第十五話 狂人
第三班リーダー。
げん。
その男を見つめながら、クロが低く呟いた。
『おい』
『敵の能力は分かるか』
陽翔は顔をしかめる。
「分かるわけないだろ!」
「今、会ったばっかだぞ!」
『なら予想しろ』
『そして、TRACEの準備をしておけ』
クロの声が鋭くなる。
『能力は、発動を見なければ再現できない』
『奴から目を離すな』
陽翔は、先ほどの爆発を思い出した。
吹き飛んだ地面。
抉れたアスファルト。
そして。
その中心に立っていた、目の前の男。
「……爆破系か」
『そうだ』
クロが即答する。
陽翔はすぐに周囲へ叫んだ。
「おそらく爆破系能力です!」
「シールド、お願いします!」
その声に反応し、大柄な男が前へ出る。
「任せろ!」
男が両手を前へ突き出した。
「BランクBOOK」
「能力:巨大な光の盾を展開する」
「──《ビッグシールド》!」
ドンッ!
巨大な光の盾が、陽翔たちの前に出現した。
それを見たげんは。
口元を歪めた。
「そんなもんで――」
ニヤリ。
「止められるわけないだろ!!」
右手を振る。
「──《爆1》」
黒い球体が一直線に飛んだ。
「来る!」
次の瞬間。
ドォォン!!
爆弾が盾へ直撃した。
「ぐっ……!」
光の盾は耐えた。
だが。
衝撃までは完全には消せない。
「うわぁぁっ!!」
盾役の身体が吹き飛び、地面を転がった。
「今だ!」
健太が踏み込む。
槍使いも同時に駆け出した。
「行くぞ!」
二人が一気に距離を詰める。
しかし。
げんは舌打ちした。
「ちっ」
そして。
「出ろ、お前ら」
後方にいた六人の兵士が、一斉に前へ出る。
刀。
盾。
槍。
それぞれが健太たちの前に立ちはだかった。
キィン!!
剣と刀が激しくぶつかる。
槍使いも、盾を構えた男に行く手を阻まれた。
「邪魔だ!」
「通すかよ!」
その隙に。
げんが右手を掲げた。
「──《爆2》」
黒い球体が、次々と空中へ現れる。
一つ。
二つ。
三つ。
その数は。
十。
「ほれぇ!!」
一斉に投げ放つ。
ドゴォォォォォン!!
爆発。
また爆発。
連続する爆音が、戦場を飲み込んでいく。
「ぐぁぁぁ!!」
健太が吹き飛ぶ。
槍使いも地面を転がる。
そして。
爆風は敵味方の区別なく襲った。
げんの後ろにいた兵士たちまで、次々と地面へ叩きつけられる。
「がっ……!」
陽翔は目を見開いた。
「お前……!」
「味方まで巻き込む気か!」
げんは。
不思議そうに首を傾げた。
「は?」
そして。
笑った。
「味方?」
肩を震わせる。
「そんなもんいるかよ」
陽翔の表情が固まった。
(……イカれてる)
こいつは。
仲間を仲間だと思っていない。
ただの駒。
自分が勝つためなら、誰が巻き込まれようと関係ない。
その瞬間。
陽翔は地面を蹴った。
「オーバードライブ!!」
世界が一瞬、遅くなる。
周囲の動きが引き伸ばされる。
陽翔だけが、その中を駆け抜けた。
「速っ!」
げんの目が見開かれる。
咄嗟に右手を振った。
「──《爆4》!」
現れたのは。
拳ほどしかない、小さな黒い爆弾。
げんはそれを。
自分と陽翔の間へ投げ込んだ。
次の瞬間。
ドォォォン!!
爆炎が二人を包み込んだ。
陽翔の身体が吹き飛ぶ。
げんも地面を転がった。
「いてぇ……」
げんは笑いながら立ち上がる。
「さすがに爆4は効くな」
そして。
後方へ振り返った。
「おい」
「女」
後ろに隠れていた回復役の少女へ顎をしゃくる。
「ヒールしろ」
少女は震えながら頷いた。
「は、はい……」
少女がげんへ手を伸ばす。
淡い緑色の光が広がった。
「──《ヒール》」
しかし。
光は途中で消えた。
「……!」
少女が顔を青ざめさせる。
「コア切れ……」
げんの表情が変わった。
「ちっ」
「使えねぇ」
「もうコア切れかよ」
「何のためにお前だけ残してたと思ってんだ」
少女は何も言えず、俯いた。
その瞬間。
クロの声が響く。
『TRACEしろ!!』
陽翔は爆煙の中で、少女を見つめた。
「TRACE!!」
黒いBOOKが微かに震える。
次の瞬間。
大量の情報が、陽翔の頭へ流れ込んだ。
《解析完了》
《Dランクスキル》
《ヒール》
陽翔の身体を淡い緑色の光が包み込む。
裂けた皮膚。
火傷。
打撲。
それらの傷が、ゆっくりと塞がっていく。
香恋が息を呑んだ。
「陽翔君……!」
「なんで……」
「傷が、治ってるの……?」
陽翔は自分の手を見つめる。
そして。
ゆっくりと立ち上がった。
視線の先には。
げん。
陽翔は、まっすぐに男を見据えた。
そして香恋を見る。
「香恋」
「今は、あいつを倒すぞ」
香恋は一瞬だけ驚いた。
だが。
すぐに頷く。
「うん」
二人は同時に駆け出した。
げんは口元を歪める。
「また突っ込んでくるの?」
「学習しろよ」
右手を前へ突き出す。
「──《爆1》」
黒い爆弾が一直線に飛んでくる。
「避けろ!」
陽翔と香恋が左右へ飛ぶ。
その瞬間。
げんが笑った。
「引っかかった」
「──《爆3》」
ドゴォォォォン!!
二人の足元が同時に爆発した。
「うあぁっ!」
「きゃあっ!」
身体が宙へ舞う。
そして。
地面へ叩きつけられた。
土煙が辺りを包む。
げんは腹を抱えて笑った。
「にしししし!」
「爆1で避けさせて」
「爆3で仕留める」
「最高じゃん!」
肩で息をしながら。
右手を上げる。
「さて」
「終わりに――」
しかし。
何も起きない。
「……あ?」
げんが眉をひそめる。
もう一度。
「出ろ」
それでも。
何も起きない。
三度目。
ようやく。
小さな爆弾が一つだけ現れた。
げんは舌打ちする。
「ちっ」
「コア切れか」
「上手く能力が出ねぇ」
それでも。
口元には笑みが浮かんでいた。
「まぁいい」
「最後の一発くらいなら撃てる」
爆煙の中。
クロが叫ぶ。
『おい!』
『しっかりしろ!』
『奴のコアは限界だ!!』
陽翔はゆっくりと立ち上がった。
額から血が流れている。
腕も震えていた。
それでも。
視線だけは、げんから逸らさない。
隣では。
香恋も立ち上がった。
「陽翔君……!」
陽翔は香恋を見る。
「香恋」
「動けるか?」
香恋は息を整えながら頷いた。
「うん」
「まだ動ける」
陽翔は静かに言った。
「俺が合図したら」
「風で、あの爆弾をあいつの足元まで飛ばしてくれ」
香恋は目を見開く。
そして。
陽翔の狙いを理解した。
「……分かった」
「任せて」
げんは最後の爆弾を握りしめる。
「にししし」
「終わりだな」
陽翔は静かに構えた。
「いや」
「終わるのは、お前だ」
げんの笑みが止まる。
「オレが終わる?」
「はったり言うな!!」
右手を振る。
「──《爆1》!」
黒い小型爆弾が、陽翔へ向かって一直線に飛んでくる。
陽翔は。
避けなかった。
真正面から走る。
「香恋!」
「今だ!!」
香恋が両手を前へ突き出した。
「──《ウィンド》!!」
突風が吹き荒れる。
爆弾の軌道が大きく逸れた。
「なっ――!?」
げんの目が見開かれる。
「お前……!」
「ヒールじゃ……」
爆弾は。
そのまま。
げんの足元へ転がった。
「ま、待て……!」
ドォォォォン!!!
爆炎がげんを飲み込む。
「ぐああああっ!!」
身体が吹き飛ぶ。
地面を何度も転がる。
土煙の中。
げんは。
それでも立ち上がろうとした。
「に……しし……」
「まだ……」
その瞬間。
陽翔が地面を蹴る。
「オーバードライブ!!」
一瞬で距離を詰める。
げんが顔を上げた。
しかし。
もう遅い。
「終わりだ!!」
渾身の右拳。
ドゴォッ!!
拳がげんの顔面を捉える。
げんの身体が宙を舞う。
そして。
何度も地面を転がり――
動かなくなった。
静寂。
戦場に。
一瞬だけ静寂が訪れた。
香恋が、その場に座り込む。
「勝っ……た?」
陽翔は大きく息を吐いた。
「……勝った」
そして。
すぐに香恋へ駆け寄る。
「香恋!」
「大丈夫か?」
香恋は苦笑しながら頷いた。
「うん」
「ボロボロだけど……」
「なんとか」
陽翔は小さく笑った。
「よかった」
続いて。
健太のもとへ向かう。
「健太!」
健太は地面に寝転んだまま、苦笑した。
「いてぇ……」
「ごめん」
「何もできなかった」
その時だった。
後方に身を隠していたヒールの少女が。
ゆっくりと立ち上がった。
震える手を前へ伸ばす。
「……ヒール」
淡い緑色の光が広がった。
陽翔。
健太。
香恋。
槍使い。
盾役。
傷ついた身体を、少しずつ癒していく。
しかし。
光は途中で消えた。
少女が膝をつく。
「はぁ……」
「コアが……」
完全な回復には至らない。
それでも。
立ち上がれる程度まで回復しただけで十分だった。
盾役が苦笑する。
「十分だ」
槍使いも、槍を支えにしながら立ち上がる。
「助かった」
その一方。
《SONAR》の男は、足を震わせていた。
「……無理だ」
「身体が動かない」
爆発。
轟音。
何度も死を覚悟した瞬間。
その恐怖が。
まだ身体から抜けていなかった。
誰も。
彼を責めなかった。
陽翔は健太と香恋を見る。
その時。
クロが静かに言った。
『休む時間はない』
『敵はまだ残っている』
『守護水晶へ向かえ』
陽翔は頷いた。
「行こう」
健太は落ちていた剣を拾い上げる。
「次は負けねぇ」
陽翔。
香恋。
健太。
三人は同時に駆け出した。
目指すのは。
守護水晶。
その先に待つ。
本当の戦場へ。




