目論み
小夜子に気配を消す術をかけてもらい、今はヒロが持っているらしい「クオーツ」というアイテムを取り返しに向かう春兎とリナ。
「クオーツ」とはこの霊障の影響を受けやすい霊界にて霊障により不運、災禍、病、その他諸々の障害を受けてしまった人の霊障を取り除きまた免疫をつける、身につけることによって効力を発揮するアイテムである。
そのクオーツは元々小夜子が持っていて、アリスに渡すつもりでいたのだが、メアリアンの奇襲に遭い、それは結局適わず、事もあろうか敵の手に渡ってしまう。
春兎とリナはクオーツを取り返しに、小夜子は自身の魔力を取り戻すための休息を取るが、果たして彼らの運命は?
人は誰一人住んでいないと思われる廃墟の街。
そこには見張り用のロボットが侵入者を警戒しながら右往左往して見張りを続けている。
術で気配を消し、透明の姿となった春兎とリナはその中を見つからないだろうかという思いで何とか地下へと繋がる階段を見つける。
(.くれぐれも音は立てないように、立てたら透明になってるとは言え気付かれてしまうからね)
(あぁ…!)
春兎とリナはその階段を降りる。
カツッ
「!!」
リナ自身靴の音がとても大きく鳴っているように感じ、思わず背が凍ってしまう。
しかし一方の春兎は足音を、全く立てていない。
…というよりどこにいるのかわからない。
(春兎、どこにいるんだ?)
声が無い…。
仕方が無いのでリナは携帯をかけてみることにした。
『マナーモードに設定されています』
携帯にはそう表示されている。
*…そもそも携帯をかけると最も見つかるリスクが高いのだが。
(リナ、いいかい?)
(あ、春兎)
良かった、そこにいたんだ。
リナは安心した。
(携帯はかけちゃ駄目だよ、それと靴は脱いで移動してね!)
春兎はリナを諌める。
(ご…ごめん…)
(良いよ、でも気をつけなきゃ駄目だよ!)
ああ駄目だアタイは…。
春兎は優しく言ったのだがまだ少女のリナにとって何気ない注意でもかなり凹むものがあった。
まあ自分が悪いのは当然か…。
春兎の言う事も腑に落ちないわけではないのでリナは間違いを受け止める。
しかし春兎が見えないのはそれだけでも不安だ。
(ねえ、春兎?)
リナは春兎に遠慮気味に話す。
(何だい?)
(た、互いに確認したいからて、手を繋いでくれないかな?)
見えないとは言え自身のほおはのぼせたように赤くなっているのだろう。
それを言うにはかなりの勇気を要した。
(わかった)
手に温もりが伝わる。
これが春兎さんの手…ゴツゴツしてるけど温かいし、男らしい手…。
(いかんいかん!何考えてんだあたしゃ…!)
リナは首をブンブン振り、乙女心を誤魔化す。
(とりあえずはクオーツを取り返した後アリスって子に渡さないといけないんだよな…小夜子が言うにはアリスって子凄い霊障を浴びていると言ってたけど…どんな感じになってんだ?)
ーーー
アリスはハンから首輪をつけられ、従服させられていた。
「てめえ何教えて貰っている時に欠伸してんだ!」
「元勇者らしい事もまともに出来ないのか!」
八つ当たりのような仕打ちを受け、少しでも反撃しようとすれば…
「何で…こんな事…!」
「文句あるのか?」
アリスにつけられた首輪がキツく締め付けられる。
「あ…くはっ!」
「わかったら偉そうな口聞くんじゃねえ!お前は命握られてるんだからな!」
(負けちゃ駄目よ!こんな日々でも耐えていればきっと幸せになれる日が来る…!)
アリスはこの状況下でも腐る事はなかった。
こんな時、キイ…と木製のドアが開いたかと思うとアリスのライバルであり、天敵でもあるあの三人が来ていた。
「愛してんぜダーリン♪」
「愛してんぜマイハニー♪」
抱き合うハンとメアリアン、特にハンはアリスへのキツイ口調とは一変してメアリアンの前だと甘えたような口調になる。
「ハローアリスちゃん元気だったぁ?」
白々しくアリスを馬鹿にした口調で挨拶を交わす結愛。
「……」
アリスは無口を決め込む。
「なあに黙ってんの?」
結愛がアリスの髪を引っ張り闇に覆われた表情で問いてくる。
「お前とは喋る気無いんだってさ、ハハ!」
ミサがこう言う。
「無理にでもスピークさせてやるよ!!」
結愛はハリセンを取り出し狂ったようにアリスの頭を叩いてくる。
「ハハハ最近結愛もその気になってきてんじゃん!」
そんな時アリスのリミットが切れた。
「いい加減に…!」
アリスは結愛を突き倒す。
その時、また首輪がアリスを苦しめるのだった。
「ごはっおえっ!」
「小屋の中で暴れるんじゃねえよ」
ハンが言う、結愛もさっきまで同じように暴れてたのに彼女にはお咎め無しか。
「ふふダーリンったら悪魔みたいなお人♪」
メアリアンはこう言うもこんな所が素敵と言わんばかりにハンのほおに口づけする。
「へへへ、残念だったなアリス、ハン様はメアリアンと出来てんだよ♪」
「そのミセスメアリアンからハンを盗ろうとするなんていい度胸にも程があるね♪」
共にアリスを罵るミサと結愛、結愛は首を締め付けられ苦しんでいるアリスの頰に更に片足でぐりぐりと踏んづける。
ミサ、結愛にアリスがいじめられていてもハンはそれを楽しそうに眺めるのみ、その時メアリアンが手をパンパンと叩いた。
「さあさ、お遊びはそこまでにして明日は念願のジャバウォックが復活する日だよ、皆机に座りな!」
メアリアンはこう言ってハン、ミサ、結愛を椅子に座らせ、最高のご馳走を手のひらから魔法のように出す。
「うおーっすっげえ!」
メアリアンが机の上に風を切るように手を横に振ってみせると大きな鍋にシチュー、香ばしい香りを放つ七面鳥の肉にケーキが現れ出した。
「ワオイッツグレート♪でもジャバウォックって復活にまだ何年かかかるって言って無かったっけ?」
と結愛。
「ふふふ今日はとてつもない膨大な勇者の怒りを吸い取ったからその点は心配ないよ、ほら♪」
ハンはそう言ってマジックエメラルドを見せる。
それは眩い光を放っていた。
「ワオ♪イッツグレイト♪」
その輝きに結愛もそのエメラルドのように目をキラキラとさせる。
「これであの鬱憤だらけの世界も根絶やしに出来るわけだ!早く見てえなあ、世界の終焉♪」
「ミーもとてもエキサイトしてるよ♪」
元々あちらの世界の住人である筈のミサや結愛も何故か喜んでいる。
(何言ってるの?結愛ちゃん…ミサりん…!もしジャバウォックが復活してしまったら…私達の世界が滅んじゃうんだよ!?)
「とりあえずあんたのお陰でジャバウォックの復活が近くなったぜ、ありがとよ♪」
見下したようにアリスに言うハン。
(そうだ…私が…私がいけないんだ…!)
アリスは自身に最も責任がある事に気付き、深い後悔と懺悔の念に襲われた。
(私が怒りさえしなければ…我慢していればこんな事にならなかったんだ…!)
アリスはただボロボロと涙を流す。
(ごめんなさい…みんな…ごめんなさい…!)
アリスは心の涙の海に溺れてどこまでも堕ちていくが時はそんな寛大では無くジャバウォック復活の日は刻々と迫る…。




