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原稿と修羅場

 修羅場である。

 締切は翌日、なのに目の前にはほとんど真っ白な原稿。


「こちらベタ終わりましたァ!」

「たしかに人手欲しいですねこれ」


 締切というのはいつも決まってやってくる。

 

「すまない……。手を煩わせてしまって」

「いえいえ。大丈夫ですよ。こちら背景終わりました〜」

「そんな。怒ってもいいんですよ芥屋先生。連載も終えて一休みしていたところを無理やり駆り出してしまったんですから」

「申し訳ない申し訳ない……」


 机に向かっているのは週間少年ジャッツで"BAKAHO"という漫画を連載している万田 曼荼羅先生だ。

 本来なら原稿は出来ていたらしいのだが、今日コーヒーをこぼしてしまって全部破いてしまったらしい。休載にするにも代わりの原稿がないらしく、急いで終わらせようとなったのだとか。


 それでアシスタント、万田先生の編集の伊織さん、暇だった喜谷さんと私が全力で原稿を仕上げていた。


「でも現役の漫画家先生がいてよかったです! 俺らよりだいぶ早え!」

「私は速筆ですから」

「定規使わずに真っ直ぐ線を引けるからね」

「すっげ……」

「皆さーん! お茶を淹れましたー!」


 お茶を飲み干してまた原稿に。

 私は背景担当である。


「残り2時間!」

「うそぉ!?」

「いいからやれ! 芥屋先生駆り出して間に合いませんでしたはマジで洒落にならんぞ!」


 私はペンを置く。


「背景全部完了」

「はっっや!?」

「ベタ塗りとかいきますね」

「アナログなんて久しぶりでとても気分が高まってます」


 万田先生は今の時代に珍しくアナログで描いている。

 機械音痴とかそういうわけではなく、アナログのほうが面白いらしい。


「二日あれば芥屋先生は一人でもアナログでも仕上げられるくらいには早いからね」

「岸辺露伴かよ……」

「岸辺露伴に憧れて漫画家になったようなものですから」


 刻々と時間は過ぎ去っていく。

 そして。


「しゅーーーりょーーーー!」

「よし! 今から全力で持っていく! お疲れ皆の衆!」

「お疲れ様でーーす」

「もうこんな時間か……。僕も明日朝から打ち合わせがあるから失礼するよ」


 喜谷さんが帰っていく。

 

「お手を煩わせて申し訳ございませーーん芥屋先生……。僕がドジなばかりに……」

「いえいえ。暇していたので」


 万田先生は机に突っ伏していた。

 限界まで追い込んでいた体力が、緊張感からやっと解放されて糸が切れたのだろう。


「あ、芥屋先生! お疲れのとこ申し訳ないのですが!」

「うん?」

「わ、わわ、私の漫画を見てみてください!」

「いいですよ」


 アシスタントの子が漫画を描いたらしい。

 私は漫画を眺めてみる。ジャンルはラブコメみたいだ。

 つらつらと眺めていく。


「お、いいんじゃないですか?」

「本当ですか!?」

「私は好きです。ただ……少しコマ割りが気になりますね。BAKAHOに引っ張られてるのか大ゴマが多いと思います」

「そ、そうですか?」

「BAKAHOはギャグ漫画ですしインパクトを重視していろいろ乱用してますがラブコメにはこのコマ割りは合わないかな……」

「あ、ありがとうございます!」


 アシスタントの子は漫画を受け取り、直し始めていた。


「ん?」


 私は部屋を見渡してみると、壁にVRの機械がかけられている。


「曼荼羅先生もゲームするんですか?」

「え? はい! します! 芥屋先生もですか!?」

「最近始めたんです」

「そうですかそうですか。えと、今度やりませんか? 明日でも……」

「いいですよ。初心者なのでよろしくお願いします」

「はい!」


 曼荼羅先生もやってるらしい。

 人気なんだなゲームって。











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