親切なおばさん
結愛は親切なおばさんのいる屋敷へとアリスを誘う。
「わあ…」
その屋敷を一目見たアリスから思わずこの第一声が漏れた。
それは大変大きな屋敷で全く汚れがなく、庭も隅々まで手入れされており銅像が客を迎えるように建っている。
大理石で作られた丸い囲いには綺麗な湧き水が一面を満たしており、その中央には噴水が客を魅惑するように噴いている。
そして空も青く太陽も照っているのでその屋敷が一層輝いて見える。
中にいるおばさんもきっと親切で、丁寧な人なんだろう。
……と屋敷を見たアリスからはまた別の意味で「わあ…」と第一声が出た。
その屋敷は窓ガラスが割れており蔓が家にこびりついている。
草も伸び放題でしばらく誰もいなかったような佇まい。
しかし誰かいるだろう証拠はしっかり残っている。
何故ならゴミが散乱しておりそこから悪臭を放っている。
その中からは大きく言い争うような怒鳴り声やガラスか皿が割れるような金属音が響く。
静かとは言えない空間だが、周りは晴れているのになぜかそこは薄暗いパープル色のオーラのような雲のようなモヤが沸き立っていた。
「さあ入って♪こんな見た目だけど中にいるおばさんはとても良い人だから!」
結愛はお化け屋敷のようなその屋敷になんの抵抗も無く入っていく。
結愛がそう言うならとアリスも結愛に導かれるがままその屋敷のドアのインターホンを鳴らした。
中に入った途端皿がアリス達に飛んで来た。
皿は結愛の頭に的中。
結愛の頭から血が出てきた。
「ゆ、結愛さん大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫♪」
結愛は答えるが血が出ている分大丈夫じゃない。
「全くお前みたいなやつとっとといなくなれば良いのに!!」
部屋の中ではおばさん同士が言い争っていた。
「おばさん来たよー♪」
結愛はそんな中でも親しげにおばさんに声をかける。
「何しに来たんだいお前は!」
おばさん二人はギッとアリス達を睨む。
「ゆ、結愛さんこのおばさん達大丈夫?」
「大丈夫大丈夫♪こう見えても優しい人達だから♪」
アリスにはこのおばさん達が優しい人達には見えなかった。
きっと自分の見る目が無いんだろう。
アリスはそう自分に言い聞かせた。
「この薄汚い泥棒猫め!」
おばさん達は結愛を前のめりに倒し矢継ぎ早に蹴り続ける。
「おばさん達やめて!!」
アリスは結愛をおばさん達から救う。
ギロリとアリスを睨むおばさん達。
その目は狂気に満ちており正常とはとても言えず恐ろしい目つきだった。
アリスは体全体に恐怖を覚え嫌な汗が垂れる。
しかしアリスは手を広げて結愛を守るよう婦人達の前に立ちはだかっていた。
婦人はニタリと笑う。
恐ろしい目つきはそのままに口元だけ上がり、不気味さが一層増す。
「小娘、今この泥棒猫を助けたね?」
アリスはゴクリと生唾を飲み込み目は婦人達に向けているが正直視線を逸らしたい。
しかし今のアリスには婦人達を睨むしか選択肢がなかった。
結愛は怯えながらアリスを見る。
アリスには今の結愛がほっとけなくなった。
「私はどうなっても構いません!その子には手を出さないで!」
アリスは強く言い放つ。
「良く言った!散々こき使ってやるから覚悟しな!!」
婦人達は喧嘩するときのような口調でアリスに放つ。
アリスはこれから地獄の日々が待ち受けていた。
家事は全てアリスがやらなければならず、少しでも婦人達が気に入らないとアリスへのリンチがはじまる。
「あんた掃除も満足に出来ないのかい!!」
「す、すみません!」
矢継ぎ早に蹴られるアリス。
しかしアリスはこれでいいんだと自分に言い聞かせた。
結愛さんが無事でいられるならと献身を忘れないがどこかでわだかまりも覚えていた。
一方の結愛は猫のように可愛がられる。
可愛いがるのをアリスに見せつけている感じだ。
「結愛ちゃんいい子いい子♪」
「えへへー♪」
結愛は上機嫌。
「いつまで見ているんだい?とっとと食器片付けてきな!」
婦人達はアリスを奴隷のように扱った。
クタクタになるも婦人達に言われるがまま家事をこなすアリス。
「チエチエチエ…」
そんな時また笑い声がアリスの耳に入った。
「千恵猫さん!」
アリスは千恵猫がまた現れたのに少し表情が明るくなる。
「アリスはんやつれとるけどいけるで?」
千恵猫は心配そうにアリスを見つめる。
「私なら大丈夫よ」
アリスは答えるが本当は大丈夫じゃない、大丈夫じゃない状況だがすぐには弱音を出せないのがアリスの悪い癖だ。
「嘘言われん!辛そうな顔しとんで!」
千恵猫は叱咤をかける。
フワリとした感触に肌の温かさを感じるアリス。
千恵猫がアリスを優しく抱いていたからだ。
「ほんまアリスはんてあの子によう似とるわ…」
千恵猫はある人物とアリスを投影してしまう。
少なくともその人物とアリスは色々似ているらしい。
アリスの涙線がここで崩壊してしまう。
久々の優しさに触れたアリスは千恵猫に抱かれ、つい嗚咽を漏らしてしまう。
「辛かったら我慢せんと泣き、今まで人一倍頑張ったんやけん…」
「うわあぁっ!千恵猫さん!!」
アリスは千恵猫の胸に顔を預け、これまでの分まで精一杯泣いた。
アリスはここで実感した。
私はここでも独りではないんだと。
ーーー
これまでの分まで泣いて泣いて泣き疲れたアリスは千恵猫に介抱されたままでいた。
その中でアリスは思う。
私のやってた事は間違ってはいないのか、結愛の身代わりとなって結愛は救われてるのかと。
「ねえ千恵猫さん」
「何や?」
アリスの問いに柔らかい口調で返す千恵猫。
「私のやってる事は間違ってはいないんだよね?結愛さんは幸せなんだよね?」
千恵猫は少し表情を歪ませる。
ここから話す事はアリスには酷な内容、しかしこのまま誤魔化しても互いのためにならない。
冷静に考えた後に千恵猫は答えた。
「いや、このままやとあんさんも結愛はんも壊れてまうで」
それを聞いたアリスは胸元に槍を突かれたようなショックを受け、それが表情にも現れる。
「どうして?壊れるのは私だけでいい…なんで結愛さんが…!」
アリスは戸惑う。
自分のやってた事は間違ってたと言うのか…結愛さんは幸せでは無いのかと。
「私はサイコパワー使える、今結愛はんがどんな目に遭っとるか見せたるわ」
千恵猫はアリスに映像を見せた。
今頃結愛が婦人達からどんな仕打ちを受けているかと言うものだ。
結愛は可愛い可愛いと猫なで声で婦人達に言われている。
しかしやっている事は言っている事とまるで似て異なる事だ。
例えば水をぶっかけられたり、残飯の含んだゴミ箱を結愛の頭から逆さにしてふっかけたり、体のあらゆるところをタバコで押し付けたりつねったりして苦痛を与えている。
それでも結愛はヘラヘラして抵抗しない。
猫なで声で可愛いと声をかけてもらえるので可愛がられると思っているようである。
しかし口元は笑って目は死んでいる。
瞳の奥では必死に助けてと訴えている。
アリスは少なくとも結愛を見てそう思った。
「私…結愛さんを助けなきゃ!」
アリスはそう言葉にだした。
「友達思いのいい子やな、そう言うところもあの子にそっくりや、頑張って来いや」
千恵猫は感心するようにアリスを励ます。
「ありがとうございます、千恵猫さん!」
そしてアリスは階段を降りた。
ドアを開けアリスは駆け出した。
アリスは結愛の手を引っ張り、屋敷から出ようとする。
「逃げるつもりかい!?お前達は逃げられないよ!何故なら…」
婦人は何か言いかけていたが今のアリスにはどうでもいい事。
とりあえず二人ともこの屋敷から解放されなければならない。
屋敷から出た途端アリス達の身に何が起こるかなど今のアリス達には想像もつかない事だった。
ーーー
「ハァハァ、ここまで逃げたらあいつも来やしなぃわ…」
走り過ぎて息も絶え絶え、呼吸するだけでも精一杯だ。
それと握っている結愛の手が何かおかしい事に気づく。
人間の手触りではなくこれは、何かの動物のような手触り。
サーッと血の気が引く感覚を覚えて結愛の顔を覗き込んでみるとそれはいつもの見慣れた結愛のとぼけた顔では無かった。
今アリスの、手を握っているのは一匹のブタだった。
「ブヒーッ!ブヒーッ!」
子ブタは何かを言いたそうに鳴いている。
「チエチエチエ…えらい事になってもうた…」
そこにはまた千恵猫が。
「千恵猫さん、何で私…ブタを連れてるの?」
アリスが涙目で千恵猫に聞く。
「二回婦人の家に泊まって二回以上婦人の食事を食べた子はブタになってしまうんよ」
千恵猫は言う。
「そんな…結愛さん…!」
アリスは泣き出す。
「泣かれん、も一回イモムシさんとこに行き、結愛ちゃん元に戻してくれるキノコとかくれるかも知れんけん」
アリスは千恵猫の言う通りブタの姿に変えられた結愛を元に戻す為にイモムシ唯に会いに行った。




