34.守ると言うこと 【Side レイ】
双子の感応での会話は『』を使用しています。
応接室の中でカオスな嵐が吹き荒れている頃。
応接室の扉の前で控えているレイと、ワン氏の護衛の一人。
応接室は高位の人間が招かれることも考慮して機密性が高い設計になっているので、扉の側とはいえ外で控えている二人には中の話は聞こえていない。
とはいえ、レイはメイからの感応で、リアルタイムに中の様子を知ることが出来ているのだが。
自分たちの生家についてマリーナ様が気にして下さっているというのを聞いて、改めて素晴らしい主人に仕えることが出来た幸せを、二人で共有していた。
しかし、同時にワン氏とともに室内にいる護衛が、リン家の名や我々が双子であることに良くない反応を示していることも、メイは気付いており注意を促していた。
『レイ、こちらにいる護衛。リン家の名前と双子に変な反応をしているわ。』
『メイ、了解。こちらの護衛も似たようなものね。主人から私たちの情報を聞いているみたい。今のところ動きは無いけれど、敵意は感じるわ。』
『そう…。何かあれば、すぐに呼んでちょうだい。くれぐれも一人で無茶はしないで。怪我をするとマリーナ様が悲しむもの。』
『そうね。こんな見かけ倒しの奴らに遅れを取ることはないけれど、かすり傷でも負えばマリーナ様が心配するものね。』
『ええ。マリーナ様も商人が連れている護衛の不穏な気配には気付いていらっしゃるから、室内の事は心配ないわ。自分の安全を第一にして。』
『ええ。メイ、分かったわ。そちらは頼むわね。』
感応での会話を切り上げたレイは、先ほどの会話を思い出して小さく笑った。
自分の安全を第一に…なんて、マリーナ様に仕えるまでは二人とも考えた事も無かった。
だけど、マリーナ様は「自分を大事に出来ないものは何も守れない」と教えてくれた。
「私を守るのならまずは自分を大事にしなさい。貴方たちが怪我をしたら誰が私を守ると言うの?」
「貴方たちが怪我をしたら、私も動揺して逃げるのに失敗してしまうかもしれないわ。」
「だから、貴方たちが怪我をせずに自分を大事にすることは、私を一番高確率で守ることに繋がるわ。」
「そして、自分が怪我をしないためには相手よりも確実に強くなければならない。」
「私の要求は決して易しいものではないわ。それでも私は貴方たちに側にいて欲しい。」
「私のために強くなって。そして、私のために自分を大事にしてちょうだい。」
それまでは、私たちの心を救って下さったマリーナ様を、身を挺してでも守ろうとメイと誓っていた。
でも、それはなんと独り善がりで、傲慢な考え方だったのかとマリーナ様の言葉で気付かされた。
私たちが身を挺したあと無防備なマリーナ様が安全である保証がどこにある?
もちろん、力及ばずにどうしようも無い場合もあるかもしれない。
でも、最初からその考えで守りにつくことは、最後まで守り抜くことには繋がらないのだと気付いて愕然としたのだ。
それからは、メイとも真剣に話し合い、お互いをさらに高めるべく侍女としての動きも、護衛としての鍛錬も、これまで以上に力を入れて、私たちらしい戦い方を模索してきた。
元々が武家の出身で、生家では父や兄から家門に伝わる武術を習っていた。
武器を使わずに、相手の力を利用する体術で、マリーナ様にお聞かせしたところ『アイキドー』という外国の武術に似ていると仰っていた。
生家の武術を基本にした格闘術を自分たちに合う型に工夫したものを、ひたすら磨き上げてきた。
今回の旅に同行している海兵隊のメンバーにも手伝ってもらい、日々の鍛錬に加えて、船上のようなスペースが限られた場所での動きについても学ばせて貰った。
私たちが戦い方の根本を変えたエピソードについて考えていた、その時。
『レイ。秘密保持契約が絡む秘匿情報の確認のために、室内の護衛が外に出されるわ。必要な手配をしたら、私とフリオも出るけど、それまで相手の護衛二人に、貴方一人だから気をつけて。』
『了解。』
その直後、部屋のドアが開き、憮然とした表情の護衛が外に出てきた。
明らかに外に出されたことが不服だと顔に書いてあるが、こんなに感情を表に出していて護衛が務まるのかと疑問に感じた。
<どうした。>
<秘密保持契約が必要な秘匿情報とやらの話しがあるんだとよ。護衛を追い出すとか信じられないな。これだから商人は考えが甘いんだ。>
<まあ、そういうなって。金払いの良い雇い主なんだからさ。それに、中で何かあっても俺たちのせいじゃないしな。>
<それもそうだな!むしろ何かあった方が敵討ちって事で、ストレス発散出来ていいんじゃないか?くくく。>
雇い主が殺されるかもしれない状況を笑い、ストレス発散が出来ると揶揄する彼らを、同じ護衛として信じられない思いでみていた。
そんな私の視線にようやく気付いたのか、二人がこちらを見た。
<なんだその目は。冗談も通じないのか、これだから女は嫌なんだ。しかもリン家の双子だって言うじゃ無いか。何故お前らのような穢らわしい存在が、生きているのか信じられんな。東部のリン家も落ちぶれたもんだ。>
私の視線が気にくわなかったのだろう。
部屋の中から出てきた護衛が、生家にいるときによく親戚から感じたのと同じ視線をこちらに向けた。
<………。>
これまでにも同じような言葉や視線はたくさん浴びせられてきた。
生家では大事にされていはいたが、隠されて育てられていることで、自分たちの存在が家の迷惑になっていることは、子供ながらに感じていた。
たまに来る母の実家の人間から、母が「何てものを産んだんだ!」と責められている声を聞いたこともある。
自分たちは生まれてきてはいけない存在だったのでは無いかと、メイと二人で悩んだことも少なくない…。
しかもある程度の年齢になると、それなりに見られる見目だったのが災いした。
欲の発散に使ってやるから寄越せと堂々と言ってくる親戚の者。
噂を聞いた近隣の有力者も、双子なら日陰に囲っても文句は言われまいと、妾に差し出すよう言ってくるようになった。
そういった声が抑えきれなくなり、父と兄は苦汁の決断として、懇意にしていた商人を介して、双子に偏見の無い国外に出すことを決めたのだ。
始めは、都市部で商人に匿って貰うことも検討した。
しかし、国内では親族が迎えに来たと言われてしまえば引き渡さざるを得ない。
しかも、その後の扱いは家の中の事として、外からは手が出せなくなってしまう。
そんな事態を避けるための国外脱出だった。
外国では双子に対しての偏見はないものの、女性に対する偏見はどこもあまり変わりがなかった。
厳しい日々は続いたが、それでも双子であることを隠す必要も、隠れて暮らす必要もない生活は自由で、生きていることを実感出来る毎日だった。
悲しい思い出の多い生家だが、偏見に囚われることなく、双子を育ててくれた両親や兄には感謝をしており、いつか恩返しをしたいと強く思っている。
そんな大事な家を馬鹿にされてカチンとは来たが、いまはマリーナ様がいらっしゃる部屋の扉を守る事が優先なのだ。
念のため、感応で『馬鹿が絡んできたわ』とメイに報告するだけで、完全に無視を決め込んだ。
<おい!俺様を無視するな!!俺達は、西部の武家の長であるソウ家の所縁の人間だぞ!東部のリン家などという落ち目の武家の奴らは、這いつくばって礼をするべき立場なんだ。>
<………。>
『メイ、こいつら西部のソウ家の所縁の人間らしいよ。なんか喚いてる。』
『へ~ソウ家ね。てか、その言い方だと本家の人間では無さそうね。遠縁だけど、ソウ家の名前を都合良く使ってるって所かしらね。』
『ええ。多分そうだと思う。言ってることが完全に「虎の威を借る狐」だもの。』
『あ!マリーナ様に教えて頂いた、外国の格言ね。まさに今の状態にぴったりだわ!』
<無視するのも、いい加減にしろ!!>
メイと感応で話していると、無視されたことに逆上した相手が、こちらの胸ぐらを掴んで怒鳴ってきた。
<……××。>
小声で「離せ」と言ったが、相手には聞こえ無かったようだ。
むしろ、こちらがびびって何も言えないと思ったのか、さらに調子に乗ったようだ。
<本当は双子など嫌だが、辛うじて見られる見目をしているからな、二人とも俺たちの夜の相手をさせてやろう。光栄に思えよ!>
<離せと言ったのが聞こえなかったのかしら。>
<はあ!?離せと言われて離す馬鹿はいねー……!!!!>
相手が言い終わるのを待たずに、胸ぐらを掴んでいた手を基点に身体を反転させ、動きの反動を使って相手を地面に引き倒した。
その後は、腕の関節を決めて、相手を拘束する。
<< ……は!? >>
ソウ家の二人は何が起こったのか分かっていないのだろう、呆然としている。
その間に、部屋の扉が開き、中からメイとフリオが静かに出てきた。
呆然としていた二人だったが、拘束されていない方の護衛がハッと状況に気付くやいなや、逆上して一人を床に組み伏せているレイに掴みかかろうとした。
しかし、すでにメイとフリオが彼の背後にいるため、それは叶わず。
あっという間に、同じように拘束されるはめになった。
その後、大事な話が終わって応接室を出てきた商人に、状況を詳しく説明して引き渡した。
商人は別の護衛をすぐに手配し、彼らをどこかに連れて行ったが、彼らがその後どうなったのかは分からない。
マリーナ様からは怪我を心配されたが、「「かすり傷一つありません」」と報告すると、「さすが私の護衛達だわ」と褒めていただいた。
ああ、私たちはこの方を守るために生きているんだ。
常にこの方を守れる自分でありたいと、改めてお互いに誓った二人だった。
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