暗黒の竜
するとハンは笑った。
しかしその笑い方は笑顔とかそう言ったポジティブなものでは無い。
アリスは思った。
私…何かいけない事を言ったの?と。
ハンの笑い方は狂気を含んだ笑い方そのもの。
「ハッハッハッハッハ!」
不気味な笑い方だった。
「最高だよ君、俺はその一言を待っていた!」
「ハン…どう言う事なの?説明して!」
アリスが聞き出したその時、ハンの持っている携帯が鳴り出した。
「丁度いいところに、もしもし♪」
最後にトーンを上げる、誰か親しい人からの電話だろうか?
まさか!?
アリスは思った。
ー携帯の向こう。
『ハン、どう?そっちの様子は?』
「ヒッヒッヒ、聞いてくれよ、これが傑作なんだって!」
ハンは堪えきれず笑い出す。
「この女マジで俺に惚れてやんの!こっちは悪戯のつもりでやってたっつーのによ!」
『あぁ、こっちも大方片付いたよ♪奴らすっかり私に屈服してやんの!やっぱりヒロ様の与えてくれた異能って最高だわ!』
「だよなあ♪」
『でもアンタこのクズ女に惚れたりしないでしょうね!』
「なわけねーだろ!そっちも変な男に捕まったりすんなよな、ま、そんな事はねーだろうけど!」
『ちょっとそれどー言う意味!?』
「言ったままの意味だ!愛してんぜハニー!」
『私も愛してんぜダーリン♪』
ハンは電話を切り、「…と言うわけだ♪」とアリスに言った。
アリスは茫然自失として固まってしまう。
私…騙されてたの?
親切にされたのも…優しく声をかけてくれたのも…みんな…みんな…遊び…なの?
やがて茫然自失と固まっているアリスの体から黒い靄が湧いて出た。
アリスの茫然自失とした表情はみるみる内に鬼の形相に変わり、顔半分が闇に覆われた。
そして全身からは黒いオーラが炎のように舞い、ある程度伸びた髪をなびかせる。
「許せない…!」
アリスは恨みのこもった声を静かに放つ。
「んん?」
ハンはふざけた笑みを浮かべたままアリスに疑問詞を投げかける。
アリスの黒いオーラ、いわゆる殺気は広範囲に広がり、部屋の空間をパープル色の闇に染める。
ブオオオオオオォ!!!
アリスの瞳はギラギラした金色に光り、額から鼻にかけては完全たる黒に覆われ、髪は大蛇のようにたなびき、着ていたメイド服もここから抜けだしたいと言わんばかりにもがき、全身からのオーラによって部屋全体がパープルの闇にそまった。
そしてアリスは放った。
「お前だけは、絶対に許さねえぇ!!!」
その瞬間、ハンはポケットからすかさずあるものを出し、それをアリスに向けて翳した。
「この時を待っていたのだ!出でよ!マジックエメラルド!!」
ハンはアリスとは相反して不敵に笑いながらマジックエメラルドと言う緑色に光る宝石を取り出した。
するとアリスの強烈な殺気はマジックエメラルドによって吸い取られていく。
殺気が吸い取られると共にアリスの全身の力は抜けていき、地面に崩れおちるように床に両手をついた姿勢で項垂れた状態となる。
「な…何…今のは…?」
力を吸い取られ、アリスは洩らす。
「勇者の怒りや絶望は神獣『ジャバウォック』の栄養源となる!我は歴代勇者なるものの怒りと絶望をこのマジックエメラルドで吸い取り、ジャバウォックの復活を促していたのだ!」
「ジャバ…ウォック??」
アリスにはピンと来ず、その神獣なるものが一体何なのかわからなかった。
しかし後にその神獣が非常に危険な悪魔だと言うことをすぐにハンから聞かされる。
「我ら暗黒の民はお前ら光の民から虐げられここに逃げてきた!ジャバウォックはこうした闇の民の怒りを叶えてくれる凶悪兵器、そして復活の為に必要なものはお前達勇者の絶望という餌なのだ!」
つまりは
勇者の絶望と言う餌を喰らい続ける事によってジャバウォックの誕生は近づき、復活してしまった日には闇の民にとっての念願、光の世界の破滅が始まってしまうと言うものである。
太古の昔、ジャバウォックの復活で世界は破滅の危機を迎えた。
ジャバウォックは勇者達によって沈められたが、沈められた時には世界はほぼ全滅し、元に戻すのに100年の月日を要したと言う。
ジャバウォック復活は何としてでも阻止せねばならない。
しかし皮肉な事に、アリスの絶望はたった今吸い取られた。
「私達は闇世界のことなんか知らない!大昔の事なんか蒸し返さないで!」
アリスは怒鳴るがハンは鋭い目線でアリスを睨み、アリスは思わず怯んでしまう。
「お前らはわかるまい、闇の民の、光の民への恨みの深さと言うのはな!」
そして更にハンはアリスめがけて黒い物体を投げだした。
「くっ、何を…!?」
それはアリスの首に巻きつき、そしてひものようなものが現れる.
これは犬の散歩に利用される手綱のようなものであった。
ハンはアリスの首に輪を取り付け、その手綱を握る。
「しばらくお前には働いてもらわねばならぬ事がある、仮に助けを求めたりしてみろ、その首輪はお前の首を締め付けるぞ!こんな風にな!」
ハンは詠唱をしだす。
「ぐっがはっ!」
するとアリスの首を輪が締め付け、アリスは苦痛を覚える。
ハンが詠唱を終わると首輪は元のサイズに戻り、アリスは楽になる。
「ハァハァ…」
アリスは命拾いするも疲れはどっと出てしゃがみこむ。
しかしこの状態にされては本人は溜まったものじゃない。
「さあ付いて来い!」
手綱を引っ張られアリスは立ち上がる。
その首輪は契約者とその使用人にしか目に見えない闇世界のアイテムの一つである 。
ハンはアイテムでアリスの自由を奪い、アリスを連れて何処かに向かおうとした。
(私これからどうなるの?この人達から何をされるの?怖いよ…KEIさん…早く助けに来て!)




