霊界の旅のしるべ
アリスを救出する為に乗っては行けないと言われる徳島の電車に敢えて乗る兎達とリナ。
「ゲッ!?」
徳島の電車の中を見た瞬間、リナは背筋が凍る思いをする。
なんと身体の一部を失って血を垂らしている人物が普通に乗ってきていた。
他にも同様の人、大火傷を負った人、犬や猫の動物なども乗ってきている。
「どうなってんだこりゃ…」
夏兎や秋兎もその様子に唖然とし一般の電車とは一線を画す存在である事は確実とはすぐさま理解した。
「徳島は日本で唯一電車が存在しない県、その徳島に電車が存在しているという事は、それは幽霊の電車、幽霊専用の電車という事になる」
と春兎。
「幽霊専用車両かよ…」
「まあ周りの奴が変な目で見て来たり何も言ってきたりしない分何やら車両とは違うみたいだけどな…」
「この小説にメタな事を言うなよ…」
寧ろ変な目で見ているのは兎達とリナの方だ。
やがて駅員が弁当を運んで来た。
『徳島県の名物をふんだんに使われた幕の内弁当ですよー♪』
「おっ美味そうだな!おばさん、一つください!」
と夏兎は手を上げて言おうとしたが「待て!」と春兎の制止が入った。
「何だよ兄貴…」
「この電車に運ばれてくる弁当には手を出すな…食べるとこの世には戻れなくなる…」
春兎の真剣味を帯びた物言いに皆身震いを起こす。
「ふう…春兎さんがいて良かったぜ…アタイらだけだったら確実に食ってたな…」
「全く…世の中には怖いものが沢山あるんだな…」
深い息を吐いてホッと一安心のリナや秋兎。
黄泉戸喫、有名な話ではイザナミが黄泉のものを食べたが為にこの世に戻れなくなったと言う話があり、それと同様の話にペルセポネの冥界下りがある。
徳島電車の駅弁も食べた時点であの世の人間ですと言う証明が確約されこの世に戻れなくなる。
『次は終点、終点、剣山駅です』
車掌のアナウンスが聞こえる前に外には深い霧が立ち込めて彼岸花などの花が咲き乱れ、三途の川を連想するような世界が広がっているのは目に見えた。
「うひょお!見ろよあれ!!」
それを見て無邪気な子供のように夏兎ははしゃいでいたがその度に「ちょっとは緊張しろよ」と秋兎のツッコミが入ってきたり「たはは…」と苦笑いするリナがいた。
そんなこんなで剣山駅に辿り着き、駅に降りる兎達。
顔の見えない駅員が見回りをしている。
駅から出て徳島の霊界の道を歩く春兎達。
ここで春兎がまた手を横に突き出し、止める。
「どうした春兄?」
「ここから先は悪霊の巣だ、俺が合図するまでは息を殺して進め」
「そういや春兄は霊感強かったな」
「初耳だな、でも頼りになる奴が一人いて本当に助かるよ」
そして息を殺して進む兎達。
(く…苦しい…)
(我慢しろ!悪霊に取り憑かれて運気根こそぎ取られても知らないぞ!)
「よし、もういいぞ!」
ある程度進むと春兎が合図をする。
「ぷはーっ死ぬかと思った!」
ゼエハア息を荒げる、呼吸がこんなに有り難いとは思わなかった。
「このように霊界は何があるかわからない場所なんだ、好奇心であるはずのないものに乗ってみたり憧れたりすると大変なことになる」
「よくわからないけど…わかったぜ!」
そして鬱蒼とした森に入る春兎達。
そんな春兎達を影で見守る者が存在した。
『皆美男美女ばかり…』
『羨ましい…』
『ちょっと悪戯してやろうかしら…』
何やらコソコソ話す声が春兎達の耳に入る。
「なんか変な話し声が聞こえる」
「気にするな、話し声は無視しろ!」
そんな時、春兎達の身の廻りに異変が起こった。
「春兎!大変だ!」
「どうした!??」
リナの一言に春兎が振り向く。
「夏兎と秋兎がいない!!」
「遅かったかっ!話し声に心が行ってしまっては霊の呪いにかかり、はぐれてしまう!」
「ど、どうしたら良いんだアタイら!」
「とりあえず落ち着いて、冷静に動けば合流出来る筈だ!今は出来るだけの事をしよう!」
春兎はリナを落ち着かせ、二人で森の奥を突き進んだ。
一方の夏兎と秋兎。
「あれ?春兄とりなっしーは!?」
「そう言えば…!」
「おおーい!!」
夏兎と秋兎は春兎とリナがいない事に気がつき、大声で呼びかける。
しかし返事が返って来ることは無い。
「うわあぁ俺たちお終いだぁ!!」
「落ち着けナツ兄!落ち着いて行動したら合流出来るはずだ!……多分…」
秋兎は夏兎を落ち着かせて春兎達同様に合流の糸口を探る事にした。




