第十四話 北海道襲撃
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午前七時。
北海道上空。
青森県第三班を乗せた、簡易飛行機が札幌へ向かっていた。
札幌まで、残り約一時間。
窓の外には、広大な北海道の街並みが広がっている。
その景色を眺めながら、一人の少年が笑っていた。
青森県第三班リーダー。
げん。
十八歳。
BランクBOOK《BLAST》。
能力――小型爆弾生成。
手のひらに収まる程度の爆弾を生成する能力。
ただし。
その小さな爆弾が持つ威力は、見た目からは想像できない。
げんは窓の外を眺めながら、楽しそうに口元を歪めていた。
「なぁ」
誰も返事をしない。
隊員たちは、げんの顔を見ることすら避けている。
嫌な予感しかしないからだ。
「俺さ」
げんが笑う。
「試したいんだよね」
「……やめろ」
隊員の一人が低い声で言った。
「賢二さんの命令、忘れたのか?」
「余計な戦闘は禁止だ」
「分かってるって」
げんは笑いながら答える。
「でもさ」
右手をゆっくり持ち上げる。
「ちょっとくらい、いいだろ?」
「よくない!」
隊員が声を荒げる。
げんの笑顔が消えた。
「……指図するな」
空気が凍る。
「お前から爆破してやろうか?」
「っ……」
隊員が言葉を失う。
他の隊員たちも黙り込んだ。
げんは再び窓の外を見る。
そして。
「実験だよ」
楽しそうに呟いた。
「どうせ守護水晶を壊したら終わりなんだろ?」
「なら」
右手の上に黒い球体が現れる。
ピンポン玉ほどの大きさ。
「多少の誤差じゃん」
げんが笑った。
《BLAST》
その能力によって生み出された爆弾。
最小出力。
《爆1》。
げんは窓を開けた。
「ほら」
黒い球体を外へ放る。
「どっかーん」
ポイッ。
爆弾が落下していく。
数秒後。
――ドォォォォン!!
地上で巨大な爆発が起きた。
炎が吹き上がる。
建物が崩れ。
瓦礫が周囲へ飛び散った。
一軒の住宅が半壊する。
げんは窓から身を乗り出した。
「……うわ」
目が輝く。
「やっば」
そして。
「すげぇ!」
まるで初めて花火を見た子供のようだった。
だが。
地上では。
人々が逃げ惑っていた。
悲鳴が上がる。
黒煙が空へと昇っていく。
隊員たちの顔から血の気が引いていた。
「おい……」
「何やってんだよ……!」
げんは聞いていない。
「次、これ」
両手を広げる。
その手の中に。
黒い球体が次々と生まれていく。
一つ。
二つ。
五つ。
十個。
「《爆2》」
げんが笑った。
「いくぞー」
十個の爆弾が、一斉に投下される。
落下。
そして。
――ドゴォォォォォォン!!
連続する爆発。
建物が吹き飛ぶ。
道路が砕ける。
炎が広がり。
黒煙が街を覆っていく。
「うはははは!」
げんが腹を抱えて笑った。
「最高!」
「BOOK最高すぎるだろ!」
誰も止められない。
止めようとすれば。
次は自分が爆破される。
それを全員が理解していた。
――その直後。
北海道全域。
すべての小型BOOKへ、緊急通信が入った。
【北海道政府・緊急通達】
【飛行物体による襲撃を確認】
【複数地点で爆発および被害が発生】
【目撃者証言】
【小型飛行機を確認】
【搭乗者全員の手首に赤色ブレスレットを確認】
【他県勢力による侵攻の可能性が高い】
【BOOK所有者は直ちに守護水晶周辺へ集合してください】
【感知班による予測】
【敵主力、札幌到達まで約45分】
通信が終了する。
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その頃。
札幌市内。
陽翔は出発の準備をしていた。
本来なら。
この日は警備任務に就く予定だった。
だが。
状況は変わった。
クロが低く呟く。
『……始まったな』
陽翔は窓の外を見る。
遠くの空。
そこから黒煙が立ち上っていた。
「……本当に来たのか」
『ああ』
クロの声が冷たくなる。
『青森だ』
陽翔は黙って煙を見つめる。
そして。
振り返った。
そこには。
結衣と美月がいた。
美月は不安そうに陽翔を見つめている。
陽翔は二人のもとへ歩いていく。
「結衣」
「うん」
「行ってくる」
結衣は一瞬だけ黙った。
唇を噛みしめる。
それでも。
ゆっくり頷いた。
「……うん」
そして美月を見る。
「美月のことは任せて」
「だから」
結衣は笑った。
「ちゃんと帰ってきてね」
陽翔は何も言わず。
結衣を抱きしめた。
「……陽翔?」
一瞬。
結衣の身体が固まる。
陽翔は強く抱きしめるわけでもない。
ただ。
いつも通りの温度で。
大切な人を抱きしめた。
「絶対、帰ってくる」
結衣は陽翔の胸元に顔を埋める。
そして。
涙をこらえるように笑った。
「……約束だからね」
「ああ」
陽翔は頷いた。
「行ってくる」
玄関を開ける。
陽翔は外へ飛び出した。
その瞬間。
クロが叫ぶ。
『おい!』
「ん?」
『能力を使え!』
陽翔は走りながら首を傾げた。
「でも、コアがもったいなくないか?」
クロが鼻で笑う。
『多少減るだけだ』
『それに、お前のコア量なら問題ない』
『今は一刻を争う』
「……分かった」
陽翔は前を見る。
札幌。
守護水晶。
そして。
迫り来る敵。
陽翔の身体を光が包み込む。
「――オーバードライブ」
次の瞬間。
陽翔の姿が消えた。
地面を蹴った衝撃だけが残る。
陽翔は。
弾丸のように札幌市内を駆け抜けていった。
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大通公園。
北海道の守護水晶前。
すでに多くの人間が集まっていた。
BOOK所有者。
警察。
自衛隊。
政府職員。
その数。
百人以上。
誰もが緊張した表情で周囲を見回している。
やがて。
陽翔も到着した。
「……多いな」
周囲を見渡す。
少し遅れて。
健太。
香恋も到着した。
健太が息を整えながら周囲を見る。
「思ったより集まってるな」
香恋は巨大な守護水晶を見上げた。
「……これを守ればいいんだよね」
「ああ」
陽翔が頷く。
その時。
前方へ一人の男が歩み出た。
政府関係者らしき男。
周囲が静まる。
「集まってくれて感謝する」
男は周囲を見渡した。
「私は、北海道政府防衛隊長」
一拍。
「錬磨だ」
ざわめきが止まる。
錬磨の隣には、一人のBOOK所有者が立っていた。
「現在、彼の能力によって敵の位置を把握している」
男が目を閉じる。
そして。
数秒後。
ゆっくりと口を開いた。
「……敵は六部隊」
周囲がざわつく。
「すべて札幌へ向かっています」
「到達予測は――約二十分」
一気に空気が張り詰める。
錬磨はすぐに続けた。
「時間がない」
その瞬間。
空中に北海道の地図が表示された。
赤い点が六つ。
札幌を囲むように。
こちらへ近づいている。
「BOOK所有者を六班に分ける」
「各班、敵一部隊を迎撃してくれ」
「理想は各個撃破」
「だが」
錬磨の表情が険しくなる。
「それが不可能なら足止めでいい」
「敵を一人でも多く減らせ」
「何より」
錬磨が守護水晶を見る。
「守護水晶への到達を遅らせろ」
そして。
「なお」
「十名は守護水晶防衛班として残る」
「迎撃を突破した敵は、ここで止める」
「何があっても」
「この水晶だけは守りきる」
誰も口を開かない。
やがて。
班分けが発表された。
「第三区域迎撃班」
「陽翔」
「健太」
「香恋」
「その他四名」
陽翔たち七人が顔を見合わせる。
錬磨が続ける。
「各班、持ち場へ移動してくれ」
七人は第三区域へ向かって歩き出した。
しばらくして。
大柄な男が口を開く。
「俺から自己紹介する」
男の手に巨大な盾が現れた。
「DランクBOOK《SHIELD》」
「能力は盾の生成」
「物理攻撃なら防げます」
続いて。
短髪の女性。
「DランクBOOK《HEAL》」
「軽傷程度なら治療できます」
眼鏡の男が続く。
「CランクBOOK《SONAR》」
「能力は索敵」
「他県のBOOK所有者だけを感知できます」
「感知した相手は発光して見えます」
最後に。
槍を持った男が前へ出た。
「DランクBOOK《LANCER》」
「槍を生成できます」
「そこそこ戦えます」
健太が剣を抜いた。
「俺は剣士だ」
「前線は任せてくれ」
香恋も続く。
「私は風魔法」
「援護する」
そして。
陽翔。
「俺は加速系です」
「近距離戦ならできます」
《SONAR》の男が頷いた。
「十分だな」
「前衛が三人」
「盾役」
「回復役」
「索敵」
「バランスは悪くない」
健太が笑う。
「よし」
剣を握り直す。
「やるしかないな」
一瞬。
張り詰めていた空気が緩んだ。
だが。
次の瞬間。
《SONAR》の男が顔を上げた。
「……敵反応」
全員の表情が変わる。
「近い」
「こちらへ向かっています」
陽翔が前を見る。
その直後。
――ドォォォン!!
目の前で爆発が起きた。
地面が揺れる。
アスファルトが吹き飛ぶ。
土煙が一気に広がる。
「なっ……!」
盾を持った男が構える。
香恋も身構える。
陽翔は煙の向こうを見つめた。
やがて。
煙の中から。
一人の男が歩いてくる。
そして。
「にしししし……」
楽しそうに笑った。
「オレが一番乗り」
男が両手を広げる。
その手の中に。
黒い球体がいくつも浮かび上がった。
「遊ぼうぜ」
陽翔の表情が変わる。
健太が剣を構える。
香恋が風を纏う。
そして。
煙の中から完全に姿を現した男。
青森県第三班。
そのリーダー。
げん。
十八歳。
BランクBOOK《BLAST》所有者。
最悪の敵が。
最初に現れた。




